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景気判断「下方修正」でも消費増税を再々延期する必要性はない

2019年03月20日 06時00分更新

文● 熊野英生(ダイヤモンド・オンライン

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消費増税の再々延期の可能性は
Photo:PIXTA

 内閣府が発表した1月の景気動向指数で、CI一致指数の基調判断が「下方への局面変化」へと下方修正された。

 昨年11月から3ヵ月連続で一致指数が前月比マイナスを続けていることが根拠だ。鉱工業生産指数などの生産関連のデータが軒並み悪化していて、典型的な外需主導の景気後退の様相を呈している。

 ここで考えさせられるのは、果たして安倍政権は公約通りに2019年10月の消費税率引き上げを実行するかどうかという点だ。

「消費税増税をまたまた延期するのでは」という声も聞こえてくるが、どうだろうか。

「景気後退」の判断を
急ぐ必要はない

 政府は、一応「リーマンショック級の出来事がない限り」は、税率10%への引き上げを実行すると表明している。

 また、景気の「山」「谷」は、随分、後になって景気動向指数研究会が決めるわけで、実際に景気が後退局面に入ったかどうかは、まださだかではない。

 1月の月例経済報告では、戦後最長の景気拡大期間になった可能性が高いとしたばかりである。

 まずは、今回の基調判断のもとになった経済指標の変化から読み解いていこう。

 景気動向指数の一致指数は、鉱工業生産指数との関連が深い。だから、生産動向に注目すると、景気の先行きが読める。

 1月の生産指数は、速報で前月比3.7%のマイナスだった。これは、中国が旧正月(春節)の手前で工場の操業を停止することが多かったため、中国向け輸出が落ちた影響だと考えられる。

 昨年よりも今年の方が旧正月前の休みが長くなって、中国向け輸出減が目立ったのである。

 こうした特殊要因を加味したことで、鉱工業生産の予測指数は2月はプラス5.0%と盛り返す見通しだ。

 この予測指数は、実績で下方修正されることもあり、このプラス5..0%はかなり割り引かれると見られる。それでもプラスは維持されて、一致指数も4ヵ月連続のマイナスは回避できると予想される。

 ただこれは、いわばテクニカルな要因だ。もっと広い視野でみると、問題は米中貿易戦争が終息するかどうかにかかっている。

 米中間での協議がまとまり、例えば、すでにかけられた制裁関税(2500億ドル)の関税率が一転して0%にする合意がまとまった場合には、目先の景気動向指数の悪化はごく短期で終わる。

 米中協議は、米国による追加関税実施期限が、米中首脳会談が開催される3月27日にまで、延期された。さらに、その首脳会談開催も4月上旬くらいまで延期される公算が高まっている。

 米中協議が終わらないと、「景気悪化」の行方を見極められないというのが、正直なところだろう。

 中国も3月5日から始まった全国人民代表大会で米国の要求に応える対応を示すとともに、成長減速に対応するため景気対策実施へとかじを切っている。

 早ければ、2019年4~5月にも金融緩和などの効果が表れると予想される。

 そうなれば、中国向けの輸出回復で生産も持ち直す可能性があり、従って景気後退の判断を急ぐ必要はないと考えられる。

「消費増税再々延期」は
統一地方選の結果次第

 頭に入れておかなくてはいけないのは、日本の政治日程であり、政治の判断だ。

 4月は統一地方選挙があり、7月は参議院選挙が予定されている。統一選の情勢をみて、参院選が不利になりそうなら、安倍首相は10月の増税を再々延期する荒技を繰り出す可能性はある。

 例えば 2019年10月の増税時期を2020年4月にして、増税の反動不況を東京五輪ムードで帳消しにすることを狙うだろう。これで景気へのハト派姿勢を安倍政権はみせることができる。

 野党は、4月の統一地方選の前後で、「消費増税たたき」を熱心にやり過ぎると、参院選前に増税再々延期を与党が決めたときに完全にはしごを外される。過去にも思い出される痛い教訓だ。

 もうひとつ注目すべきは 6月の大阪G20サミットのときにどうするかだ。

 サミットには、トランプ大統領も習近平主席も日本に来る。いまの見通しでは、この時には、米中協議が、いい方向であれ、決裂であれ、はっきりしているはずだ。

 もし貿易戦争が泥沼化して、世界経済の景気悪化がより現実味をおびるようになっていたら、安倍首相は、議長国として、米国に厳しい姿勢をとるしかない。

 日本以上に景気が厳しい欧州の首脳も同調して、中国・欧州と日本が景気悪化の火元であるトランプ大統領に対して景気後退の責任を追及することになろう。

 それによって、消費増税の再々延期が“正当化”される空気が生まれる可能性もある。

 結局、安倍政権のスタンスは、3月末の米中協議を待ち、4月の統一地方選挙(前半7日、後半21日)の結果をみるというのが、基本になるだろう。

 6月のG20サミットのときに、景気後退を認めるのは、サミットの成功を演出するうえでも、やはり不都合だ。だから、ぎりぎり7月の参議院選挙の前が、「景気後退の宣言+消費増税の再々延期」ということになる。

可能性が高いのは
増税+大型景気対策

 だが、これは、あくまで「悪夢のシナリオがあるとすれば」という話である。

 可能性が高いのは、景気後退を宣言することはなく、むしろ増税の不安に対して、大型公共事業をさらに2019年度中に積み上げるような政策対応だろう。

 筆者が考えるメインシナリオは、景気後退は宣言しないまま大型景気対策を打ち出すというものだ。

 なぜなら、消費増税の再々延期となれば、安倍政権はリーマンショックに準じるような景気悪化を招いたことになり、1月までの「戦後最長」の景気拡大はアベノミクスの成果として認められなくなるからだ。

 野党から、アベノミクスの化けの皮がはがれ、脆弱な経済政策だったことを指弾されるのは目に見えている。これは消費増税の先送りへの批判よりも、政権にとっては、不都合だろう。

 また直前で増税を見送って参院選でかりに勝利できたとしても、2021年9月までの任期中に財政再建をどう前進させるかが問われる。

 3期目の安倍政権は年金改革、高齢者雇用見直しに取り組む構えをみせている。社会保障政策に軸足を置くのならば、財源を確保したうえで、制度改革を唱える方が、国会論議などで弱点が少なくてよいと考えられる。

 こうしたことを考えると、安倍首相は、増税延期と増税+αの政策をてんびんにかけて、しばらくは様子をみると予想される。

必要なのは
不確実性を払拭する政策

 常識的な判断として、消費増税するときに、本当に個人消費が激減するのなら、増税はやめた方がよい。筆者もそう考える。

 しかし、現在、人々がおびえているのは、消費税率を引き上げたときに、何が起こるかわからないという不確実性である。

 情勢が見えにくいことを理由にして増税を延期するのは、先行きが見通しにくいから先送りするという心理にすぎない。

 これでは、企業も消費者もずっと先々まで不確実性におびえ続けることになるだろう。これこそが「デフレマインド」の正体だ。

 したがって、これから消費税率を10%に引き上げようとするときに、私たちの社会が直面している課題とは、そのための準備をしっかりとやって、その不確実性を乗り越える挑戦をすることだろう。

 企業の収益体質が強くなっていることに自信を持ち、数年間、続けた賃上げによって勤労者の所得・消費も強い体質に変わったことを自覚することだ。

 筆者は、これまでの消費増税対策はやり過ぎたと思うが、それでも仕方ないと考えているのは、不確実性におびえる心理からの決別が必要だと考えるからだ。

 消費増税をまたまた延期するのか、増税を逃げず、「+α」の政策で企業や人々を前向きにさせるのか、安倍政権は、いずれ重要な判断を迫られる。

(第一生命経済研究所首席エコノミスト 熊野英生)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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