高発熱GPUサーバーや大容量回線が使えるDC内のハイスペックインフラで企業のDX支援「Nexcenter Lab」
NTT Comが“次世代技術のPoC拠点”パートナー23社と開設
2019年03月13日 07時00分更新
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は2019年3月12日、企業のデジタルトランスフォーメーション支援を目的として、ITパートナー23社と共に展開するプログラム「Nexcenter Lab」の開始を発表した。東京エリアのNTT Comデータセンター(DC)内にハイスペックインフラを備えたPoC拠点を設け、大規模ディープラーニングや“メモリ主導型コンピューティング”など、ITパートナーの次世代ソリューション群を顧客企業が検証できるよう提供していく。
同日には、NTT Comデータセンター内のNexcenter Lab拠点で記者説明会が開催された。NTT Com 代表取締役副社長の森林正彰氏をはじめ、パートナー企業として日本ヒューレット・パッカード(HPE)、EMCジャパン(Dell EMC)、レッドハットの各社からも代表が出席し、Nexcenter Labの取り組みに対する期待を語った。
“DX Enabler”として、顧客企業の次世代ビジネスアイデアを実装するPoC環境を提供
記者説明会ではまずNTT Comの森林正彰氏と飯田健一郎氏が、今回の取り組みの概要や狙い、施設について説明を行った。
NTT Comでは近年、顧客企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するパートナーになるという「DX Enabler」の企業ビジョンを掲げてきた。森林氏は、NTT Com自身のDX推進に向けた社内の取り組み、顧客企業や社会のDX推進に向けた社外の取り組みという両方に取り組んでおり、たとえば社外では4つの具体的テーマに基づく応募型プログラム「Open Innovation Program」、ベトナムやマレーシアなどアジアのスタートアップを発掘するビジネスコンテスト「Startup Challenge」などを展開していると紹介する。
今回のNexcenter Labも、そうした“DX Enabler”としての取り組みの一環だ。具体的には、NTT Comが運営するデータセンターにITパートナー各社が製品/サービス/ソリューションを持ち寄ることでオープンイノベーションを促すと同時に、顧客企業が新たなビジネスアイデアや次世代IT環境のPoCを実施できる環境を提供する。同社ではすでに同様の取り組みをドイツ、マレーシアで展開しており、今回の東京のほか、英国やオランダ、タイなどでも展開準備中だと飯田氏は説明した。
最近では多くのITベンダーがオープンイノベーションのための施設を開設しているが、Nexcenter Labの特徴はデータセンター内に設置され、NTT Comが保有するハイスペックなITインフラが利用できる点にある。ネットワーク面では国内3大IX(JPNAP、BBIX、JPIX)とのダイレクト接続や、主要パブリッククラウドとシームレスに接続できる「SD-Exchange」、各種パートナーサービスとの相互接続性が確保されている。また、サーバールーム内には水冷式の高効率ラック空調機を備えるサーバーラックを用意しており、一般的なデータセンターでは設置が難しい30KW/ラック以上の高発熱GPUサーバーも設置可能。
こうしたハイスペックな環境を使って、パートナー各社も最新の次世代技術環境を構築し、顧客企業のPoC向けに提供できる。たとえば今回はHPEが、24TBの巨大メモリプールを備えたメモリ主導型コンピューティングのPoC環境(「Memory-Driven Computing 検証環境」)を構築し、この次世代アーキテクチャ向けのアプリケーション開発やPoCを望む顧客に提供する(設置は今夏の予定)。
また森林氏は、NTT Com自身のサービス提供環境を検討、検証していくうえでも役立つのではないかという見方を示した。
「NTT Comはハードウェアやソフトウェアの製品を持っていない。したがってパートナーの皆さんにここに持ってきていただければ、NTT Com自身が展開するクラウドサービスなどの次世代環境についても学び、検証できると考えている」(森林氏)
なお同施設には、サーバールームに隣接するかたちでプレゼンテーションルームも用意されている。NTT Com主催の講演会や展示会を四半期ごとに実施していくほか、スタートアップ企業との交流イベント、ハッカソンなども開催予定。さらにはパートナーにも利用を開放し、パートナー主催のイベントも開催できるとしている。
今回の発表では23社のITパートナーが公開されているが(本文末参照)、参画パートナーに関しては「わりとオープンにやっていく」(森林氏)方針であり、今後もさらなる拡大が考えられる。また将来的には、大阪のDCにもNexcenter Labを開設する計画としている。
「Nexcenter Labはグローバルにつながっているので、顧客企業はグローバル規模でDXが展開できる。ぜひとも“日本発”のグローバル標準、テクノロジーといったものが生み出せたらと考えている」(飯田氏)
メモリ主導型コンピューティング、大規模ディープラーニングなどの環境を計画
記者説明会にはHPE、Dell EMC、レッドハットのパートナー各社もゲスト登壇し、Nexcenter Labでそれぞれ提供する製品/ソリューションを紹介したほか、NTT Comとの取り組みへの期待を語った。
HPEの五十嵐毅氏は、前述したメモリ主導型コンピューティングのPoC環境を紹介した。企業が取り扱うデータ量が爆発的に増大する中で、「従来のプロセッサ中心型アーキテクチャには限界が来ている」(五十嵐氏)ため、HPEでは数年前からこの新しいアーキテクチャの研究開発と実装に取り組んできた。アルツハイマー病の研究を行うドイツのDZNEでは、メモリ主導型コンピューティングを導入したことで、電力削減によって研究コストを60%削減し、分析処理のスピードをおよそ100倍(22分から13秒へ)短縮したという。
なお五十嵐氏によると、メモリ主導型コンピューティングのPoC環境が顧客向けに提供されるのは、今回の東京が米国HPE Labsに続く2拠点目になるという。「日本にもPoC基盤を設置することで、日本企業がデータを活用して世界のマーケットに打って出ていくための支援をしていきたい」(五十嵐氏)。
Dell EMCの日下幸徳氏は、AI/機械学習を活用しなければこれからのビジネスでは「勝っていけない」時代が来ていると語った。その中でも特に注目されるディープラーニング領域では、大規模なGPUコンピューティング環境の活用が必須となるが、GPUサーバーの発熱量がネックとなり、一般的なデータセンターの空調能力では1ラックあたり2、3台程度しか設置できない問題がある。
Nexcenter Labのサーバールームは水冷対応となっており、「GPUサーバーをラックにフル搭載することができる」と日下氏は語った。Dell EMCでは、高密度データセンター向けの「CoolIT」水冷サーバーをラインアップしており、こうした製品を使って高密度GPUサーバークラスタのPoC環境を構築していくことを説明した。
レッドハットの岡下浩明氏は、同社では「Red Hat OpenStack」「Red Hat OpenShift Container Platform」「Red Hat Ansible Tower」といったソフトウェア製品群で“オープンハイブリッドクラウド”の確立を目指していることを説明。主要クラウドサービスや他のデータセンターとのネットワーク環境が整っているNexcenter Labでは「ハイブリッドクラウド環境がすぐに試せる」と、期待できるメリットを説明した。
また企業のAI/機械学習ニーズが高まる中で、今後はマルチテナント型の“GPU-as-a-Service”が展開されるようになると指摘。そのサービス基盤はコンテナベースで構築されると考えられるため、Nexcenter Labの充実した設備にOpenShiftを組み合わせて、大規模な検証を実施していきたいと説明した。
●Nexcenter Lab ITパートナー一覧(2019年3月12日時点)
日本ヒューレット・パッカード、Dell EMC(EMCジャパン)、レッドハット、インテルコーポレーション、パンドウイットコーポレーション、村田製作所、DKSHジャパン、ABEJA、レノボ・エンタプライズ・ソリューションズ、ラリタン・ジャパン、日本オラクル、日本フォームサービス、日東工業、中央製作所、河村電器産業、マサル工業、能美防災、日本電気(NEC)、日比谷総合設備、NTTファシリティーズ、NTTPCコミュニケーションズ、スーパーマイクロ、ヴイエムウェア