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「節税保険」バトル白熱、金融庁が保険業界を攻めあぐねる理由

2018年10月26日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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付加保険料の適正化に向けて、金融庁がどこまで強権発動をするのかも要注目だ 拡大画像表示

昨春以降、生命保険業界で中小企業向けの節税保険が急拡大する中、適正化の旗を振る金融庁が、足元で大きな「ジレンマ」を抱え始めた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

 中小企業向けの「節税保険」の適正化をめぐって、金融庁と生命保険業界の攻防戦が熱を帯びてきた。

 今年6月、金融庁が節税保険の保険料について実態調査に乗り出して以降、すぐに終わるかに思われていた各社へのヒアリングは第3弾にまで及んでおり、いまだに収束する気配がないのだ。

 なぜ今、金融庁は実態調査によって締め付けを強めているのか。その要因は大きく二つある。

 一つ目は、過熱する節税保険の販売と返戻率の引き上げ競争をけん制することだ。

 昨年4月、最大手の日本生命保険が「プラチナフェニックス」の愛称で、支払った保険料を全額損金として算入でき、法人税の大きな軽減効果が期待できる商品を投入すると、全国の中小企業オーナーが飛び付くようにして契約。それを見た同業他社が負けじと解約返戻金の料率を引き上げ、より節税効果の高い商品を相次いで投入することで、競争が一気に過熱していった。

 多くの企業が決算期末を迎えた今年3月には、第一生命グループのネオファースト生命保険が、単月で100億円を超える保険料を集めたことが話題になるなど、中小企業で広がる「租税回避」の動きに、当局として静観していられなくなったわけだ。

 二つ目の要因は、税制だ。本来、節税保険の息の根を止めるには、法人税の基本通達を見直して、保険料の全損をできなくするのが最も手っ取り早い。

 だが、税制の見直しはあくまで財務省、国税庁の仕事であり、縦割り行政の中で金融庁はおいそれとは手を出せない。

 さらに、全損タイプの逓増定期保険など同種の節税保険でかつて販売が過熱したとき、国税庁が問題意識を生保業界に伝えてから、実際に通達を見直すまでには、1年以上の期間を要している。

 節税保険の開発・販売競争が日増しに過熱する状況にあって、国税庁が見直すまでの間、金融庁としてただ指をくわえて見ているわけにはいかなかったのだ。

問題視する商品を認可してしまった
当局の後ろめたさ

 一方で、締め付けを強めたい金融庁にとって何より悩ましいのは、問題視している節税保険を、自ら認可したことだ。

 実態調査で、生保各社に送付した質問票が「付加保険料の設定状況」という、いかにも攻め手に欠くような内容だった理由は、まさにそこにある。

 付加保険料とは、予定死亡率などを基にした「純保険料」に、営業経費など(予定事業費率)を加味して、会社独自で上乗せする部分の保険料のこと。金融庁による商品の認可事項にはなっていない。

 そのため、比較的自由に設定が可能で、今年発売になった節税保険は、第二保険期間としている後期の付加保険料を大きく引き上げ、前期の解約返戻金の返戻率を高めるような設計になっている商品が多いのが実情だ。

 そもそも、金融庁は純保険料といった商品の基本設計部分は認可しているだけに、認可事項外の付加保険料に目を付け、「適正化が必要」(金融庁職員)とするしか攻め手がなかったわけだ。

 では、付加保険料の適正化という金融庁の圧力は、一体どこまで実効性があるのか。

 関係者によると、オリックス生命保険やエヌエヌ生命保険など一部の生保は、金融庁のそうした意向を受けて、当初11月としていた新商品の発売を延期しているものの、すでに販売中の生保で売り止めにした事例はまだない。

 一部の生保からは「認可事項外の付加保険料を使って、ここまで返戻率の操作をしているとは知らなかったと金融庁はさも言いたげだが、申請書類には付加保険料もしっかり記載している。今更何を言っているのか」という声が漏れ聞こえる。

 それでも、金融庁が強気の姿勢で押し通し、“強権発動”をちらつかせながら、各社に付加保険料の適正化を迫るとどうなるのか。

 それは、多くの節税商品が売り止めになり、付加保険料の過度の調整をしていない日生など特定の生保だけが、大手を振って販売できる状況をつくってしまうことになるのだ。

 金融庁が本来締め付けたいのは、節税を過度に強調した保険販売であって、付加保険料では決してないはず。にもかかわらず、認可をした負い目から、付加保険料の適正化だけを推し進めるのは、問題を矮小化しているように映る。

 過熱する競争をこのまま野放しにはできないが、締め付け過ぎると特定の生保の「操り人形」になりかねない──。そうしたジレンマを金融庁が抱え込む中で、節税保険における最需要期の3月が刻一刻と迫ってきている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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