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働き方改革の根強い誤解、「とにかく休め」「仕事を効率化しろ」では始まらない

2019年06月12日 06時00分更新

文● 田澤由利(ダイヤモンド・オンライン

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働き方改革の根強い誤解、「とにかく休め」「仕事を効率化しろ」では始まらない
4月から働き方改革へと踏み出した日本の企業社会。しかし、その多くはいまだ試行錯誤のさ中にいる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

4月から働き方改革へと踏み出した日本の企業社会。しかし、その多くはいまだ試行錯誤のさ中にいる。そもそも働き方を改革するとは、どんなことなのか。数多くの企業に働き方改革の導入支援を行ってきた、株式会社テレワークマネジメントの田澤由利代表取締役が、悩める企業にアドバイスを送る。

強制的に「休ませる」は
本当に働き方改革か

 今年4月、「働き方改革関連法案」が施行された。「平成」と「令和」では、働き方が大きく変わることになるだろう。この機会に、改めて「働き方改革」とは何かを考えたい。

 厚生労働省のホームページでは、「働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会」の実現のための改革とされている。長時間労働をなくし、場所や時間に対して柔軟に、公正な待遇で働けるよう法律を策定し、改革を進める。

 もちろん「働く方々のため」が大前提であるが、生産年齢人口が減り続ける日本においては、「より多くの人が働けるようにすること」「より短い時間で成果を出せるようにすること」は、企業の将来にとっても重要である。しかし、残業を削減し休みを増やすだけでは、企業の生産性に影響を及ぼすことも事実だ。これは「働き方改革」を推進する企業担当者の悩みでもある。

「働き方改革」の推進において、企業も社員もハッピーになるために、企業の担当者に筆者がどうしても伝えておきたいこと、それは「休む」だけでなく「柔軟に働く」選択肢の重要性である。

 4月半ば、三菱UFJ銀行が男性行員の1ヵ月育児休暇取得を「上司に強く促す制度」を導入するというニュースが流れた。大手銀行が「男性の育休取得に本気で取り組む」と、賞賛の声があがった。確かに、全員に育児休暇を取らせる制度はインパクトがある。

 筆者も、男性が育児休業を取得することは、もちろん賛成だ。男性が赤ちゃんの世話をすることの大変さを体感すること、そして子どもと過ごす時間を増やすことで、これまで女性ばかりにかかっていた負担を和らげ、夫婦が共に育児をする基盤をつくることができる。女性だけが子育てを担い、一方で「女性も働こう」では、子育てと仕事の両立は難しく、少子化と労働力不足に拍車をかけることになる。男性の育児休業取得に、日本の未来がかかっているといっても過言ではないだろう。

 実際には、男性の育児休業取得率は、5.14%(厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」)と低迷が続いてきた。そんな中での三菱UFJ銀行の「制度化」は、「働き方改革」の推進において評価されて当然である。

 しかし、よくよく記事を読んでみると、「取得率は8割超となったが、平均取得日数は2日にとどまる」とある。たった2日の休みなら、育児休暇ではなく有給休暇でもいいのではないか。実際、多くの企業で有給休暇は余り気味なので、「手続きの煩雑な育児休業より、満額出る有給休暇の方がいい」という声もある。それにもかかわらず、取得率が8割超ということは「会社からのお願い」で、育児休暇を取得していることも想像できる。

 また、育児休業対象の男性社員全員が1ヵ月休むとなると、業務への影響が発生する。そこで子育てと仕事の両立のため「育児計画を直属の上司に提出させ、仕事の配分などを管理する」というケースもあるという。さすがにこれについては、賛否両論が起こっている。

育児中の男性に必要なのは
「休む」ではなく「柔軟に働く」選択肢

 男性は女性と違って、産後も本人の肉体的な負担はない。ママの体をいたわりつつ、赤ちゃんのお世話を一緒にしていても、完全に休まなくてはいけないほどの状況だろうか。「家族が増えて、もっと仕事を頑張らなくちゃ」と考える男性もいるだろう。そんなとき、上司から「1ヵ月の育児休暇」を強制されたら、逆にもどかしい思いをするのではないだろうか。

「働き方改革」は、「休ませる」ことではない。「多様な働き方を選択できる」ことである。さすがに育児休業中に「働く」のは、現状の法律や給付金の財源の問題などがあり、壁は高い。育児休業後も、柔軟に働ける選択肢が必要である。

 休みはその「期間」が終わると終わりだ。しかし、柔軟な働き方は「期間」が終わっても続けることができる。子育ては、2日でも1ヵ月でも1年でもなく、10年、20年続くのだ。

 6月、自民党の有志国会議員により、男性育休取得促進議員連盟が発足された。企業が育休を付与するよう義務付ける法案の作成も検討するとのこと。子育て中の男性社員に対し、「休む」ことを義務付けるだけでなく、「柔軟に働く」テレワークについても、ぜひ検討いただきたい。

テレワークは「女性のため」
ではなく本当は「企業のため」

「働き方改革」においては、「時間外労働の上限規制」が注目を浴びたが、実は、企業の「働き方改革を成功させる」大きなポイントが「テレワーク」であると筆者は考える。

 国の定義によると、テレワークは「時間や場所を有効活用する柔軟な働き方」だ。ポイントは「有効活用」という言葉である。ICT(情報通信技術)を活用して、これまで当たり前だと思っていた「移動」をなくし、そこにかかる「時間」を別のことに有効活用するのが、テレワークの理念である。

 先日発表された『平成29年通信利用動向調査』(総務省)によると、テレワークを制度として導入、または予定する企業は全国で26.3%。昨年度の調査に比べて5ポイント以上、上昇している。日本の企業の4社に1社がテレワークを導入する時代へ突入したといっても過言ではないだろう。ここ数年の国や企業の努力が数字になって表れた形だ。

 またテレワークは、もはや「子育て女性社員のための在宅勤務」ではない。『平成30年通信利用動向調査』によれば、企業がテレワークを導入する目的の1位は「定型的業務の効率性(生産性)の向上」だ(56.1%)。前年度1位だった、2位の「勤務者の移動時間の短縮(48.5%)」に対し、大きな躍進である。テレワークは企業にとって「女性のための」の福利厚生ではなく、生き残るための企業戦略なのだ。

トレンドは自宅ではなく
サテライトオフィス

「サテライトオフィス」という言葉を、新聞やテレビなどのメディアで頻繁に見かけるようになった。「サテライト」とは、「衛星」の意味。そのまま理解しようとすると、会社から離れた場所にある小さなオフィスのことだ。ただし、営業所や支社などもサテイラトオフィスと呼ぶことがあるものの、「働き方改革」の視点から筆者が勝手に定義すると、「本来、働く場所から離れたところにあるが、社員が働く場所として、企業が認めるワークスペース」だ。

 働く場所や時間が柔軟になれば、毎日、満員電車で会社に通う必要がなくなる。個人のパフォーマンスが高い場所や時間に働くことで、社員のワークライフバランスも企業の生産性も向上する。訪問する企業の近くにあるサテライトオフィスに直行し、ウェブ会議で朝礼に参加する。効率よく企業を回って、夕方には仕事を終える。もはや、テレワークのトレンドは「自宅」ではなく「サテライトオフィス」である。

 企業にとっての「サテライトオフィス」は、必ずしも自社が用意する必要はない。自社で新たなサテライトオフィスを用意するには、開設費用という大きなコストがかかるが、「地方営業所をサテライトオフィスとして使う」「民間のコワーキングスペースをサテライトオフィスとして利用する」といった方法であれば、コストは抑えられる。

 また企業が認めれば、自社専用である必要もない。そのうち「契約したカフェチェーン店を、弊社のサテライトオフィスとして認める」ということもあり得るだろう。

 実際、東急電鉄、三井不動産、ザイマックスなどは、数年前からサテライトオフィス事業を実施。その後、カラオケの第一興商、ニューヨーク発のWeWork、JR東日本など、新しいサテライトオフィス業者も登場している。最近では、東京電力が郊外型サテライトオフィス事業をスタートさせた。

テレワーク・デイズで
働き方改革を一歩前へ

テレワーク・デイズ

 東京オリンピック・パラリンピックの交通緩和をきっかけに、日本の「働き方改革」を推し進める動きにも注目だ。国が2017年から実施している「テレワーク・デイズ」というイベントがある。先日、「テレワーク・デイズ2019」の参加登録がスタートした。2020年の前年ということもあり、目標は3000団体・のべ60万人を掲げている。期間も、1ヵ月以上(7月22日~9月6日)が設定されている。

「残業をどうやって減らそうか」「社員の休みをどうやって増やそうか」で悩んでいる「働き方改革」担当者の方へ。働き方改革は「休む」ことだけではない。「柔軟に働く」選択肢を増やすことが重要だ。「テレワーク・デイズ2019」は、まだテレワーク制度がない企業でも、少ない人数でも、少ない日数でも、登録できる。まずは「柔軟に働く」選択肢のために、一歩を踏み出してはどうだろうか。

(テレワークマネジメント代表取締役 田澤由利)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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