このページの本文へ

ベテラン川島&岡崎が代表復帰で魅せた、迫真プレーの特別な意味

2019年06月29日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
川島永嗣,岡崎慎司
コパ・アメリカで1年ぶりの代表復帰を果たした川島と岡崎は、若手選手にも大きな影響を与えています Photo:JIJI

残念ながらあと一歩及ばず、グループリーグ敗退を喫したコパ・アメリカ。1997年1月1日以降に生まれた、東京オリンピック世代が18人を占めた若き森保ジャパンをけん引したのが2人のベテラン、36歳のGK川島永嗣(ストラスブール)と33歳のFW岡崎慎司(レスター・シティ)だった。昨夏のワールドカップ・ロシア大会以来の日本代表戦となった守護神とストライカーは、所属クラブで直面した不遇を乗り越えて己を磨き続け、ブランクをまったく感じさせないプレーを披露。言葉ではなく背中を介して、ホープたちに日本代表の魂と生き様を伝授した。(ノンフィクションライター 藤江直人)

コパ・アメリカで1年ぶりの代表復帰
ベテラン川島と岡崎が放った存在感

 スタジアムを揺るがす大歓声を切り裂くように、重低音の声が常に後方から飛んでくる。相手ゴール前へ視線を送れば、どんなに不利な状況でも先頭に立って突っ込んでいく背中が見える。

 36歳の守護神が飛ばす檄や指示に後押しされ、33歳のストライカーが身にまとう勇気と闘志にけん引される。修羅場をくぐり抜けた経験が乏しい若手選手にとって、これほど鼓舞される環境はない。

 ブラジルで開催されているコパ・アメリカ。南米王者をもぎ取るために参加各国が目の色を変えて、意地と誇りをかけてぶつかってくる真剣勝負の舞台で、日本代表の戦いから遠ざかっていた2人のベテラン、GK川島永嗣とFW岡崎慎司が代役の効かない存在感を放った。

 南米サッカー連盟から招待され、20年ぶりに挑んだコパ・アメリカで、森保ジャパンはいきなり洗礼を浴びた。グループCの初戦で大会3連覇を目指すチリ代表に0-4で完敗。主力選手が招集されていないチーム編成を含めて、100年以上の歴史を誇る大会の価値を分かっているのかと非難された。

 大会最多の15度の優勝を誇る、強豪ウルグアイ代表との第2戦。最後尾に19歳のGK大迫敬介(サンフレッチェ広島)に代わって川島が、1トップには20歳のFW上田綺世(法政大学3年)に代わって岡崎が起用された森保ジャパンは、見違えるような戦いぶりを演じて2-2で引き分けた。

 勝てばグループリーグを突破し、準々決勝で王国ブラジルとの真剣勝負へ臨める状況で迎えたエクアドル代表との最終戦。残念ながら1-1に終わり、夢半ばで帰国の途に着くことになったが、最後まで可能性を残した戦いの軌跡は、再び先発した川島と岡崎を抜きには語れない。

 日本国内で6月上旬に開催されたキリンチャレンジカップ。昨夏のワールドカップ・ロシア大会以来となるフル代表復帰を果たし、森保ジャパンに初めて名前を連ねた川島と岡崎は、くしくも同じニュアンスの言葉を残している。曰く「今は日本代表に呼ばれる立場にない」と。

ロシアW杯後、仏クラブへ移籍の川島
森保ジャパンを「第三者的に見ていた」

 ロシア大会後にストラスブール(フランス)へ移籍した川島は、公式戦に1試合だけ出場しただけでシーズンを終えた。元日本代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチ氏が率いるナントとのリーグ戦最終節で先発し、1-0の痺れる勝利に貢献して森保ジャパンに合流していた。

「今シーズンは試合に関われない時間の方が多かったので、パフォーマンス的に何かを得られたかといえば別に何もない。ただ、自分の中において、サッカーに対する高みに挑戦したいという情熱はまったく変わらないし、次に向かっていく上で気持ちも充電できましたし、体のコンディションもよりよくなってきている。その意味で昨シーズンはいい時間になったと思う」

 ヨーロッパの地に限れば通算5チーム目となるストラスブールでの日々を、川島は努めてポジティブに振り返っている。いつ出番が訪れるか分からない第3ゴールキーパーとして、それでも常に万全の心技体を整えながら、新たに船出した森保ジャパンを第三者的な視点で見ていた。

「新しいチームとしての可能性を、外から見ていて感じました。正直、ストラスブールにおける自分の状況はずっと厳しいものだったし、自分は呼ばれる立場にないとも思っていた。その意味で焦りといったものもなかったし、自分の挑戦に集中すべきだと思っていました」

 挑戦とは海外のリーグで成功を収め、日本人ゴールキーパーのステータスを高めていくこと。将来を見越して、プロの第一歩を踏み出した大宮アルディージャ時代から語学を習得。英語とイタリア語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語に加えて、今ではフランス語も流暢に操る。

岡崎は背番号9を手放すも
「もう一度4年後のW杯へ」

 一方の岡崎は、4シーズン目を迎えたレスター・シティ(イングランド)で大きく出遅れた。ロシア大会では右足首の負傷を押して、グループリーグの3試合に出場。結果としてけがの回復が遅れてしまったが、岡崎は「まったく後悔はない」と今でも胸を張る。

「ロシア大会を戦い終えた後に残ったのは、もう一度4年後のワールドカップへ、という強い気持ちだった。万全な状態で臨んでいたら、もしかしたら何も残らなかったかもしれない。ある意味で自分には達成感がなかったので、4年分のモチベーションを再び与えられた感じです」

 昨シーズンは21試合に出場するも、先発はわずか1度。しかもFWではなく中盤の汗かき役を任される状況がほとんどで、ヨーロッパに渡って9シーズン目で初めて無得点に終わった。しかも、森保ジャパンで用意された背番号は、長く象徴としてきた「9」ではなく「18」だった。

 岡崎にとって日本代表の「9」は、憧れてきた中山雅史(アスルクラロ沼津)が背負った聖なる背番号となる。キリンチャレンジカップでMF南野拓実(ザルツブルク)が、コパ・アメリカではFW前田大然(松本山雅FC)が「9」を背負ったことに、岡崎は「非常にありがたい」と逆に声を弾ませた。

「自分としては、日本代表の『9番』に特別な思いを抱いてきた。なので、そう簡単に自分の元に戻ってくるようなものであればいけないと思っていた」

 移籍1年目でプレミアリーグ制覇に貢献したレスター・シティを退団すると、岡崎はすでに明言している。日本代表で歴代3位となる50ゴールをマークしているストライカーとしての矜恃を、引き続き海外で貫いていく覚悟を固めた直後に、望外だった代表復帰の一報が届いた。

「もう一度海外で結果を出して、正真正銘の点取り屋として戻ってきた時に、自信を持って『9番をつけたい』と言えればいい。その意味でも今回の代表復帰は自分にとってチャンスだし、そういう気持ちをシンプルに出していくことが、森保さんが期待する経験の伝授につながると思う」

森保監督が川島、岡崎に託した
「特別な役割」とは

 岡崎が言及したように、日本代表を率いる森保一監督は選手としてのパフォーマンス以外にも、ともに3大会連続でワールドカップの舞台で戦ってきた川島と岡崎には特別な役割を託していた。

「プレーやコミュニケーションを介して、さまざまな経験を若い選手たちに伝えてもらえれば」

 例えば大迫が生まれた1999年は、川島は埼玉県立浦和東高校の2年生だった。コパ・アメリカ開幕直前に世界一のビッグクラブ、レアル・マドリードへの移籍が決まったMF久保建英と岡崎の年の差も15を数える。経験を伝える手段として、2人は言葉よりも優先させたものがあった。

「今まで積み重ねてきたものを、自分が守るゴール前で見せていくことが一番だと思う。この場所に呼ばれている以上は、まずは自分が選手としてアピールすることは変わらない。その上で自分が経験してきたことを、周囲へのプラスアルファに変えていければいいのかな、と」

 昨シーズン限りで引退したレジェンド、川口能活さんと楢崎正剛さんの日本代表における一挙手一投足を注視。魂を受け継いできた川島が言葉に力を込めれば、岡崎は愚直で泥臭いプレースタイルを前面に押し出し、2年以上も遠ざかっている代表でのゴールを求めることが未来へつながると続いた。

「自分の方から何かを教える、というつもりはまったくない。海外でプレーするにはああだ、勝つためにはこうだと僕が言うことが、経験を伝えることじゃない。僕自身がチャレンジし続けること、今現在よりもうちょっと成長した自分を求める姿が、若手にとっての経験になると思っている」

 トリニダード・トバゴ、エルサルバドル両代表と戦ったキリンチャレンジカップで、川島と岡崎はともにベンチに入れず、メインスタンドから仲間たちの戦いを見つめた。記憶をたどっていっても、ピッチに立つ資格を得られなかった日本代表戦を探し出すことは難しい。

 キリンチャレンジカップは、9月からスタートする見込みのワールドカップ・アジア予選をにらんでいた。厳しい見方をすればアジア予選での戦力にはカウントされておらず、選手の招集に苦慮し続けたコパ・アメリカでチーム編成を整えるために復帰したとも映る。それでも2人は前を向き続けた。

「この場所にいることは先につながる。悔しさもそうだし、日本代表の景色、仲間たちの景色をスタンドから見ることも活力にできる。テレビ越しに見るのと、自分が出ていればと考えながらスタンドから見るのとはまったく違う。ここにいないと、そういうことも感じられないので」

 岡崎がキリンチャレンジカップ中に残した言葉は、川島が胸中に抱く思いをも代弁していたはずだ。いつ訪れるか分からない出番に備えて、コンディションを常に完璧な状態に整える。言葉にすれば簡単ながら、実践するには困難を伴う作業を完遂した先に、日本代表の進化があると岡崎は続けた。

「ベテランと若手の融合、という言葉がロシア大会後によく言われているけど、実力のある選手が最終的に残っていくのが日本代表だと個人的には考えている。そこは若い選手もベテランも一緒だし、お互いにいいところを出し合いながら、強くなっていくのが本来の姿だと思うので」

コパ・アメリカで2人が魅せた
迫真のプレーが若手選手を成長させる

 川島はウルグアイが誇るダブルエースの1人、エディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)が放った決定的なシュートを鮮やかにセーブ。エクアドル戦でこぼれ球を押し込まれた同点ゴールも、相手の強烈なシュートに横っ飛びで反応し、左手一本で一度は弾き返していた。

 ウルグアイ戦でMF三好康児(横浜F・マリノス)が決めた2点目を巻き戻せば、左サイドから上げられたクロスに対して岡崎がニアサイドへ猛然と突進。相手のディフェンダー2人を引きつけた背後に生じたスペースへ、三好がフリーで走り込んできていることが分かる。

 エクアドル戦の先制点も、MF中島翔哉(アル・ドゥハイル)のルスーパスに反応した岡崎が、間に合わないと分かりながらもあきらめることなく加速。鬼気迫る姿が相手キーパーに重圧をかけ、クリアを中島の正面へ飛ばすミスを誘発。中島が無人のゴールへ流し込んで生まれている。

 今回のコパ・アメリカ召集メンバーは、現時点で22歳以下となる東京オリンピック世代の若手が18人を数えた。どんな状況でも決して腐らず、いざチャンスを得れば頼れる両ベテランの背中が、ホープたちが特にメンタル面で成長するための触媒の役割を果たせば――開幕前に漂っていた緊張と不安を自信へと変えた熱戦の軌跡は、日本の未来を明るく照らす点でさらなる付加価値を帯びてくる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ