このページの本文へ

久保建英のプレーを「ドラえもん」と称した長友佑都の真意

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
久保建英
国際親善試合のエルサルバドル戦で、ゴールを狙う久保建英 Photo:JIJI

眩い輝きを放つ新星が森保ジャパンに誕生した。9日のエルサルバドル代表とのキリンチャレンジカップで後半22分からひとめぼれスタジアム宮城のピッチに立ち、群を抜く存在感を披露してファンやサポーターを驚かせたMF久保建英。日本代表で歴代2位の若さとなる、18歳5日で日の丸デビューを果たした逸材がピッチの内外で刻んだすごさを、FC東京の先輩でもある32歳のDF長友佑都(ガラタサライ)の言葉をもとに分析する。(ノンフィクションライター 藤江直人)

「人生2回くらいやっている」と
長友が感服するほどの冷静さ

 末恐ろしさに感服するとともに、頼もしくも感じられた。国際Aマッチ出場記録を通算117試合に伸ばし、日本代表史上で歴代単独3位に浮上したDF長友佑都(ガラタサライ)が、18歳になったばかりの可愛い後輩から受けた驚きを分析すれば2つの思いに行き着く。

「人生2回くらいやっているんじゃないですか、と思うくらい冷静にして客観的に自分のことを見られている。彼のコメントを見ていると本当にそう思う。18歳でなかなかできない。楽しみですよね。大物が出てきたな、と」

 日本代表が宿泊するホテル内に、リラックスルームが設けられるようになって久しい。軽食や飲み物が用意され、自由時間にくつろぎながらテレビを見る。次の対戦相手が収められた映像や、国内合宿の場合にはその日に発行された一般紙やスポーツ新聞も揃えられている。

 仙台市内のホテルに設けられたリラックスルームへ長友が入ったのは、エルサルバドル代表戦を翌日に控えた8日だった。何気なく手にした新聞各紙には、森保ジャパンに初めて招集され、一挙手一投足が注目されるMF久保建英(FC東京)を報じる記事が掲載されていた。

 日本代表に招集された選手たちは試合前日までに一度ずつ、練習後にメディアの取材に応じる。27人が招集された今回のキリンチャレンジカップでは、5日のトリニダード・トバゴ戦前日までの3日間、そして9日のエルサルバドル戦前日までの3日間で、それぞれ9人ずつが取材エリアを通る。

 そして、エルサルバドル戦の舞台となる、ひとめぼれスタジアム宮城で行われた7日の初練習後の取材対応を割り当てられた一人が久保だった。トリニダード・トバゴ戦はベンチに入らず、スタンドから先輩たちの試合を見届けた心境を問う質問に、久保は当意即妙に対応していた。

 例えば、久保をトリニダード・トバゴ戦でベンチに入れなかった理由を、日本代表を率いる森保一監督は「少し緊張の糸を緩めながら、先に進んだ方がいいと思った」と明かしている。

 J1戦線の首位を独走するFC東京を、堂々の主力としてけん引。ピッチを離れれば国際間移籍が可能となる18歳の誕生日を迎える6月4日が近づくにつれて、海外移籍報道がかまびすしくなった。

 ただでさえ注目を集めている中で、一連の状況が特にメンタル面へさらなる負担をかけるのではないか――親心にも近い森保監督の配慮が賛否両論を呼び起こした中で、久保本人はベンチ外をどのように受け止めていたのか。

「それでも、試合に出たい気持ちが強かったのでしょうか」

 核心を突く質問に、久保は間髪入れずにこんな言葉を返してきた。

「それを言って、森保監督といい関係になることはないですし、(言葉の)捉えられ方によっては、変に書かれてもあれなので。自分だけではなく、誰もが試合に出たいと思ってここに来ているので。ここで言うよりは、練習からアピールすることがすべてだと思っています」

 自身の言葉が独り歩きしかねない状況を察して、機転を利かせたコメントで質問をいなし、最終的には一般論へと集約させる。32歳の長友をして「人生2回くらいやっている」と驚かせたのは、おそらくはこのやり取りを指していたのではないだろうか。

 一度経験した場面だからこそ冷静沈着に、浮き足立つことなく対応できる。実際にはありえないことを想起させるほど、18歳なったばかりの少年はその思考回路で客観的に、なおかつ俯瞰的に自らが置かれた状況を判断し、瞬時にベストの答えを導き出していた。

「戦う側からすれば
本当に最悪のプレーヤー」

 もちろん、ピッチの中においても、状況を瞬時に把握できる久保のストロングポイントはいかんなく発揮された。エルサルバドル戦の後半22分。待望のベンチ入りを果たし、アップをしていた久保がユニフォームに着替え、MF南野拓実(ザルツブルク)との交代出場へ向けてスタンバイする。

 スタンドを埋めたファンやサポーターの視線は背番号「27」に集まり、試合展開とは関係なくボルテージが上がっていく。日本代表における年少出場記録の歴代2位に、自らの名前と「18歳5日」という年齢を刻もうとしている刹那に、久保はこんな思いを胸中に抱いていた。

「スタジアムがけっこうオープンな感じだったのに、(交代で入る前に)めちゃワーッと聞こえたので。何かピリピリじゃなくて、ひしひしと(ファンやサポーターの)期待を感じました」

 ゴールを決めれば、金田喜稔(当時中央大学)が1977年6月15日の韓国代表戦でマークした、19歳119日の歴代最年少ゴール記録を大幅に更新する。期待を現実のものに変えるのではと、見ているすべてのファンやサポーターが腰を浮かせたシーンは、デビューから6分後に訪れた。

 ピッチの中央でFW大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)が浮き球を収める体勢に入った時、右側にいた久保はすでに前方へ走り出していた。2日から愛知県内で始まり、仙台市内へ場所を移していた国内合宿で、先輩選手たちの特徴や武器を完璧にインプットしていたのだろう。

「大迫選手は誰が見てもわかる通り実力がひとつ抜けていますし、何でもできるというか、ボールもつなげるし、前も向ける。あんな選手が横にいたらやりやすい、というのが素直な感想です」

 こう語る久保は前を向いた大迫からのスルーパスを呼び込み、右サイドの奥深くへドリブルで進む。マークについたエルサルバドルの選手2人を引きつけた次の瞬間、左足で軽くボールにタッチして左側へ押し出す。自らも急減速して左側へ直角に旋回、2人の間を軽やかに突破した。

 右角あたりから侵入したペナルティーエリア内で、ゴールまでのルートを阻む相手選手は誰もいなかった。最も得意とする右45度から、利き足の左足で放った地をはうような一撃は、左側へ横っ飛びした相手ゴールキーパーに残念ながらセーブされてしまった。

 ベンチで戦況を見つめながら、思わず「決まった!」と叫びかけた長友はシュートではなく、シュートにまでもっていった久保の過程に「すごい才能ですよ」と舌を巻いた。

 ドリブルから切り返し、突破に至った一連のシーンを振り返ると、久保は自分の真下にボールを置きながら常に顔を上げていた。こうなると相手はうかつに飛び込むことができない。長友は「足を出せないし、ファウルをしそうで怖いんですよ」と相手の胸中を慮りながらこう続けた。

「ドリブル一辺倒の選手は、結局、選択肢が他にないから対処しやすい。建英の場合は左足だけを切る(マークする)ことができないし、ボールを真下に置きながら緩急をつけてくる。味方へのパスコースを切ろうとすれば縦に行かれるし、逆に縦が嫌だと思えば中へ行かれてしまう。戦う側からすれば、本当に最悪のプレーヤーですよ」

 自ら高速で移動しながら、ボールの位置を周辺視野で確認できるからこそ、顔を上げる体勢を取り続けることができる。視線を高く保てるからピッチ上の状況を、敵味方の位置を含めて的確に把握できる。他の選手とは明らかに一線を画す久保のすごさを、長友はこんな言葉で表現した。

「最終的な目的地となる相手のゴールまで広がる空間を、建英は常に意識している」

 後半アディショナルタイムにはパスで魅せた。自陣からドリブルで進んできたMF中島翔哉(アル・ドゥハイルSC)が、センターサークル付近で右側へいた久保へパス。足元にやや深く入ったボールを素早く体勢を整えながら、久保はワンタッチで前方の大迫へ通した。

 次の瞬間、大迫が軽く触れて落としたボールを、久保へパスを出してから加速してきた中島が受けて最終ラインの裏へ飛び出す。相手がファウルで止めるしかなかった場面の起点となった、中島や大迫との間で発動された絶妙のコンビネーションが、瞬時に脳裏に閃いたと久保は明かす。

「ボールを持った瞬間に中島選手が何を考えているのか、というのがあの時は分かったので。結果として、ああやってつながってよかったです」

「ドラえもん」と長友が称賛する
久保の“化け物”的なすごさ

 新聞記事を介して見たコメント力。ドリブルからターン、シュートに至る過程で目の当たりにしたさまざまなテクニック。そして、初めて実戦のピッチで共演する先輩たちとの間で奏でた至高のハーモニー。非凡さを次々に繰り出す久保が、長友の目には「ドラえもん」とダブって見えた。

「ポケットの中にアイテムが多すぎて、次に何を出してくるか分からないという感じですよね。練習や今日の試合を見ていても、次のプレーが読めない。スピードもあるし、最近はフィジカル能力もついてきた。久しぶりに化け物が出てきたと僕は思っています」

 リラックスルームで記事を読んだ時に感じた「大物」が、実際にデビューを果たした直後には「化け物」へと昇華した。久保のすごさを的確な言葉で描写した長友の目は、FC東京の後輩でもある18歳が犯したミスもしっかりと捉えていた。

「あの場面、ちょっと力んだだろう」

 試合後に場内を一周しながら談笑した久保へ、長友はこう語りかけている。相手に止められた後半28分のシュートは、実は久保から見てゴール左上の隅へ、カーブ回転をかけながら高い弾道から巻いて落とす軌跡で射抜く青写真が描かれていた。

「ゴールを決めたい、という思いが強すぎて力みました」

 図星を突かれた久保は、苦笑いしながら本音を打ち明けた。思わず「ドラえもん」をダブらせる無双ぶりとのギャップに、長友は目を細めながらエールを送る。

「建英くらい能力がある選手でも新しい環境、新しい世界に飛び込んだ時には緊張で固まるんですね。建英自身にも課題が見えたと思うし、これからさまざまな経験を積み重ねていくことで、海外や日の丸を背負うギリギリの戦いの中で学び、乗り越え、成長していく部分なのかなと思っています」

 18歳になった今月4日にも取材対応が割り当てられていた久保は、加熱する一方の周囲を諫めるかのように、まるで大人のようなコメントを残している。

「ひとつ年を取った、という言い方は変ですけど、これからはジュニアと書かれることはなくなりますし、世界でも18歳はもう若くはない、みたいな感じになってきている。18歳でも試合に出る選手は出ますし、だからと言って22、23歳になったときに約束されていることは何もないので」

 キリンチャレンジカップにおける冒険を、及第点のパフォーマンスで終えた。ただ、今回の舞台はあくまでも国際親善試合。真価を問われるのは公式戦であることを、誰よりも久保本人が分かっている。

「最初はみんな気を使ってくれたというか、気持ちよくプレーさせようという意図が感じられました。すごくありがたいことですけど、もう試合を一度経験しているのでこれからは甘えることなく、自分の力だけでいいプレーを出していかなければいけないと思っています」

 エルサルバドル戦後にこう語った久保は現地時間12日、コパ・アメリカに臨む日本代表の一員として、開催国のブラジルに到着した。南米各国が母国の名誉と威信をかけて、目の色を変えて牙をむいてくる真剣勝負を、日本代表を背負う期待を担った逸材は「強い相手の方がいい」と心待ちにしている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ