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ビジネスパーソンに人気「本の要約サイト」は出版業界の味方なのか?

2019年07月04日 06時00分更新

文● 大来 俊(ダイヤモンド・オンライン

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数あるビジネス書要約サービスの中でもトップを走る「flier(フライヤー)」。ネタバレになって本の売れ行きを邪魔しているのかと思いきや、出版社の販促にも寄与しているという。

「本を読まずして内容を知りたい」
急増するニーズ

ビジネス書の要約サイトが人気です
すきま時間に話題のビジネス書の要約文をスマホでサッと読める。こうして手軽に有益なネタを仕込めることが人気の秘訣である

 日々、厳しい競争にさらされている現代のビジネスパーソンにとって重要なのは、より多くの有益なネタ、ノウハウを自分の頭の中に仕込むこと。そんなインプットに最適な手段の1つが、適切なビジネス書を読むことだ。しかし、ビジネス書を読破するには数時間はかかり、多忙を極める中でその時間を確保できないことも現実だ。

 そうした中、前年の2倍に上る約38万人の会員を集め、ビジネスパーソンから人気を集めているサービスがある。それが、ビジネス書の“要約文”をアプリやサイトで手軽に読むことができる「flier(フライヤー)」だ。

 新刊のビジネス書を中心に、約4000字にまとめて10分程度で読める要約文を、毎日アプリやサイト上にアップデートしている。アーカイブには、2013年のサービス開始以来書かれてきた、新刊、話題のベストセラー、名著のビジネス書など合計約1800冊もの要約文を所蔵。月額500円のシルバー会員は毎月5冊まで閲覧可能で、同2000円のゴールド会員は全ての要約文が読み放題だ。

 だが、他にも似たようなサービスを運営しているサイトは複数ある。それだけ「本を読まずして、内容を知りたい」ニーズは高く、供給側もビジネスチャンスと捉えて、参入と競争が激しくなっているわけだ。

フライヤーが同業他社を
引き離している理由

 では、フライヤーとそれらのサイトとの違いは何かといえば、1つは、「書評(レビュー)」ではなく「要約」を提供している点だ。書評は読み手の主観が入るが、要約はあくまで著者の主張や考え方、ノウハウを忠実にまとめたもの。読者はそのビジネス書のエッセンスを的確に得ることができる。

 さらに、数ある要約サイト・サービスと一線を画するのが、要約文のクオリティの高さだ。フライヤーでは、経営者や出版業界関係者、大学教授で構成される選書委員会を設け、月2回開催される中で、「第一線で活躍するビジネスパーソンが今読むべき本」を、書店の売れ行き動向やユーザーのリクエストを踏まえて選定。そうして選ばれた本を、経験豊富な外部ライター約50人に得意分野に応じて割り振り、精読して要約文を作成させる。

 その際も単に内容を羅列するのではなく、印象的なシーンやエピソードはできるだけそのまま盛り込み、“読み物”としての完成度を高める工夫を施している。そして、出来上がった文章はフライヤー社内で出版編集経験者が本を精読した上で、推敲を重ねる。

 ただし、社内チェックが終わった要約文もそのまま出すわけではない。実は、フライヤーではダイヤモンド社や東洋経済新報社、日経BP社など180社の出版社と提携。著者と出版社の担当編集者に内容の整合性の最終確認を依頼し、許可を得た上で公開しているのだ。

 だから、その要約文は文章がこなれていて、しかも「面白い」。筆者も実際にいくつかの要約文に目を通してみたが、短時間で内容がしっかり把握できるだけでなく、なかなかの読み応えで、最後まで興味深く文字を追うことができた。こうした高水準の要約文がビジネスパーソンを引き付け、フライヤーは2位以下の同業他社を大きく引き離し、業界を牽引している。

“ネタバレ”でも
売り上げ4割増の販促効果

 ただ、要約文は内容がわかってしまう、いわゆる「ネタバレ」につながるため、出版社にとっては好ましくない存在のはずだ。事実、2013年のサービス開始に向けて協力を得るために出版社を行脚した時は、大半から門前払いされた。

「書評ではなく要約を提供するサービスなので、出版社の許諾契約は必須。だが、要約文で接点を持つことが書籍の購入につながり、出版社にもメリットがあると言っても理解してもらえない。コンテンツがないためサービスを始められず、会員も集められない状況が数ヵ月続いた」と、大賀康史社長は振り返る。

 しかし、音楽業界では動画サイトで楽曲の無料視聴が常態化している。その上で、視聴者は気に入れば購入するし、無料動画が販促となってファンの裾野が広がり、ライブの来場者が増加するなど、他のビジネスでマネタイズして成功するケースも増えている。縮小が続く出版業界も、何らかの新しいビジネスモデルが必要だ。

 大賀社長は、拒絶にあっても粘り強く出版社への説得を続けた。そうした中、首を縦に振る人物が現れた。フォレスト出版の太田宏社長だ。「太田社長には、『スマホ全盛の時代となり、本を読む時間は他のメディアやエンタメに奪われている。それを取り戻すきっかけとなるサービス』と理解していただき、提携第1号となった。まぎれもなく創業期の恩人」(大賀社長)。

未来屋書店葛西店に設置された「フライヤー棚」。要約文を提供することで、本の売り上げがアップしているという

 その後はフォレスト出版との提携を前面に出して他の出版社と交渉し、1社、また1社と提携先が増加。会員数も増えていき、サービスが軌道に乗っていった。今では、要約閲覧者の約15~20%が書籍の通販サイトにアクセスし、購入を検討しているという販促効果も出ている。

 また、フライヤーでは要約文を軸にした新たなビジネスも始めている。1つがリアル書店での展開だ。イオングループの書店チェーン「未来屋書店」の全国34店で、フライヤーの月間閲覧数ベスト10や話題の書籍を平積みするとともに、書籍ごとのPOPにQRコードを付けて要約文を“立ち読み”できる「フライヤー棚」の設置を推進。紹介した書籍は前月比で平均約4割の売り上げ増となり、要約文が本の販促に着実に貢献していることがわかっている。

加速する要約文ビジネス
今後は動画化も注目

 一方、近年注力しているのがBtoBの法人契約だ。社員の自己啓発やビジネススキル向上にビジネス書が有効と考える企業が、人材育成や福利厚生のツールとして、会社単位の大口契約でフライヤーの導入を進めている。

 導入企業はNTTコミュニケ―ションズ、サイバーエージェント、本田技術研究所など大手も多い。社内の閲覧数ランキングを示したり、最も読まれた要約文の書籍を全社員にプッシュしたりするなど、各社独自に活用している。「社長おすすめの本を要約文と共に紹介する会社もある」(大賀社長)。これも要約文が本の販促につながる好例だろう。

 加えて、力を入れているコラボ事業が、ネットカフェやコワーキングスペースでの展開。ネットカフェでは快活クラブ、アプレシオ、自遊空間の合計約400店で、利用者は要約文が読み放題だ。今後は通常のカフェや列車内、飛行機内などビジネスパーソンが滞在する商業空間にも需要があるとみて、BtoBtoCのビジネスも積極化する計画だ。

 今年3月には、読書会を実施する月額9000円のサービス「flier book lab(フライヤーブックラボ)」もスタート。利用者は要約文が読み放題になることに加え、月2回の読書会に参加できる。一般的なビジネス書の読書会は、行く前に1冊読破しなければならずハードルが高いが、フライヤーの読書会は要約文を読むだけで参加できるのが利点だ。

 実際の読書会ではファシリテーター(進行役)が仕切り、各利用者から書籍の感想やビジネスに生かした経験などを巧みに引き出す。こうしてインプットのみならず、アウトプットの場も設けている点が新しい。

 フライヤーは要約文ビジネスを加速させ、会員数を2020年には50万人、22年には120万人以上に引き上げる計画を立てる。ただ、今後強力なライバルが出現することもあり得る。注目は今、若い世代で顕著になっている動画シフトだ。例えば、YouTubeに自己啓発本を中心に要約を動画で配信する「モチベーション紳士」は、チャンネル登録者数が24万人超の人気ぶり。内容を視聴してみたが、完成度は非常に高い。こうした“要約の動画化”も、今後注目すべきトレンドだろう。

(大来 俊/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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