このページの本文へ

日産、榊原定征氏が取締役会議長に就く「横滑り」人事案の不可解

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
榊原氏が日産のガバナンス改善特別委員会の共同委員長から、取締役会議長へ“横滑り”する人事には疑問符がつけられそうだ
ガバナンス改善特別委員会の共同委員長から、日産取締役会議長へ“横滑り”する人事には疑問符がつけられそうだ 写真:つのだよしお/アフロ

 ゴーン問題に揺れる日産自動車の経営体制の見直しが急ピッチで進められている。その一環として、榊原定征・日本経済団体連合会前会長(東レ特別顧問)を日産の取締役会議長へ据える人事案が浮上している。

 具体的には、榊原氏が6月の定時株主総会で社外取締役として選出された上で、取締役会議長に就くステップを踏む見通しだ。

 一般的には、取締役会議長ポストには、代表取締役社長・会長など社内取締役の序列トップが就くことが多い。社内の実力者が取締役会の議論の進行役を務めることは、日本の上場企業では当然とされてきた。

 昨年12月に、日産はカルロス・ゴーン元会長に権力が集中した企業統治(コーポレート・ガバナンス)を改めるため、独立した第三者の提言を取りまとめる「ガバナンス改善特別委員会(特別委)」を設置。3月17日までに4回の会合を終えており、3月27日の最終会合で提言を取りまとめて、日産の取締役会に伝える手はずになっている。

 その提言の骨子として、取締役会議長を会長の兼務ではなく社外取締役に担わせること、会長職を空席とすること、現在の監査役会設置会社から「指名委員会等設置会社」へ移行することなどが盛り込まれる予定だ。

 榊原氏の取締役議長就任は、これらの特別委の提言を踏まえて検討されるということになっている。

 だが、榊原氏の就任プロセスには、独立性や客観性が完全に確保されているとは言えず、疑義を挟む余地がありそうだ。

疑義のある2つのポイント

 というのも、榊原氏は特別委の共同委員長を務めており、このまま取締役会議長ポストへ「横滑り」する人事が適切とはいえないという見方があるからだ。

 実際に、ある日産幹部も「自分(榊原氏)が自分を選んだようなものといわれても仕方ない」と懸念をあらわにする。

 就任プロセスが問われるポイントは以下の2つである。

(1)特別委の選任は誰が行うのか。
(2)新しい社内外の取締役の選任は誰が行うのか。

 まず、(1)特別委の選任についてみていこう。

 日産資料によれば、特別委の人選については、「独立社外取締役3名の総意により、特別委の委員4名を決定した」とされている。

 独立社外取締役とは、豊田正和(経済産業省OB)氏、井原慶子氏(レーシングドライバー)、ジャンバプティステ・ドゥザン氏(ルノー出身)の3名である。この独立社外取締役3名が、榊原氏や西岡清一郎(元裁判官の弁護士)ら外部の専門家4名を選定したとされており、資料上では、日産経営陣が特別委委員を選んだことにはなっていない。

 また、日産は、特別委の構成メンバーとして独立社外取締役3名より多い4名の外部専門家を入れたことを念頭に、独立性を主張している。

 次に、(2)新しい社内外の取締役の選任についてはどうか。

 ゴーン元会長時代には、西川廣人・日産社長以下執行役員53人全員の「人事権」と「報酬決定権」はゴーン氏が握っていたため、日産には指名委員会がない。

 特別委の提言で示される予定の「指名委員会等設置会社」へ移行する予定だが、現段階では、日産経営陣が新しい社内外の取締役を選任することになる。

 つまり、(1)の特別委の専任プロセスで、日産経営陣が榊原氏を選んだ訳ではなく、(2)の取締役の選任プロセスで、日産経営陣が榊原氏を選ぶ候補として考えているということだ。

 日産経営陣が、榊原氏の将来の取締役選任ありきで特別委委員が決められたとはいえないので、榊原氏の取締役会議長の就任プロセスは「自分が自分を選んだ」状態であるとも言い切れない。

 従って、就任プロセスは、法律上クリアしているということになろう。

「仲間うち」人事と受け取られかねない

 もっとも、このプロセスについて、専門家の間でも疑問の声が上がっている。

 企業統治に詳しい高橋明人・弁護士は、「あえて社外取締役を取締役会議長に据えて、自由な意見を取り入れようとしていることは先進的な取り組みだ」と評価する。

 その一方で、「これだけ世間を騒がせた事件の性質に鑑みれば、もっと多様な人材を登用し、クリアな体制にするべきだ。特別委委員と取締役会議長が重なっていることは、仲間うちで選任プロセスが進んだと受け取られかねない」(高橋弁護士)と言う。

 ゴーン氏による不正問題が司法の場でどう裁かれるのかは定かではない。それでも、ゴーン氏に権力が集中し、日産のガバナンスが機能不全に陥っていたことは紛れもない事実だ。そして、その機能不全を放置した責任は日産の経営陣にあることはいうまでもない。

 日産が本気で、ガバナンス改善を最優先するならば、「李下に冠を正さず」の姿勢が求められるのではないか。

 そう考えると、(1)の特別委の専任プロセスに関しては、独立社外取締役3人の意見がどの程度反映されたのかは疑わしいところもある。

 3人のうち、豊田氏と井原氏は企業経営の専門家ではないし、ルノー出身のドゥザン氏は(ガバナンス問題を最小化したいという意味では)日産と利害が一致する“身内”だからだ。

東レと日産では経営統治法が違う

 付け加えれば、榊原氏が新生・日産の“顔”として経営統治を行なう適性があるかどうかという問題もあろう。榊原氏の出身母体である東レと日産とでは、経営統治のスタイルが全く異なるからだ。

 東レは、長らく社外取締役導入の義務化に反対の立場を取ってきたが、榊原氏の経団連会長就任を機に、導入を余儀なくされている。

アライアンスオペレーションボードのメンバー
3月12日に創設が表明されたアライアンス オペレーション ボードのメンバー。ルノーから2人、日産自動車と三菱自動車から1人ずつの構成で落ち着いた Photo by Fusako Asashima

 また、東レは、現場に密着した経営判断と株主に対する経営責任完遂の両方を成立させるため、歴代経営者の強い意思から「執行役員制度」の導入を見合わせている。

 日産の企業統治は、「経営」と「執行」が完全に分離されてきた。経営を担う取締役会はゴーン氏が全権を握り、取締役会の機能は形骸化していたに等しい。日産には最高意思決定機関であるエグゼクティブ・コミッティ(EC)が存在し、強い執行権限と持っている。

 果たして、経営と執行が分離したガバナンスの経験値がない榊原氏は、本当に適任者なのだろうか。

疑われるルノーとのバーター取引?

 そして、日産関係者の間でまことしやかに囁かれているのが、「日産とルノーの“バーター取引”に榊原氏は巻き込まれたのではないか」という説である。

 どういうことか。当初、ルノー側は、ルノーが日産会長と日産取締役会議長(日産の定款で会長が取締役会議長を務めることが決まっている)のポストを占有する方針を示していた。

 だが、蓋を開けてみれば、日産の会長ポストは空席、取締役会議長は社外取締役が就任(榊原氏を
想定)、取締役会副議長にジャンドミニク・スナール・ルノー会長が就くラインで調整されている。

ルノーのスナール会長(右)とボロレCEO(最高経営責任者)
ルノーのスナール会長(右)とボロレCEO(最高経営責任者)。日産とルノーの確執が解消されたわけではない Photo by Fusako Asashima

 日産の首脳人事においては、日産の独立性を尊重し、ゴーン氏時代に比べればルノーの影響力を若干抑えた。

 それでも、日産、ルノー、三菱自動車の3社連合の“司令塔”とも言うべき新組織「アライアンスオペレーティングボード」の人事では、ルノーが優勢を維持。主要4ポストのうち、ルノー側が2ポスト(スナール会長、ティエリー・ボロレ・ルノーCEO(最高経営責任者))を押さえた。

 ゴーン氏の電撃逮捕以降、関係がギクシャクしている日産とルノー。その権力争いの落とし所を探ろうとして、両社が互いに歩み寄った“バーター取引”のようにも映る。

 ある日産幹部によれば、「(アライアンスボードのみならず)日産のポストにもこだわるルノー側を粘り強く説得したのは、ルノー出身のフィリップ・クラン日産CPLO(チーフ・プランニング・オフィサー)だった」と言う。

 本来、今の日産とルノーのアライアンス経営陣に求められているのは、1990年の提携当初の原点回帰に立ち返り、ビジネスの経済合理性で相乗効果を目指す姿のはずだ。

 ところが、「榊原氏人事」に見え隠れするのは、ガバナンス改革を軽視し、日産とルノーの妥協点を重視する経営姿勢である。ガバナンスの反省なき新アライアンスの登場は、新たな独裁者を生む土壌にもなりかねない。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 浅島亮子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ