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「大津いじめ自殺」が世に問うた、隠蔽する大人たちの「振る舞い」

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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この事件でクローズアップされたのは、地位や権力を持った大人が「隠ぺい」「口封じ」などの保身に走り、卑怯で情けない姿を相次いでさらしてしまった悲しい事実でした。
写真はイメージです Photo:PIXTA

2011年10月に大津市の中学2年の男子生徒(当時13歳)が自殺したのはいじめが原因として、遺族が加害者の元同級生3人と保護者に慰謝料など約3850万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大津地裁の西岡繁靖裁判長は19日、「自殺は元同級生2人の暴行や人間関係が原因だった」としていじめと自殺の因果関係を認め、2人にほぼ満額の約3750万円の支払いを命じた。「いじめ防止対策推進法」成立のきっかけとなったこの事件。男子生徒の父親は判決言い渡し後の記者会見で「主張をほぼ認めてもらえた」などと述べ、涙を浮かべた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

卑怯で情けない大人たち

 判決は確定していないが、元同級生2人が最高裁まで争ったとしても、金額に多少の変動があってもこの判断は間違いなく覆らないはずだ。そして、成人したばかりの元同級生2人はお互いに責任を押し付け合う醜い争いを繰り返し、自滅していくだろう。

 しかし、いくら責任逃れの主張をしようとも、直接手を下してはいないにしろ、自分たちが男子生徒を死に至らしめた事実は明白で、その責任を負うのは当たり前だ。

 補足が必要だが、西岡裁判長は、元同級生1人は関与の度合いが低く、保護者についてはいじめを認識しておらず監督義務違反がなかったと結論付け、賠償責任を課さなかった。

 ほかの誰が悪いわけでもない。加害者と認定された2人が悪いわけだが、いずれも口頭弁論では一貫して「遊びの延長」などと責任回避の主張を展開していた。

 そして、この事件でクローズアップされたのは、地位や権力を持った大人が「隠ぺい」「口封じ」などの保身に走り、卑怯で情けない姿を相次いでさらしてしまった悲しい事実だった。

 判決が事実認定した要点は以下の通りだ。

 男子生徒は2011年春、中学2年で元同級生2人と同じクラスになり、昼食を一緒に食べたり花火大会に出掛けたりするなど交友を深めた。しかし、2学期には首を絞めたり弁当を隠したりするなどの「いじる」「いじられる」の関係に変わった。

 さらに「遊び」の名の下で顔に落書きしたり、殴ったり蹴ったりするなどの暴行が始まり友人関係は崩壊。男子生徒は祖母に自殺したいと吐露することもあった。9月の体育祭では2人は男子生徒にハチの死骸を食べさせようとした。

 10月には男子生徒が別の同級生と昼食をとるなど離脱を試みたが、元同級生らはいきなり男子生徒宅を訪れて財布を隠したり時計を盗んだりした。

 そして男子生徒は10月11日、自宅マンションから飛び降りて死亡した。

黙殺されたいじめ

 これまで明らかになった事実関係によると、大津市教育委員会は当初、いじめと自殺の因果関係を不明としていたが、実は学校でのアンケートでいじめをうかがわせる回答が多数あった。

 アンケートには「トイレで殴られていた」「廊下で腹を蹴られていた」「鉢巻きで首を絞められていた」などの暴行のほか、「お金を要求されていた」「万引きさせられていた」などの恐喝・強要、「おまえの家族全員死ね」などの暴言、ハチの死骸を食べさせられそうになったり顔に落書きされたりするなどの嫌がらせもあったと記載されていた。

 それだけではなく、元同級生は「死んだって聞いて笑った」「死んでくれてうれしい」などと回答していた。しかも元同級生は、被害生徒から自殺をほのめかすメールを送られていたにもかかわらず相手にせず、自殺後も被害生徒の顔写真に落書きや、穴をあけるなど信じられない行動をしていたことも後に判明した。

 しかし、市教委はアンケートに記載された内容の事実関係が確認できないなどとして公表せず、いじめがあったことは認めながらも自殺との因果関係は不明と結論付けていた。

 アンケートの内容は遺族に伝えられたが、なぜか「部外秘」との誓約書にサインさせられるなどと感情を逆なでするような不可解な対応もあった。遺族はもっと詳しく実態を知りたいと要請し、学校側は2回目のアンケートを実施。そこでも「自殺の練習をさせられていた」などの回答があったが、事実関係の調査をせず、結果も公表しなかった。市教委にも「新しい事実は確認できなかった」と報告していた。

 しかし、実際には「男子生徒が先生に泣きながら電話でいじめを訴えたが、対応してくれなかった」「先生もいじめを知っていた」などの記載があった。また、担任教師は自殺後の保護者説明会も欠席し、遺族に謝罪をすることもなかったという。

 そして、のちに男子生徒が同級生に「死にたい」と相談していた事実を、学校が自殺直後に把握していたことが判明。校長も職員会議でいじめと自殺に関連がある可能性を示唆していた。

 また、市教委が「いじめた側にも人権がある」などの理由で元同級生に聞き取りを実施しなかったことが判明、非難・苦情が殺到した。

滋賀県警、根本的な問題

 そして、大津署は遺族が3度にわたり暴行容疑などで被害届を提出したにもかかわらず「被害者本人が自殺して存在しない」などとして、いずれも受理しなかった点も暴かれ、滋賀県警も批判を浴びた。

 男子生徒の父親は後に、暴行、恐喝、強要、窃盗、脅迫、器物損壊の6つの容疑で「告訴状」を提出し、ようやく受理された。

 昨年12月1日にもいじめをテーマした記事(『鹿児島男子高校生「いじめ」自殺、県と県教委で判断が分かれた理由』)を出稿したが、そのくだりを再掲したい。

『殴ったり蹴ったりすれば「暴行罪」、金銭を脅し取れば「恐喝罪」、万引きをさせれば「強要罪」、物を隠したりすれば「窃盗罪」、周囲に仲間外れを強要したり死ねと脅せば「脅迫罪」、物に落書きすれば「器物損壊罪」、父親の告訴内容にはないが、けがをさせれば「傷害罪」が該当する。』

 そう、実は「いじめ」は犯罪なのだ。

 大津署は世論に押される形で捜査を開始、異例とされる学校と市教委への家宅捜索も実施した。通常、こうした事件は任意で資料提供を受けるのが一般的だが、とにかく「隠ぺい」がキーワードだっただけに、大津署も「任意」というわけにはいかなかったようだ。

 結局、大津署は3人のうち2人を書類送検した。1人は刑事罰の対象とならない13歳だったため児童相談所への送致にとどまったが、同じ学年で違う処分だったことには関係者に不満もあったようだ。

 刑事処分としては、大津家裁が2人を保護観察処分、1人を不処分とした。刑事処分として「事実認定」があったから、今回の損害賠償請求訴訟でいじめと自殺の因果関係が認められ、賠償命令の判断が下されるのは明らかではあった。

 西岡裁判長は、保護者に「監督義務はなかった」として賠償責任を課さなかった。しかし、関係者によると、元同級生2人は20歳を過ぎたが、いずれも弁済能力がない。当然といえば当然だが、成人したばかりの年齢で約3750万円もの大金を支払えるわけがない。

 では、自殺した男子生徒の命の対価を誰が支払うのか……。

 アンケートには「絶対先生とかも気づいていたと思う」「いじめはなかったと会見開く前に真実を知るべき、知らせるべき」「大人のエゴのせいでみんな傷ついた」「いい加減隠さず話してほしい」などの記述があったとされる。

 そろいもそろって、子どもに不信感を抱かせた地位や権力を持った大人たち。

 この事件が世に問うたのは、いじめの陰湿さと再発防止策だけではなく、あるべき大人の振る舞いではなかっただろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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