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紳士服メーカーの「スーツ離れ」が止まらない皮肉な事情

2018年11月30日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部,相馬留美(ダイヤモンド・オンライン

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紳士服大手の青山商事、AOKIホールディングス
Photo:DOL

 スーツ業界にとって、悪夢のような夏だった――。紳士服大手の青山商事、AOKIホールディングス(HD)、はるやまHDは4~9月の半期業績で、コナカは2018年9月期の通期業績で最終赤字に陥った。4~9月の半期業績では、青山商事は8年ぶり、AOKI HDは初の最終赤字である。青山商事、AOKI HDは3月期の業績予想も下方修正した。

 赤字決算の元凶は本業である紳士用スーツの販売不振だ。昨年の秋冬の数字が反映されているコナカ以外は、スーツ事業で営業損失が出ている。

 原因は二つある。まず天候だ。今年は豪雨と台風、そして猛暑という天候不順が消費を冷え込ませ、アパレル業界全体を冷え込ませた。

 そしてもう一つ、アパレの中でも特に紳士用スーツにダメージを与えたのが、「働き方改革」だ。

 伊藤忠商事が昨年「脱スーツデー」を設けて話題になったが、クールビズの前倒しに加え、大企業でオフィスカジュアル化が進み、ジャケットとパンツを組み合わせたり、スニーカーに合わせるなど、機能性を重視するファッションが一気に浸透した。紳士服各社は「洗える」「しわにならない」など機能性の高いスーツを投入して対抗したが、「それだけではなく、そもそもスーツを着ない会社、世代が増えている」と青山商事の山根康一執行役員は現状の厳しさを語る。

 かろうじて伸びているのは女性用スーツやオーダーメード市場だ。ただ、オーダーメード市場は、ZOZOがオーダーメードスーツに参入し、大手アパレルも注力するなど、小さな市場でプレーヤーが一気に増えたため、競争環境は厳しくなっている。

 さらに過剰な出店でロードサイドの郊外店で競争が激化。「自社の店の近くに他社の店舗があれば、その商圏内に店舗を建ててつぶす」(紳士服大手関係者)と、コンビニチェーンのようなつぶし合いが横行している。

スーツの逆境を複合カフェで
食いつなぐAOKIの勝算

 大手が最終赤字に陥る中、今回の決算では事業多角化で明暗が分かれた。

 実は、青山商事とAOKI HDは数年前より、スーツ一本足打法から多角化の方向へかじを切っている。ただ、両社の戦略はかなり違っている。

 青山商事はあくまでもアパレル事業中心の多角化だ。

 先に述べたロードサイド店の競争において、撤退する際も良い立地を他社に取られないように、ライセンス契約した米カジュアル衣料の「アメリカンイーグル」の店舗に転換したり、100円ショップや飲食店などを傘下に置いて出店するなどしている。

 しかし、今期はアメリカンイーグルなどのカジュアル衣料で4億円の営業損失が出ている。「スーツよりカジュアル衣料に目を向けたのはよかったが、参入が遅過ぎた。しまむらがEコマース(EC)に食われたことから分かるように、カジュアル衣料は最もECに食われる分野だった」と楽天証券経済研究所の窪田真之チーフストラテジストは分析する。

 スーツを守るために始めた事業で損失を出しては本末転倒だ。とはいえ、アメリカンイーグルとの契約はあと3年残っており、引くに引けない。利益を出しているカード事業も、スーツありきのビジネスモデルであり、苦しい戦いが続きそうだ。

「脱スーツ」ならぬ
「脱アパレル」が生き残りの道に

AOKI HD子会社が運営する複合カフェ「快活CLUB」 Photo by Rumi Souma

 一方、AOKI HDは、スーツ事業を拡大する方針ではなさそうだ。中村宏明AOKI前社長の肝いりで始め、業界初となった紳士用スーツの定額制サービスも、18年9月末、中村氏の突然の更迭と時を同じくして撤退が決まった。スーツ事業の方向性は、新しいものを立ち上げるというよりは、“現状維持”。創業者の次男の青木彰宏AOKI HD社長は、むしろ非スーツ事業の割合を上げることに力を入れているという。

 その取り組みは「脱スーツ」ならぬ「脱アパレル」だ。

 今のAOKI HDを支えているのは、実はマンガ喫茶とネットカフェの複合カフェ施設である。複合カフェはここ数年で淘汰が進み、AOKI HD子会社のヴァリックが運営する「快活CLUB」が業界最大手となった。今期はスーツを含むファッション事業が15.8億円の赤字であるのに対し、複合カフェ事業は17.5億円の黒字で、ちょうど紳士用スーツ低迷の穴を埋めている状態だ。

 その他AOKI HDはブライダル事業の「アニヴェルセル」やカラオケ事業も持っている。サービス業は今後人件費の高騰も予想され、かつ景気に大きく左右される業種だ。だが、「いずれも今は市場が飽和しているが赤字ではない“金のなる木”だ」(窪田氏)。AOKI HDだけでなく、はるやまHDも教育事業や飲食事業への事業拡大が急ピッチで進む。

 紳士用スーツ市場はバブル時代に記録した8000億円のピークから2000億円台にまで落ちており、労働人口の減少から考えても回復の見込みは全くない。大手紳士服メーカーの「スーツ離れ」は、もはや避けられない流れとなりつつある。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 相馬留美)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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