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東京五輪チケット落選率に見る、組織委の「おもてなし精神」欠如ぶり

2019年06月25日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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五輪チケット落選
東京五輪チケットの抽選結果発表が行われたが、落選が相次いでいる Photo:DOL

落選率は95%以上?
おもてなしどころか国民を愚弄

「おもてなし」をキーワードに招致を成功させた2020東京五輪だが、開催が近づくにつれ、おもてなしの対象はもっぱらIOC(国際オリンピック委員会)の理事や委員、それにスポンサー企業であって、本来最も大切なパートナーであるはずの東京都民、そして日本国民はまったく「愚弄されている実態」が次々に明らかになっている。

 6月20日に東京五輪入場券の抽選結果が発表されたが、「都民、国民をバカにしているのか」と、大批判が起こってもやむをえない事実が浮き彫りになっている。

 多くの応募者が、「1枚も当たらなかった!」と嘆いている。「全部当たったら約160万円なのでドキドキしていたら当選はゼロだった」「時間が重ならないよう何日も検討して選んだのに取り越し苦労だった」など、悲鳴とも憤慨ともつかぬ声があちこちで聞こえる。正確な数字ではないが、周囲の報告を総合すると、実感的には「落選率95%以上」ではないだろうか。「30枚申し込んで当選はゼロ」という人が少なくないから、もっと狭き門だったかもしれない。

 納得がいかないのは、今回の販売枚数が全体の何割程度なのか、次の先着順販売では今回のキャンセル分だけが販売されるのか、それとも予め確保されていた何割かが売り出されるのか、全体像がまったく公表されていないこと。

 せめて、最初の抽選販売は何割、国外で販売される枚数は全体の何割、スポンサーへの割り当て数、旅行代理店ルートへの提供枚数、直前販売を予定している枚数がどれほどなのか、およその数か割合だけでも公表されればまだ理解の余地がある。何も知らされず、ただ狂想曲に巻き込まれ、しかも「1枚も当たらない」のでは、バカにされているとしか言いようがない。

 これが1億円、2億円をめぐる宝くじならともかく、たかが東京五輪のチケットなのだ。本来なら、買いたい人、見たい人が「普通に購入できて当たり前」のシロモノではないか。これだけ東京五輪への関心を煽って、結果的に多くの国民が見られない、そんなイベントは間違っている。オリンピックは「平和の祭典」だ。平和を祈念して行われる大会の本分を完全に逸脱している。

 それでなくても、1枚30万円などという、ちょっと異常な価格を平気でつけている。価格を高くすることで一定の制御をかけ、需給のバランスを取っているならまだしも、バランスさえ取れていない。

 資本主義の原則からいえば、「値付けが安すぎた」と言うべきだろうか。もっと高くして、せいぜい2倍程度の当選確率ならよかった……? 否、こんなに当たらないのなら、高くする必要はなかった。もっと安くして、あくまで「抽選で当たった人に幸運な権利が与えられる」でよかったのではないか。

「東京五輪の入場券はとんでもないプラチナ・チケット」「入手が限りなく困難」という認識だけは明らかになった。これは、次の入手方法である「スポンサー企業が展開するチケット応募キャンペーン」へと誘導する広報戦略としては、抜群の効果をあげたといえるだろう。

 1時間待ちを乗り越えて応募し、さらに1時間待ちして当落の結果を確認して「ステータス:落選」という冷たい表示に打ちひしがれた多くの国民は、「もうオリンピックなんか見なくていい!」と開き直る気持ちになりきれず、「納得がいかないけれど、次にどんな手があるのか」と新たな手段を探す迷子のようになっている。

 これを「精神的支配を受けている」「虐げられている」といわずして何と表現できるだろう。少なくとも、国民に対する「おもてなし」の心はどこにも感じられない。それでもチケットを求める国民は、必死になって商品を買うなどして、スポンサーのキャンペーンに付き合うしかないのだろう。

 おもてなしを受けるどころか、チケットに釣られて時間とお金の浪費を重ねるカモでしかない。

チケットに当選した人も
日本代表が見られない可能性大

 私自身は幸運にも30枚中6枚、当たった。バドミントン、陸上、レスリング、バレーボール、アーチェリー、近代五種、スケートボード、スポーツクライミング、BMX、野球など数種目に申し込んで、水球だけ6枚当たった。東京五輪で最も期待している種目の1つが水球だから、それはありがたい。ゼロの人から見ればとんでもなく幸運だ。

 何しろ、男子の予選ラウンド全5試合と準決勝のチケットが当たった。しかし、だからといって男子水球日本代表の予選が全部見られると決まったわけではない。なぜなら、予選ラウンドは午前、午後、夜の3つのセッションに分かれている。当たったのは、そのうち各日の1セッションだ。日本代表が私の申し込んだセッション(時間帯)に登場するかどうかは、まだ決まっていない。つまり、“はずれ”のチケットを買わされた可能性が3つに1つの確率で残っているのだ。

 これは、サッカー、野球、バレーボール、バスケットボールのチケットに当選した人も同様だろう。まだ日本代表がどのセクションに登場するかわからないのに、買わされたのだ。そして、卓球やバドミントン、レスリング、柔道、陸上、射撃、スポーツクライミングなどにしても、誰が出場するのか決まっていない。

 女子体操などは、団体戦に日本が出場できるかどうかも決まっていない。ゴルフはタイガー・ウッズ、松山英樹ら、テニスは錦織圭や大坂なおみの出場が期待されているが、決まってはいない。それなのに、東京五輪組織委員会は平気でチケットを売り出し、「7月2日までに当たった分は全額支払うべし」と強要している。

「当たったチケットの中でどれを買うか、どれをキャンセルするかを選択できる」、それくらいの自由は与えられてもいいだろうし、それができない理由も説明されていない。現在のIT技術を持ってすれば、その時点で一部キャンセルされても大きな混乱を招かず対応できても不思議ではない。要するに、「国民に対しては、おもてなしの気持ちがない」としか感じられない。

 次のチケット販売は、「ネットでの先着順申し込み」と発表されているが、先着順で一体、どんな状況が起こるのか、目の前が真っ暗になりそうだ。けれど、組織委員会は庶民のそんな気持ちには一切頓着せず、詳しい説明もしないまま放置している。

 先着順であれば、ネットの熟達者にとっては腕の見せ所だろうが、それほどネットに精通していない者、メール以外はほとんどネットを使わない人たちにとっては手の届かないものに感じられるだろう。それについても、いまのところ配慮の気配がない。

(作家・スポーツライター 小林信也)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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