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リアル「後妻業」筧千佐子被告、認知症主張も2審も死刑判決

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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大阪府警の施設に入る筧千佐子被告(左から2人目)=2015年01月28日午前、大阪市住之江区
大阪府警の施設に入る筧千佐子被告(左から2人目)=2015年01月28日午前撮影、大阪市住之江区 Photo:JIJI

近畿連続青酸殺人事件で3件の殺人罪と1件の殺人未遂罪に問われ、1審京都地裁で死刑判決を受けた筧千佐子被告(72)の控訴審判決で、大阪高裁の樋口裕晃裁判長は24日、1審判決を支持し筧被告の控訴を棄却した。結婚相談所を介して交際や結婚した男性が相次いで死亡、多額の遺産を手にしていた筧被告。小説や映画のようなリアル「後妻業の女」は3月1日の初公判に出廷せず、控訴審は新たな証拠調べや被告人質問などの審理を実施しないまま即日結審していた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

認知症で「壊れたレコード」

 開廷時刻の午前11時を数分過ぎた後、筧被告はグレーのトレーナーを着て入廷し、裁判官席と傍聴人席に向かって一礼して着席。難聴で聞き取りにくいためヘッドホン型の補聴器を着用し、樋口裁判長から名前や生年月日を尋ねられると、やや早口に答えた。

 判決言い渡しの間はまっすぐに裁判官席を向いていたが、腕を小刻みに動かすなど少し落ち着かない様子も。途中、目元に手を当てて、涙を拭うようなしぐさも見られた。判決言い渡し後は、傍聴人席に向かって再び一礼し、ゆっくりと法廷を後にした。

 弁護側は控訴審初公判で、1審に続き「男性らは病死だった可能性がある」などと無罪を主張。また筧被告が重度の認知症で「訴訟能力を喪失している」とし、公判停止か精神鑑定の実施を求めていた。

 しかし高裁はいずれも認めず、実質的な審理がないまま結審するという異例の経過をたどった。検察側は公訴棄却を求めていた。

 控訴審の争点は(1)責任能力、(2)訴訟能力、(3)被害者の死因——などだ。

 控訴審では、1審の公判前に実施された精神鑑定では認知症と診断されたが、直近の事件とされる13年12月時点では認知症はなかったとして完全責任能力を認定。公判時も症状は軽度で訴訟能力はあると判断した。

 死因についても、被害者とされる男性3人はいずれも青酸化合物を飲まされたことによるものと指摘。いずれも2017年11月7日の1審判決を追認した。

 弁護側は判決を不服とし、最高裁に上告した。

 それでは、初公判の様子はどうだったのか。新聞・テレビはあまり大きく報じていなかったので、少し振り返ってみたい。

「被告はまるで、壊れたレコード」。弁護側は筧被告の認知症をこう表現した。控訴審は被告の出廷義務がないため、筧被告は姿を見せなかった。

 しかし、弁護側が訴訟能力についての主張を始めた直後、裁判長が制止を命じた。

「被告人から出廷希望の連絡がありました」

 静まり返った法廷。目をつぶって待ち続ける裁判官、検察官、弁護士、傍聴人……。だが筧被告は結局、姿を見せなかった。

 12~13分の休廷の間、無表情の裁判官。イラついた感じの検察側、眉間にしわを寄せ困惑したような表情の弁護側。結局、筧被告が不在のまま再開された公判は淡々と進んだ。

 筆者の後輩である全国紙社会部デスクは「担当した記者は少しショックを受けていたようでした」と話した。

 記者は何度か筧被告に接見していたという。「会話は少しかみ合わないところもあったが、しっかりしていて重度の認知症とは感じませんでした」という報告だった。

 罪に問われた4人以外にも、証拠がなく立件されなかった不審死した男性はほかにもいる。複数人の男性に対する殺害の罪に問われ、結果次第では自身の生命も尽きる……。

 重大な事件なのに、法廷という空間ではそういった切迫感が一切感じられない。この記者は言いようのない不気味さを感じたという。

 では、主観を抜きにした公判での検察側・弁護側の主張はどうだったか。

 弁護側は1審の筧被告の様子について「同じ話を何度も繰り返している」と説明し、弁護活動にも支障が出ていると主張。初公判前に「訴訟能力に問題なし」と鑑定した医師も「認知症の専門家ではない」として、信用性について「極めて低い」と訴えた。

 検察側は鑑定結果などを基に「訴訟能力があったことは明らか」として控訴棄却を求めた。樋口裁判長は公判を停止せず、再鑑定も却下。弁護側の異議申し立ても棄却した。

遺産相続10億円

 発覚から長時間が経過し、概要をお忘れの読者もいると思うので、概要を控訴審判決でご紹介したい。

 まず、前提として控訴審で殺人・殺人未遂の罪が認定されたのは4人だが、筧被告が結婚相談所などを通じて結婚・交際した6人が出会ってから数年で死亡していたのは客観的な事実だ(警察の捜査)。

 筧被告が望んだ交際・結婚の条件は「年収1000万円以上の資産家か経営者」。結婚は4回で、死亡した3人は2~4回目の相手だった。ほかの3人はいずれも内縁関係で、生前、筧被告に遺産相続を約束する公正証書を作成していた。

 こうして相続した遺産は約10億円に上る。

 今回の判決では、遺産相続した事実は罪に問われていない。新聞・テレビは判決内容まで詳細に伝えていないので、ここでお伝えしたい。

【事件性等】4人の血液から青酸成分が検出され、青酸以外の物質では説明できない症状を起こしており、死因と急変は青酸化合物の中毒と認められる。事故や自殺の可能性もない。一般人が入手困難な青酸化合物を所持し、犯行可能な時間帯に被害者と一緒だった。捜査段階や公判で犯行を認めている。

【責任能力】13年12月当時、認知症やほかの精神疾患などをうかがわせる事情はなく、計画性に一貫性がある。

【訴訟能力】アルツハイマー型認知症を発症しているが、軽症で進行は穏やか。1審で自己に不利益な内容は否認するなど、自らを防衛する訴訟能力は認められる。

いずれも青酸中毒と認定

【筧勇夫さん事件】血液や胃の内容物から青酸化合物が検出され、中毒で死亡。経済・健康面で悩みなどはなく入手困難な青酸化合物を入手して自殺する理由はない。勇夫さんの死亡前から別の男性と交際を始め、死亡直後から遺産取得を開始する特異な行動をしていた。公判で一貫して犯行を認めていた。

【本田正徳さん事件】血液と胃から青酸成分を検出。職業上、青酸化合物と接点がなく、事故とは考えられず、自殺の可能性もない。捜査段階で犯行を認めている。

【末広利明さん事件】外傷も生死に直結する病気もなかった。路上で意識を失い、死因となった物質も青酸以外ない。捜査段階で犯行を認めている。

【日置稔さん事件】外傷がなく、死因がけがや病気は考えられない。捜査段階で犯行を認めており、死亡直後に遺産取得を進める特異な行動をしていた。

 経済的に困窮した人生だったとされる筧被告。公判では、その反動で金に執着するようになったと指摘された。しかし、その後妻業で得た金は投資の損失などで雲散霧消し、手元に残っていないという。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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