このページの本文へ

消費増税「再々延期」観測が相場乱調で強まる、3年前と似てきた?

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
大量の小銭と領収書
Photo:PIXTA

 年初から株式や為替相場が大荒れとなる中、市場関係者らの間で今年10月に予定される消費税率10%への引き上げが再び延期されるのでは、との観測が浮上している。過剰との指摘が絶えないさまざまな増税対策も、政権にとっては茶番に過ぎないのか。気になるのは、日本経済を取り巻く環境が、前回増税延期が決まった16年と似通ってきていることだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田幸平)

 株式や為替相場が不安定な動きを続けている。日経平均株価は2019年の大発会(1年の取引の初日)で大幅下落後、7日に終値で2万円を回復したものの、米利上げや米中貿易戦争などの行方を巡って神経質になっており、年末年始から乱高下する展開をたどってきた。世界経済の先行き不透明感が以前にも増して強まる中、市場関係者らの間では今年10月に予定される消費税率10%への引き上げに対して「再々延期」観測が台頭している。実際、日本経済を取り巻く環境は、安倍晋三首相が増税再延期を表明した16年の前半と大きく5つの点で似通ってきているように映る。

日本経済に強まる停滞感
チャイナショック再来や参院選も

 一つ目は、日本経済の停滞感が強まってきたことだ。物価変動の影響を除いた実質GDP(国内総生産)は4半期ベースで見て18年に、1~3月期に続き、直近発表の7~9月期が二度目のマイナス成長(前期比、季節調整済み)を記録。景気拡大の長さが今月をもって08年2月までの戦後最長景気(いざなみ景気)を上回る局面にあるとはいえ、回復ペースは非常に緩やかだ。

 人手不足でもなかなか賃上げ加速につながらないことを取っても、日本経済は決して盤石ではない。ある市場関係者は、名目GDPの停滞に伴い、遅行指標のように動く「雇用者報酬」がこの先は伸びづらい可能性を指摘する。さらに、為替市場ではこの1ヵ月で急速な円高・ドル安が進み、年明けには一時1ドル=104円台まで急騰。足元では108円ほどまで戻しているが、自動車はじめ主力の輸出企業への逆風となっており、増益を続けた企業収益に19年度は黄信号が灯っている。

 一方で振り返れば前回の増税の先送り表明前の16年2月に発表された15年10~12月期のGDPもマイナス成長(同)となり、市場予想を上回る減速ぶりを示していた。しかも同期間の速報値発表時は18年と同様、15年の4半期ベースで見た成長率では、4~6月期に続く二度目のマイナスとなっていたのだ。

 もう一つは、16年の「チャイナショック(中国ショック)」の再来が現実化しつつあることだ。同年初頭は中国国家統計局が発表した12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)の悪化を引き金として投資家心理が悪化し、年明け直後から世界同時株安の様相を呈する事態を招き、リスクオフ(リスク資産の敬遠)の雰囲気が広がる中で外国為替市場でも急速な円高・ドル安が進んだ。

 今年はどうか。日本市場の大発会が大幅安となった主因は米アップルの売上高見通しの下方修正だったが、その理由こそは中国経済の減速に他ならない。米中貿易戦争の影響も重荷となって中国経済は内外需とも勢いを欠いており、直近でも1月2日に財新・マークイットが発表した18年12月の中国PMIは、19ヵ月ぶりに景気判断の分かれ目となる50を下回った。経済状況の厳しさを物語るように中国株は下落局面が続き、上海総合指数は16年のチャイナショック時の安値を下回る状況にある。

 3つ目は、参議院議員選挙(参院選)を控えるタイミングであることだ。16年は6月の増税延期表明を経て、7月の参院選では自民、公明の与党が改選定数の過半数を確保し大勝。安倍首相の悲願とする改憲に向けて、改憲派勢力は憲法改正発議に必要な3分の2の議席数を得るに至った。

 今年に目を向けると、7月に安倍首相の自民党総裁任期である21年9月までで最後の参院選を迎える。現職中に憲法改正を発議したいなら、残された時間は多くない。19年は4月に統一地方選も控える中、是が非でも改憲を実現したい安倍首相にとって、増税延期を追い風とした16年の“成功体験”はまだ記憶に新しいかもしれない。

G20議長国として消費増税を敬遠か
ブレグジットを巡る不透明感も

 4つ目は、日本が開催国として首脳会議(サミット)の議長国を務める点にある。16年は5月下旬に伊勢志摩で開いたG7(主要7ヵ国)首脳会議(サミット)の場で、安倍首相が「世界経済はリーマンショック前と似ている」などと主張。幾つかのデータを示しながら消費増税の先送りの条件としていた「リーマンショック級」の危機をことさらに強調したほか、財政政策でのG7の協調を訴え、明らかに増税延期への地ならしを進めていた。

 一方、今年は6月下旬に日本がG20(主要20ヵ国)では発足以来、初の議長国を務めるサミットが控える。そこで気になるのは、関連会合として重要な存在である同月上旬のG20財務相・中央銀行総裁会議(福岡)に向けて、麻生太郎財務相が「経常収支の不均衡是正」を主要議題の一つに挙げていることだ。

 週刊ダイヤモンド1月12日号・第2特集「データで解明!G20不協和音の裏側」で詳述したように、G20各国の経常収支の動向を見ると、トランプ大統領が行った減税策も影響する形で、米国の経常赤字額が圧倒的に大きくなっている。一方で、EU(欧州連合)や日本は17年に潤沢な経常黒字を確保している。

 累積債務規模が世界で突出する日本に財政的な余力は本来ないはずだが、経常収支の不均衡に焦点を絞った場合、内需拡大による貿易収支悪化が日本の経常収支の悪化、ひいてはG20の間の経常収支不均衡にも通じるのは事実だ。つまり伊勢志摩サミットで繰り出された論理展開も踏まえると、日本は経常収支の不均衡是正に向けてリーダーシップを取るために、財政政策の一環として内需の重荷となる消費増税「再々延期」を決めるのではないかとの観測につながる。

 最後に、今年も英国のEU離脱(ブレグジット)を巡る不透明感がくすぶっている。16年は6月23日にEU離脱の是非を問う英国民投票を実施。市場では残留派の勝利が見込まれていただけに金融市場には大きなショックをもたらし、為替市場では離脱決定後、対ポンドのみならず対ドルでも円相場は急騰した。結果的に増税延期の表明後にブレグジットが現実化した形だが、伊勢志摩サミットでも英国民投票の行方は各国間で大きなリスク要因との認識が広がっていた。

 今年は3月29日に英国がEUとの交渉期限を迎えるが、英国内で議会承認が進んでおらず、このままいくと英EU間の物流寸断など大混乱必至の「ハードブレグジット(合意なき離脱)」に至る可能性が未だに払拭されていない。

19年は新たな不安材料も山積
増税対策はむしろ延期理由に?

 しかも、これら5つの類似点に加え、足元は昨年から本格的な“貿易戦争”に突入した米国と中国の経済摩擦、トランプ米大統領の不安定な政権運営、世界経済のけん引役となってきた米国の景気減速懸念、米利上げを巡る金融市場の緊張といった海外発のリスクが懸念される状況にある。直近では、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が市場の状況次第で利上げペースを鈍らせる可能性に言及し、株高を演出した形だが、トランプ氏がパウエル議長の解任までちらつかせるような状況を踏まえると不安の緩和は一時的に過ぎないといえる。

 さらに国内に目を向ければ、消費増税と同時に導入する軽減税率制度への対応を巡って、中小事業者の間でシステム改修などの遅れが伝わっており、何が外食に当たるかの線引きの議論一つを取っても既に混乱の声が多数聞こえてくる。中小店でキャッシュレス決済した場合のポイント還元制度についても世論の反応は芳しくない。ある市場関係者は「うがった見方をすれば、それぞれの増税対策が問題を抱えること自体が増税延期の理由となってもおかしくない」と話す。

 では、延期表明をするならいつなのか。これまでの経緯を振り返ると、消費税率10%への引き上げは当初15年10月に予定されていたが、安倍首相は14年11月、17年4月へ1年半の先送りを表明。さらに16年6月1日、19年10月へ2年半延期する方針を発表した。

 今年は次期通常国会が1月下旬に召集される予定で、19年度予算が国会で成立するのは、例年通りなら3月下旬頃となる。さすがに国会審議中にその予算を否定するような方針は示しにくい。消費増税が予定される10月まであまり猶予はないものの、市場では「予算成立直後の4月初頭に延期を表明し、財源の不足分は補正予算を組むことで賄う」(みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト)との見立てが出ている。このシナリオ想定の元、上野氏は6~7割の確率で今回も消費増税が先送りされると読む。

増税延期の判断時期は
19年度予算の成立直後がめど

 実際、1月3日のラジオ番組では菅義偉官房長官が、19年の消費増税を取りやめる場合の判断時期について予算成立直後がめどになると発言。まだ増税先送りの判断があり得ることをにおわせている。そうすれば、安倍政権としてはその後のG20会合で、日本が経常収支の不均衡是正に向けた旗振り役として、内需拡大に逆行する消費増税先送りや積極財政の方向に動いたとの訴えかけもできよう。

 前回の増税延期後の17年9月、安倍首相が消費税の使途変更の方針を表明したことは以前からの大きな変化として念頭に置かなければならない。消費税の増収分を幼児教育無償化などに充てる方針を表明し、「使途変更の信を問う」として同年10月に衆議院を解散。総選挙に臨み、結果的に自民党が単独過半数を確保する圧勝に終わった。上野氏は今回、安倍首相が選挙のマイナスとなるような行動を避けるため、消費増税を延期した上で幼児教育無償化などの方針は変えず、バラマキ色を強めていくとみる。

 一方で、国内株式市場の売買を主導する外国人投資家の意見は割れているようだ。今回こそは消費増税に動かなければ財政健全化に向けた信認を失いかねないとの見方がある一方、完全にデフレ脱却を果たしていない現状で内需の逆風となる増税を課すのはナンセンスだとの姿勢も見受けられる。株価を重視する故に「株価連動政権」とも称されてきた安倍政権にとってはいずれも看過できるものではなく悩みどころだ。

 確かにどれだけ対策を講じても今後、消費増税が少なからず個人消費の重荷となるのは避けがたい。ただし安倍首相が政治家として筋を通すなら、リーマンショック級の事態が発生しない限りは増税すると発言し、景気の腰折れを防ぐ増税対策も重ねてきている以上、将来へツケを先送りせず財政健全化の足取りを着実に進めていく必要があるだろう。

 市場からも「個人消費が基調として弱いのは所得不安、ひいては社会保障不安が一因であり、増税して財源があるとアピールする方が得策なのでは」(野村證券の美和卓チーフエコノミスト)との声がある。新聞各紙の世論調査でも「消費増税を予定通り実施すべき」と考える人は、3年前より増加傾向にある様が見て取れる。

過程や経済環境に既視感
今回も安倍首相は増税を延期か

 現政権のキーマンの考え方を見ると、麻生氏が財務相という立場的にも消費増税を行うべきとの立場を貫く一方、菅義偉官房長官は慎重姿勢が根強いとみられている。政権で不動の地位を築く両氏の姿勢も一枚岩でない中、あらゆる要素を加味した上で最終的に安倍首相が今回どのような決断を下すのか。この先の政権の命運をも大きく揺さぶりかねない大きな決断が、三ヵ月後には訪れることになる。

「二度あることは三度ある」のか、「三度目の正直」となるのか――。16年のG7財務相・中銀総裁会議(仙台)や伊勢志摩サミット、増税延期表明の記者会見に至るまで現場での取材を経験した記者の肌感覚としても、将来不安軽減のため「べき論」では対策を万全にして消費増税すべきと考えつつ、予定日までの過程や最近の経済環境には既視感が強まるばかりだ。よって今回も、安倍首相が増税延期に動く可能性は、十分過ぎるほどあるように思えてならない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ