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世界リレー選手権で「意外な国」が大活躍できた理由

文● 相沢光一(ダイヤモンド・オンライン

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男子1600メートルリレー,日本
男子1600メートルリレー決勝で4位に入った(左から)ウォルシュ・ジュリアン、佐藤拳太郎、北谷直輝、若林康太 Photo:JIJI

日本のリレーは世界レベル
男女混合種目ではメダル獲得も

 先週末に横浜国際競技場で行われた世界リレー大会(IAAF World Relays)は改めて「かけっこ」の面白さを実感させてくれた。

 学校や町内で行われる運動会でも一番盛り上がるのはリレーだ。そのためプログラムでも最後に組まれることが多く、リレーのメンバーに選ばれた選手はチームの勝利のために全力を尽くす。

 世界リレーの場合はそれが国の代表だ。各国の国内大会を勝ち抜いたスプリンターたちが国の名誉を背負って出場するわけで、スピードが世界最高レベルであることはもちろん、真剣度もマックス。それを示すようにレースでは全員が必死の形相で走っていた。最高峰のガチンコ勝負が見られるのが世界リレーの魅力といえるだろう。

 注目の日本勢は、メダルが期待された男子4×100mが予選でバトンミスを犯して失格になってしまったが、4×400mではウォルシュ・ジュリアン、佐藤拳太郎、北谷直輝、若林康太が健闘し、4位に入賞した。

 また、世界リレーならではの種目でも日本勢は好結果を残した。4×200mは男女とも決勝に進出し、女子は4位、男子は5位に。しかも、山田美来、三宅奈緒香、兒玉芽生、青野朱李の4人が攻めの走りをした女子では、日本記録更新という収穫もあった

 男女各1人が400mを交互に2度走る2×2×400mリレーでは、男子のクレイ・アーロン竜波と女子の塩見綾乃が力走を見せて銅メダル。男女2人ずつがハードルのリレーをする混合シャトル障害リレーは参加が4ヵ国ではあったが、2位に入り銀メダルを獲得した。

 これらは五輪種目ではないものの、世界のトップと対等に戦えたという点で選手たちには自信になっただろう。

世界リレーで起きた異変
「長距離王国」ケニアが大活躍

 ところで今回の世界リレーで、ちょっとした驚きがあった。ケニアが男女4×200m、混合4×400m、2×2×400mの4種目のリレーで決勝に進出し、混合4×400mでは銅メダルを獲得したのだ。

 ケニアは長距離王国として知られている。男子マラソンの世界記録2時間1分39秒を昨年9月につくったエリウド・キプチョゲを筆頭に、男子マラソンの歴代記録10傑には5人、女子マラソンの10傑にも6人のケニア人が入っている。今年2月に国際陸上競技連盟が導入した世界ランキングでも、マラソンはケニアとエチオピアの選手が上位を独占している状態だ。

 最近では人間の運動能力を遺伝子から分析する研究が進んでいて、短距離向きと長距離向きの遺伝子があるらしい。そんな観点から、ケニア人は長距離向きの遺伝子を持つ傾向があるともいわれてきた。加えてケニアは高地が多く、環境面でも長距離に強い選手が生まれると思われている。

 ただ、冷静に考えればケニア人にもさまざまな体質を持つ人がいるわけで、短距離向きの選手もいる。男子800mの世界記録を持っているのはケニアのデイヴィッド・レクタ・ルディシャで、その記録は1分40秒91。これを100mに換算すると12秒61。このスピードを800m継続したわけだ。

 ルディシャがペース配分などを考えずに100mを全力で走ったら11秒台は当然出るだろうし、11秒を切るかもしれない。ただ、このタイムでは100mや200mでは勝負にならないから持ち前の持久力を生かして、中距離の選手になったと考えられる。

 ケニアにもこういうタイプの選手は一定数いて、短距離に特化したトレーニングを行い、世界リレーに出るような選手が出てきたのではないだろうか。また、個人の短距離種目ではタイム的に太刀打ちできなくても、リレーならバトン渡しのテクニックを磨くことでタイム差を補うことはできる。今回の世界リレーでケニアが台頭したのは、そんな背景があるのではないだろうか。

 もともとケニア人は陸上競技向きの人種なのかもしれない。ケニアの選手も昔から長距離が強かったわけではない。五輪のマラソンで初めてケニア選手がメダルを獲得したのは、1988年のソウル大会。日本でトレーニングを積んだダグラス・ワキウリが銀メダルを獲得し、母国のヒーローになった。

 それからケニアでは本格的に長距離選手養成を行うようになり、素質を開花させる選手が続出するようになったのだ。この前例を見れば、今後はケニアから短距離に強い選手が登場してもおかしくない。

トルコ大躍進の背景に
「スーパー帰化選手」の存在

 今回の世界リレーでは意外な国も存在感を示した。そのひとつがトルコだ。男子4×100mリレーで決勝に進出。7位に終ったが、39秒13と十分トップレベルといえるタイムを記録した。

 トルコの躍進は帰化選手の力を借りたものだ。メンバー4人のうち2人がジャマイカ、1人がアゼルバイジャン出身だ。このアゼルバイジャン出身選手が、2017年ロンドン世界陸上200m金メダリストのラミル・グリエフ。19歳の時に200mでウサイン・ボルトに次ぐジュニア世界2位の記録を出した逸材で、より良い環境を求めてトルコに帰化した。そして順調に記録を伸ばしたわけだ。

 バーレーンやカタールといった中東諸国が長距離選手をケニア、短距離選手をジャマイカなどから帰化させて成果を上げていることは知られているが、トルコでも同様の強化を行っている。国際陸連はこの流れを憂慮し、国籍変更の厳密化を検討しているため、今後もトルコが強さを維持できるかは不透明だ。

 その点、快挙を成し遂げたといえるのが女子4×200mで決勝に進出し、7位に入ったパプアニューギニアだ。パプアニューギニアは日本の真南、南太平洋にあるニューギニア島の東半分と周辺の島々からなる国だ。

 人口は約825万人。スポーツはオーストラリア、ニュージーランドが近いためラグビーが盛んだが、他の競技はこれといった実績はない。五輪でのメダル獲得もゼロ。2016年リオ五輪に出場した選手は6競技8人に過ぎない。そんな小国がリレーで世界の7位になったのだ。現地では大騒ぎになっているのではないだろうか。

 ここまでのレベルに選手を育て、派遣した同国陸上関係者をたたえたい。

10秒を切る選手がいなくても
リレーなら優勝できる面白さ

 ただ、こうした快挙が実現できるのもリレーだからだろう。もちろん選手個々にトップレベルの実力は必要だが、バトン渡しのテクニックも差を埋める要素になるからだ。

 日本の強みもここにある。日本でも桐生祥秀、サニブラウン・ハキームという10秒を切る選手が現れ、彼らと遜色ない実力を持つ山縣亮太、多田修平、ケンブリッジ飛鳥、小池祐貴、飯塚翔太といった選手がいる。世界リレーではバトンミスがあったが、これを薬に練習を積めば精度は上がる。

 世界リレーの男子4×100mでは、10秒を切った選手が1人もいないブラジルが優勝した。この例を見れば、日本リレーチームは十分世界のトップを狙える位置にあるといえる。

 19日(日)に大阪・ヤンマースタジアム長居で開催されるセイコーゴールデングランプリ陸上では、男子4×100mをはじめとするリレーが行われ、アメリカ、オーストラリアといった強豪国も出場する。日本選手の動向も含めて見どころは盛りだくさん。かけっこの面白さをさらに味わえる絶好の機会になるはずだ。

(スポーツライター 相沢光一)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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