![]() |
握手を交わすソニーの吉田憲一郎社長兼CEO(左)と、マイクロソフトのサティア・ナデラCEO |
世界が驚いたプレステとXboxの握手
ゲーム専用機で競合関係にあるソニーと米マイクロソフトの歩み寄りに、5月17日朝、世界が驚かされた。
両社は「戦略的提携に向けた意向確認書」を締結したと発表した。ゲームやコンテンツのストリーミングを目的としたクラウドソリューションを、マイクロソフトのデータセンターを活用して共同開発することなどを検討する。ゲーム事業自体の協業予定はない。詳細は今後詰めていくという。
ソニーは「プレイステーション」シリーズ、マイクロソフトは「Xbox」シリーズを世界展開してきた。任天堂も含めた3社は従来型のゲーム専用機メーカーとしては激しく争ってきた経緯がある。
近年、既存のゲーム専用機メーカーにとって脅威になると恐れられているのがクラウドゲーム(ストリーミングゲーム)。ゲームの演算処理をクラウドサーバー側で行うため、高価なゲーム専用機を買う必要がなく、スマートフォンやタブレット端末があれば楽しめる。ここに異業種が次々に手を伸ばしている。
米グーグルはゲームサービス「STADIA」で19年内の参入を表明。米アマゾンも参入が噂されている。彼らが得意とする「中抜き」ビジネスが、いよいよゲーム専用機でも起ころうとしているわけだ。
ソニーも手をこまねいていたわけではない。むしろ先駆的ですらあった。14年にクラウドゲーム「PSナウ」を開始。旧作品を毎月定額料金で楽しめるサブスクリプションモデルで、有料会員の年平均増加率は40%超。約70万人まで増えていた。
ただ、プレステ4をネットワークにつないで楽しむユーザーが9000万人以上もいるのに対し、PSナウの有料会員は二けた少ない。「つまりユーザーに受け入れられてこなかった」(エース経済研究所の安田秀樹シニアアナリスト)と手厳しい声が一部にある。
背景にあるのが、通信環境次第では生じてしまうストリーミング(コンテンツをダウンロードしながら同時に再生を行う)のまずさ。動画鑑賞なら気にならない程度のわずかな遅延でも、ゲーム操作ではそのわずかな反応の遅さがユーザー満足度に致命的だ。ソニーは18年からはPSナウにダウンロード機能を加えて対応していた。
だが高速大容量・低遅延の次世代通信規格「5G」時代になれば話は違ってくる。5Gは19年が元年とされ、クラウドゲームの敵だった通信環境は徐々に改善されていくのは確実な情勢。クラウドゲームに再び商機を見出すのは自然の流れだ。
そもそもクラウドゲームは「好きなタイトルを好きな時に好きなだけ」楽しめるサービス。ソニーが全社的に進める「リカーリングビジネス」とも相性がいい。
リカーリングビジネスとは、商品単品の売り切りビジネスではなくて、1つの商品をきっかけに継続的な利益を生み出すビジネスのことだ。ユーザーがコンテンツに逐一課金するクラウドゲームは、リカーリングビジネスの代表格だ。
その実現には、大容量のデータを蓄積できるデータセンターの存在が欠かせない。ソニーは現在PSナウで活用する社外のデータセンターを「マイクロソフトに置き換えるわけではない」と説明している。
ただし、「さらなるクラウドゲーム展開に向けて、より強力なデータセンターが欲しかったソニーは、提携で時間を買う」(ゲームメーカー幹部)との見立てが一般的だ。
さらに、「マイクロソフトは自社データセンターの稼働率を高めたかった」(安田シニアアナリスト)という事情があるとすれば、話の筋は見えてくる。もちろん両社がタッグを組んだ根本的な背景には、ゲーム新規参入組への対抗意識があろう。
両社は他に、ソニーのイメージセンサーや消費者向け製品(家電など)と、マイクロソフトのAIの組み合わせなどより広範な協業も検討する。
ゲーム頼みのソニーの株価対策にも
今回の発表のタイミングと、見切り発車的な発表内容は、ソニーの投資家に対するアドバルーン的な要素もにじむ。
グーグルがクラウドゲームで、ゲーム市場に参入すると発表したのは3月19日。営業利益の3分の1余り(19年3月期)をゲーム関連で稼ぐソニーにとってマイナス材料となり、株価は約1割も下落した。
4月に入って株価は持ち直したものの、物言う株主、米サード・ポイントによるソニー株再取得報道という“他力での株価上昇”が実態だった。「グーグルなどにどう対抗するのか」の早急な答えを投資家は求めていた。
4月26日にあった19年3月期の通期決算会見で十時裕樹CFO(最高財務責任者)から直接的な答えはなかったが、問わず語りで自社のクラウドゲーム(PSナウ)の経過や実績を説明。「ビジョンは来月(5月)に説明する」と伏線を張った。
そして今回の発表。自社株買い発表が重なって、17日の株価(終値5900円)は前日比約1割も上がった。
週が明けて21日のソニー経営戦略説明会に、吉田憲一郎社長兼CEOはマイクロソフトとの協業検討という強烈な手土産を持って現れる。語られるソニーの将来像に俄然、関心が高まってきた。
(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
