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日本IBM、清水建設らが障がい者雇用の新モデルを創る理由

2018年12月18日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部,池冨仁(ダイヤモンド・オンライン

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会員企業における活躍事例(ロールモデル)の収集と事例集の作成を目指す「ACEアワード2018」の授賞式。今年は、KDDI、JALサンライト、JTBデータサービス、積水ハウス、堀場エステックの5社がノミネートされた。写真は特別賞を受賞したKDDIの菊武由美子氏(中央右)。左は代表理事を務める下野雅承氏。日本IBMの取締役副会長でもある下野氏は、かつてLGBT担当の副社長だった。自身の生き方も含め、超高齢社会におけるシニアの社会貢献に関する模索を続ける Photo by Hitoshi Iketomi

 当事者による、非常に重い言葉である――。

 寒さが増した12月10日の午後、東京駅八重洲南口から徒歩10分の清水建設本社2階のシミズホールで、企業に勤める障がい者の先進的な取り組み事例が発表された。

 今年のグランプリを受賞した積水ハウスに勤務する林俊明氏は、喜びの述べた後で、一呼吸おいてから「最近では、“障がいは個性”だと言われることもある。だが、私にとっては、障がいは障がいでしかない。障がいは、本当に辛いです」と涙声で締めくくった。

 林氏は、右上肢機能障害(右腕が不自由)というハンディを乗り越えて、数年越しで1級建築士に合格し、設計業務に従事してきた。さらに1級施工管理技士の資格も取得し、会社の制度にはなかった地域勤務職から総合職への転換でも第1号となった。選考の過程では、複数の部下を抱えてチームを率いている点などが評価された。

 事例発表や表彰は、今年で6回目となる「ACEフォーラム」で行われたものだ。企画・運営するのは、一般社団法人「企業アクセシビリティ・コンソーシアム」(ACE:Accessibility Consortium of Enterprises)で、事務局は日本IBMの本社内にある。中核となるのは、代表幹事(日本IBM)、理事(KDDI、清水建設)、監事(堀場製作所)の4社で、会員企業は日本を代表する大企業ばかり33社が参加する。

 団体名で使われるアクセシビリティとは、日本でも1990年代半ば以降に浸透したIT用語だ。端的に言えば、障がい者や高齢者なども含めたあらゆる人が、パソコンやスマートフォンなどの情報機器を使って、いかなる環境においても情報にアクセスできるばかりでなく、柔軟に利用できる環境を整備しようという技術を指す。

 この考え方を応用して、ACE代表理事の下野雅承・日本IBM副会長(65歳)は、「企業の成長に資する、新たな障がい者雇用モデルの確立を目指す」というミッションを強調する。これまで日本の企業では、障がい者は「別枠」として戦力外の扱いが多かったが、これからは健常者と障がい者が混じり合って一緒に成長するという未来を描く。

障がいの有無にはかかわらず
あらゆる人を対象に包括する

 例えば、18年中の活動で大きなものだけを挙げると、(1)ACEインターンシップ2018(会員企業14社に24大学からのべ76名が参加)、(2)会員向けの勉強会「発達障害を知ろう」(25社から65名が参加)、(3)ACE合同キャリアセミナー(関東で20名が参加)、(4)同(関西で16名が参加)などがある。

 6年前の発足当初より、積極関与してきた清水建設の宮本洋一会長(71歳)は、「年齢や性別、障がいの有無にはかかわらず、あらゆる人が共生できるインクルーシブ(包括的)な社会をつくらなければならない」と語る。最近では、日本IBMとスマホ用「音声ナビゲーション・システム」を共同開発するなど、“障がい者をアシストする技術”へと歩を進めている。

 障がい者雇用の話題では、今年4月1日より、法定雇用率が引き上られた。民間企業が2.2%、国・地方公共団体などが2.5%、都道府県などの教育委員会が2.4%となったが、秋には中央省庁による稚拙な“水増し”が発覚し、政府は09年中に障がい者を4000人採用することで、自ら定めた法定雇用率の2.5%の達成を再び目指す。

 一方で、民間企業においても、“対岸の火事”ではない。20年の東京オリンピック・パラリンピック大会の開催を目前にして、障がい者を戦力化して2.2%を達成するには、企業体質の大幅な転換を抜きにしてはあり得ないからだ。

 そのためには、すでに企業で働く障がい者に加えて、過去に企業で働く経験を持てなかった発達障がい者や、知的障がい者などにも範囲を拡大する必要が出てくる。

 この数年、日本で盛り上がったLGBT(性的少数者)ブームのように、自らで対象者を限定するのではなく、「障がい者も含めて、あらゆる人が対象となる新しい雇用モデルを創出する」というACE固有のロジックは、LGBTを超える広範な概念である点が異なっている。

 この社会を構成する全ての人が、何らかの形で社会づくりに参画できるのであれば、結果的に“誰もが仲間外れにならない世の中”が現出することになる。

 日本の企業は今、大きな岐路に立たされている。このタイミングで体質転換を図るか、誤魔化して逃げるか。ビジネスの収穫を得るのは、まだまだ先の話である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

清水建設と日本IBM東京基礎研究所が共同開発したスマートフォン用のアプリケーション「音声ナビゲーション・システム」。一般歩行者、車イスの利用者、視覚障がい者のそれぞれにとって適したルートを案内したり、音声対話で目的地を検索したりすることができる。実証実験には、米IBMで数少ないフェロー職に就いた全盲の浅川智恵子氏も登場した。障がい者向けのアプリとはいえ、移動経路などを分析することにより、健常者にとっても“気づき”が得られる

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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