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ホンダと中国電池CATLが戦略的提携へ、トヨタもパナとの「二股」画策

2019年01月30日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部,浅島亮子(ダイヤモンド・オンライン

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中国事業に強いホンダが、世界一の中国電池メーカー、CATLとタッグを組み、電気自動車向けの新型電池の開発に着手する。水面下では、パナソニックと車載電池事業の統合を決めたばかりのトヨタも、CATLに接触し提携に向けた準備を進めている。(「週刊ダイヤモンド」編集部・浅島亮子)

ホンダの中国専用EV「理念VE-1」
昨年11月、中国・広州モーターショーで世界初公開されたホンダの中国専用EV「理念VE-1」。EVシフトの動きは早まる見込み Photo by Fusako Asashima

 ホンダが、車載電池で世界首位に立つ中国・寧徳時代新能源科技(CATL)と戦略的パートナーシップを締結した。1月29日、両社幹部が基本合意書に調印したことを、ホンダ関係者が明らかにした。

 ホンダは昨年11月に開催された広州モーターショーで、中国専用の量産電気自動車(EV)を世界初公開したばかり。

 これはホンダの中国合弁先の地場ブランドモデルなのだが、2020年以降にホンダブランドのEVを中国市場へ投入して行く方針だ。この主力モデルに搭載される新型の車載電池をCATLと共同開発する。

 CATLは2011年に創業した歴史の浅い企業でありながら、17年には、リチウムイオン車載電池の出荷量で日本のパナソニックを抜き、世界一に躍り出た巨大電池メーカーだ。

 現時点でCATLに舞い込んでいる自動車メーカーとの電池供給契約を積み重ねていくと、「当初、20年までに50ギガワット時に据えていた生産能力目標が倍増する見込み。25年に300ギガワット時に達するラインも見えてくる」(CATL関係者)という。尋常ではない成長スピードだ。

 すでに、CATLは独BMWや中国・上海汽車らと提携を結んでいるが、今回のホンダとの戦略的パートナーシップの締結は、日本の自動車メーカーとしては初のケースとなる。

 では、“戦略的”にはどのような意味が込められているのか。両社それぞれに別の思惑がある。

 ホンダの本音はこうだ。「技術志向が強いホンダが、EVの性能を決定付ける電池の開発・製造を、海の物とも山の物ともつかぬCATLに丸投げするわけにはいかない」(ホンダのエンジニア)。

 だからこそ、電池パック(電池セルをつないだもの)に使用する部品や素材をカスタマイズしたり、電池の強度を高める設計にしたりするなど、ゼロベースで新型電池を協業して作り込む構えだ。

 一方のCATLは更に強(したた)かだ。

 実はいま、世界の大手自動車メーカーのほぼ全てがCATLに殺到しており、発注された仕事を100%受けられない状況にある。

 そのため、(ホンダのように)電動化に関する新しい技術を持っているメーカーや、ある程度まとまった数量を発注してくれるメーカーを戦略的パートナーとして優遇している。

 要するに、自動車メーカーに優先順位をつけて仕事を選んでいるということだ。EVの基幹デバイスを握っているCATLは、従来こそ立場が弱いサプライヤーだったが、今や顧客先の自動車メーカーよりも強い交渉力を有するようになったとも言える。

 ガソリン車からEVなど電動車主体の時代になると、旧来型のサプライヤーピラミッドの序列は崩れ、完成車メーカーよりも一次サプライヤーが上位に立つ下克上が起こり得るのだ。

トヨタの「覚悟の決断」

 そして──。ホンダとは別のアプローチで、CATLとの戦略的パートナーシップの締結に向けて、水面下で準備を進めている自動車メーカーがある。

 トヨタ自動車だ。トヨタといえば、ホンダとCATLが基本合意に至るちょうど1週間前の1月22日に、パナソニックと車載電池事業を“実質的に統合する”方針を発表したばかり。車載電池の開発、生産などあらゆる機能を統合して20年末までに設立される電池新会社には、約3500名の両者の従業員が移管される方向だ。

 新会社の事業範囲は、当面の電動車に搭載されるリチウムイオン電池だけではなく、全個体電池など次世代技術までもが含まれている。こうしたことから、長期にわたり、運命共同体としてタッグを組む覚悟を決めたと言えるだろう。

 1996年に車載電池で両社が協業して以降、今回の事業統合に至るまでには、幾多の紆余曲折があった。その過程で、パナソニックはトヨタの下請けから脱却しようと、EVメーカーの米テスラ向け取引拡大へ邁進した。

 だが、蓋を開けてみれば、トヨタ依存体質から脱却するために講じたテスラ依存が仇となった。

 テスラの米国ネバダ工場の立ち上げ遅れに伴う追加投資が尾を引いたことから、「パナソニックの電池ビジネスの投資余力に赤信号が灯るようになった」(トヨタ関係者)からだ。

 また、資金力以上に深刻だったのが、技術力の停滞だ。テスラビジネスの後始末にパナソニックの要員が割かれるようになり、新型の車載電池開発が滞るようになってしまったのだ。

 業を煮やしたトヨタが、パナソニックの電池開発のテコ入れに動いた。これが、両社が元の鞘に収まったトヨタ・パナ事業統合の真相である。電池新会社の出資比率はトヨタ側が51%と過半数を握ることになった。

 何としても日本が誇る車載電池技術を守らなくては──。危機感から誕生した日本連合には、中国・韓国メーカーの対抗勢力としての役割も期待されているはずだ。

 CATLを筆頭とする中国勢、LG化学やサムスンSDIの韓国勢は、国家という強力な後ろ盾に支えられながら、急成長を遂げているからだ。

 しかし、中・韓国勢を打ちのめす急先鋒となるはずのトヨタが、CATLとの協業に前のめりになっている。パナソニックとCATLを天秤にかける「二股調達」を画策しているのだ。

 潮目が変わったのは、昨秋のこと。中国政府が「ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関車を禁止する時期が早まる」(中国駐在員)との観測が現実味を帯びてきたのだ。「仮に、全土のガソリン車ゼロの期限が35年に設定されたら、先駆けて規制強化される北京市や上海市のターゲットは30年頃に前倒しされてしまう」(同)リスクすら出てきている。

米中覇権争いは頭痛の種

 トヨタは出遅れた中国で反転攻勢を仕掛ける体制を鮮明にしていたものの、当分はガソリン車やハイブリッド車で市場を牽引し、急激なEVシフトには懐疑的な姿勢を示してきた。

 だが、その目算は狂った。年初からは、中国での生産台数の1割以上をEVなどの新エネルギー車(NEV)にするよう義務付ける環境規制がスタート。パナソニックからの電池調達だけでは、旺盛な需要に応えられない以上、CATLとの戦略的パートナーシップを締結するより他に選択肢はない。

 ここにきて、トヨタやホンダら日系自動車メーカーの経営陣を悩ませる別の事案も持ち上がっている。頭痛の種は、米中によるハイテク覇権争いの激化だ。

 1月28日、米司法省が中国の通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)を企業秘密の窃盗罪などで訴追した。その真偽は定かではないが、ファーウェイは「少なくとも過去は、政府との距離を置いてきた企業」として知られる。それでも、米国当局の標的となり、日本の通信事業者やサプライヤーが影響を受ける事態に陥っている。

 翻って、ホンダやトヨタが組もうとしているCATLはどうかといえば、ある意味、ファーウェイ以上に政治色の強い企業として知られる。本社のある寧徳は、かつて習近平国家主席が書記を務めていたことから、補助金支給や税制優遇など政治的なバックアップを受けている企業だからだ。

 中国政府の産業高度化戦略である「中国製造2025」のど真ん中にEV、電池技術が位置しており、米中ハイテク覇権争いの激化に、日系自動車メーカーが巻き込まれるリスクが日増しに高まっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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