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鉄道業界にフォーカスしたBoxのイベントは中身もメタリック

鉄道のダイヤ乱れの解消には最適化アルゴリズムと情報共有が必須

2018年11月21日 11時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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ダイヤ乱れのときにコンピューター制御は役に立つのか?

 こうした複雑で大規模な問題に対してコンピューターはどこまで追いついているか? 結論を言えば、平常時はコンピューターが信号とポイントをほぼ100%制御しているのだが、ダイヤが乱れたときにはあまりコンピューターは役に立たないようだ。

 なぜ役に立たないのか? 富井教授は2つの課題をアピールする。1つ目はコンピューターによる提案があくまで局所的であること。「基本的には2本の列車の関係だけ見ている。本来は大局的・面的な判断が必要なのに、ここを止めることによって、先にどのような影響が出るのかまでは見てない」と富井教授は指摘する。

ダイヤ乱れ時になぜコンピューターは役立たないのか?

 もう1つは、利用者の視点に欠けるという点だ。コンピューターで杓子定規に運転整理を行なうと、たとえば発車順番を変えても、先の駅で長く待たされる電車が発生してしまったり、混雑率の高い上り電車より、下り電車を優先してしまうことがある。また、お盆の時の新幹線で番線を変更した場合、何百人もの乗客を一斉に移動させなければならないし、折り返し運転を実施すると折り返し駅に乗客が溢れてしまう。もちろん、前述した取り込み特発をやろうとしたら、予備の電車や運転手を確保しなければならない。こうしたリソースという観点を現在のコンピューターのプログラムは考慮していないという。

 臨機応変が求められ、ケースバイケースというのが運転整理の難しいところ。利用者の視点という要素も重要で、コンピューターでなかなか対応できない課題でもあるわけだ。

急速に進むダイヤ乱れを解消するテクノロジー

 しかし、こうしたダイヤ乱れを解消する研究はヨーロッパや中国を中心に急速に発展しているという。「来年6月にスウェーデンで行なわれる国際会議のチェアマンを務めている関係で、いろいろな論文を読んでいるのですが、これらの多くは数学的な研究に基づく最適化アルゴリズムを使っています。大局的で、面的な観点で研究されており、特に利用者の視点を持っている」と富井教授は評価する。

 これらの最適化アルゴリズムは、複数の数式から構成される。当然、参加者がこれらを見てもちんぷんかんぷんなのだが、明確なトレンドは苦情を最小化する運転整理を実現するということ。「お客様一人一人を追いかけて対応するのは時間がかかるので、お客様の苦情に意識を置こうという考え方」ということで、利用者が不満を抱くポイントを可能な限り減らしていく方向性だ。

苦情を最小化するアルゴリズムは複数の数式から構成される

 最近では実用的な問題が徐々に解けるようになり、小規模な実用例も登場しているという。たとえばスイス国鉄で導入されているRCS(Rail Controll System)-HOTは、列車がスムースに走れるようにルートを自動的に変更したり、速度を最適化する。日本では考えられない先進的なシステムだが、小乱れ・中乱れのレベルであれば、こうしたコンピューターによるダイヤ乱れの制御が急速に進むという。

アルゴリズム以前に情報共有の仕組みが必要

 一方で、富井教授はダイヤ乱れの課題として、「平常時とダイヤ乱れ時の司令員の作業量が違いすぎること」を挙げる。特に情報の収集と伝達に大きな負荷がかかっており、いくらアルゴリズムが発展しても、ここを解消しないとダイヤ乱れは解消しない。

 もちろん、情報収集や伝達の仕組みも進化はしている。運行状態を確認するダッシュボードとして、以前は物理的な運行表示板やホワイトボードが用いられていたが、最近は巨大ディスプレイやペンダブレットが使われる例も増えてきた。とはいえ、東京メトロの公式写真でも司令員が手にしているのはやっぱり電話だ。

指令室で使われるのはやはり電話

 最後、富井教授は鉄道の仕組みを「列車ダイヤを共通情報とした自律分散システム」と定義づける。そして、運転整理の難しさはこの共通情報である列車ダイヤが変更されることにある。変更するために必要な情報が多岐にわたり、しかも変更内容は漏れなく伝えなければならない。富井教授は、「今後、運転制御のアルゴリズムは急速に進んでいくが、それ以前の問題としてうまい情報共有の仕組みが必要ではないか」と語り、講演をまとめた。

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