MaaSとは移動もサービスという考え
「MaaS(マース)」とは「Mobility as a Service」の略であり、直訳すると「モビリティーはサービスと同じ」となる。意味合い的には “移動”すること自体をサービスとして考える。クルマもモビリティーだが、それだけではなく、電車や自転車など、他の移動手段と合わせて提供するのも特徴だ。
複数の移動手段による情報の統合から始まり、決済の統合、実サービス(移動手段)の統合などと進化するという。また、自動車メーカーやサプライヤー側からは、MaaSにはクラウドと直結(コネクテッド機能)した電動の自動運転車を利用しようというアイデアがあちこちで提案されている。
このMaaSがもてはやされるまでの流れを振り返ると、4年前のフォルクスワーゲンによるディーゼル排気ガス不正問題が大きな転機であったことに気づく。その直前となる、2015年9月のフランクフルト・モーターショーまで、欧州の自動車メーカーは「環境対策に最適なのは、ディーゼル・エンジン」だと胸を張っていたのだ。ハイブリッドや電気自動車に熱心なのは、日本メーカーとBMWくらい。ところが、ショー直後にフォルクスワーゲンによるディーゼル排気ガス不正が発覚。そこから風向きが大きく変わった。
翌2016年秋のパリモーターショーでは、メルセデスベンツは中期経営計画「CASE(ケース)」を発表する。これは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング)」「Electric(電動化)」の頭文字をつなげたもの。あわせてメルセデスベンツは「EQ」という電動化に特化したサブブランドを発表。またフォルクスワーゲンもEVの「I.D.」シリーズを発表。一気にドイツ勢は、電動化と自動運転化に傾倒することになったのだ。
それから数ヵ月後の翌2017年1月のデトロイト・モーターショーで、フォードは「City of Tomorrow」というビジョンを発表する。現在のクルマだらけの街ではなく、自動運転の電気自動車のシェアや、都市インフラとの相互作用によるエコな街を提案したのだ。そして「フォードは、多くの交通手段の選択肢とソリューションを提供する」と宣言。つまり、たんなる自動車メーカーではなく、多様な移動手段を提供するメーカーになるというのである。
トヨタも単なる自動車メーカーから変わる宣言
さらに2017年10月の東京モーターショーで、トヨタもフォードと同じように「トヨタはクルマ社会を越えて、人々の移動を助ける会社へ」と変化する宣言をした。これには驚かされた。そして、翌2018年1月のラスベガスで開催された最新エレクトロニクスの展示会「CES」で、「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」を発表する。このコンセプトカーは、電動化/コネクテッド/自動運転技術を活用したMaaS専用次世代EVであり、移動/物流/物販などのさまざまなサービスに対応するという。ここから急激にMaaSが話題になるようになった。
2019年1月のCESでは、自動車メーカーやサプライヤーのあちこちのブースに「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」と同じような箱型EVのMaaS専用コンセプトカーが並ぶことに。もう、すっかりMaaSは自動車業界のトレンドとなっていた。
つまり、ディーゼル不正をきっかけに流れを変えた自動車業界が、次世代のクルマのあるべき姿を模索した結果、行きついた答えが、「CASE(ケース)」(※)であり、「MaaS(マース)」だったと言えるだろう。
※CASEとはConnected、Autonomous、Shared&Services、Electricの頭文字を取った造語。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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