Wraith SPIREとWraith MAXの上位2モデルが高パフォーマンス
それでは、冷却性能と静音性の検証結果を紹介しよう。検証に使用したCPUは、Ryzen 7 2700X。TDPが105Wと高いので、Socket AM4プラットフォームで冷却性能を比較するなら最適だろう。
検証環境 | |
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CPU | AMD Ryzen 7 2700X |
マザーボード | ASRock X470 MASTER SLI(AMD X470) |
メモリ | Kingston HyperX Predator RGB HX429C15PB3AK2/16(DDR4-2933、8GB×2) |
SSD | Intel Optane SSD 800P(PCI Express 3.0 x2 NVMe、118GB) |
メモリ | Kingston HyperX Predator RGB HX429C15PB3AK2/16(DDR4-2933、8GB×2) |
電源 | Corsair HX1000i(80PLUS Platinum、1,000W) |
OS | Windows 10 Pro 64bit 日本語版 |
アイドル時 | OS起動後10分間の最小値 |
OCCT | OCCT Pro 4.5.2を使用 |
CPU温度 | HWiNFO 64 v6.06のセンサー情報のCPU (Tdie) |
ファン回転数 | 同CPU1 [RPM] |
動作音 | ファンから20cmの位置でCUSTOM SL-1373SDを使用 |
計測はCPU温度とファンの回転数、動作音とし、前2つはHWiNFO 64のログから取得、後者は騒音計をファンから20cmの位置に置き測定した。計測時の室温は27℃、暗騒音(非動作時)は30dBA以下(計測範囲外)、ファンの制御はマザーボードの標準設定任せだ。ここの制御はマザーボード毎に異なるので、お手持ちの機材で今回の計測どおりの結果になる保証はない。どちらかと言うと、同列に並べた際にどれだけの音量があるのかの比較だ。ここでうるさかったCPUクーラーも、マザーボードのキャリブレーション機能を用いれば静かになる可能性がある(ただし冷却性能とのトレードオフにもなる)。こうした点を踏まえて、以下のグラフを見ていきたい。
まずはCPU温度で冷却性能を見よう。アイドル時に関しては、31℃あたりを中心に±1℃程度で横並びと言ってよい。次のPCMark 10(Spreadsheetテスト)は、軽くCPUに処理をさせた際の挙動を見るためのものだ。時間にして2分程度のものでCPU負荷は小さい。普段の軽作業のイメージだ。作業時間が短いこともあって、ほとんどが50℃後半から60℃の範囲に収まっている。
CINEBENCH R15のCPUテストは、Ryzen 7 2700Xの場合一瞬で終わる。普段PCを使っていて、なにかを起動した際に瞬間的にCPU使用率が100%になるようなことがある。それをイメージして欲しい。今回はTDPが105WのRyzen 7 2700Xでのテストということで、Wraith SPIREとWraith MAXの上位2モデルがほぼ並びになり、その冷却効果がよくわかる。もちろん、Wraith SPIREやWraith STEALTHが付属するTDPが65W以下のCPUであればもっと温度は低くなる。
最後はOCCTのCPU LINPACKテストを10分実行した際の最大温度だ。全スレッドに対してCPU負荷100%が数十分継続するようなことは、普段の用途ではまずありえない。マイニングのほかは、なにかのバグ、悪意あるソフトウェアくらいではないだろうか。こうした超高負荷時となると、純正CPUクーラーすべてとPURE ROCK SLIMは84.8〜9℃と横並びになっている。これはCPUクーラーの性能が等しいわけではなく、CPUを熱から守るためにクロックが制限されている、つまりサーマルスロットリングが効いた状態だ。よい状態ではないが、こうしたシチュエーションは普段のPCでそこまで生じるものではない。
ファンの回転数と動作音は相関にあるので同時に見ていきたい。まず、Wraith PRISMは冷却面が高い分、回転数が高くなり、そのため動作音が若干、大きめだった。Wraith MAXはOCCT時のみとくに回転数が高まり動作音が大きかったが、ほかのテストを見る限り、制御に問題が生じたのではないかと思われる。ひと昔前のものなら50dB台やそれい近い動作音だったことから比べれば、付属のどのCPUクーラーもかなり静かになっており、これならケースを開けっ放しにでもしない限り、ほぼ音を閉じ込められるだろう。
付属CPUクーラーのコストパフォーマンスは高い
全体的に見て、純正CPUクーラーはRyzenより前の世代のものと比べてかなり性能が向上した。これはAMD自身がCPUクーラーの性能をアピールしていることからも分かる。今回テストに使用した製品は、リリースから様々なベンチマークで検証をした製品ということもあり、使用時間に差がある上に厳しいテスト環境ではあったが、Wraith SPIREの2製品も安定しており、Wraith STEALTHも本来それが付属するCPUのTDPであれば十分な性能を発揮する。
市販のCPUクーラーは、バンドルというコストを考える必要がなく、個々の価格枠内で性能や見た目を追求できる。そのため、純正CPUクーラーと比べて冷却面や静音面でアドバンテージがある。高負荷の作業が続いたり、作業する環境が高温だったり、さらなる性能を求めるユーザーは導入を考えてもいいだろう。ただ、テスト結果を見てみると付属クーラーの性能も高いため、一般的な利用では十分な範囲であろう。Wraith PRISM、Wraith MAX、Wraith SPIRE(With RGB LED)は付属品にも関わらずLED付きで、光らせるためにCPUクーラーを買い足す必要もなく、コストパフォーマンスは極めて高い。
市販品についても解説しておくと、バランスがよかったのは虎徹 Mark II。12cm角ファンのサイドフロー、シングルタワーというのはCPUクーラーのスタンダードであり、Ryzen 7というメインストリームのハイエンドCPUなら虎徹クラスのクーラーで間違いない。MasterAir MA620Pは、本来もう少し冷却能力があるが、Ryzen 7クラスだとやや余裕がある印象だ。ファンが1つ多い分、動作音で虎徹 Mark IIよりもやや大きい。これを活かすならば、OCにチャレンジしてみるのもよいだろう。あるいは、室温が30℃を超える場合でも、安定動作してくれそうだ。
このように、CPUクーラーの性能はさまざまだ。今年も暑い夏がもう間もなく訪れる。それをできるだけ快適に乗り切れるようにパーツ選びをしてみよう。