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東証のシステム障害、大手証券とネット・外資系で明暗が分かれた訳

2018年10月22日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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>東証システム障害
東証システム障害が起きた当日、40社弱の証券会社経由の株式売買注文が一時執行できないなどの状態となった Photo by Kohei Takeda

約6年ぶりに起きてしまった東京証券取引所のシステム障害。個人投資家にも大きな影響を及ぼしたこの問題は、システム面の不安の火種が広範に潜んでいることを再認識させた。それとともに、日本取引所グループ(JPX)の経営方針にも悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田幸平)

 10月9日午前7時半すぎ、東京証券取引所のシステムに障害が発生した。40社弱の証券会社経由の株式売買注文が一時執行できなくなり、市場は混乱に陥った。このシステム障害の背景には、「ある日系システムベンダーの『接続装置』に問題があった」と、証券系システムに詳しい業界関係者は明かす。

 どういうことか。まず今回のシステム障害は、証券各社の発注システムと東証の取引サーバーをつなぐ回線に、メリルリンチ日本証券から「電文」と呼ばれる大量のデータが送られたことが発端だ。

 関係者によれば、メリルは日本市場へ参入したばかりの海外HFT(超高速取引)業者を顧客に抱えていた。この業者はメリルのシステムを通るものの、HFTのプログラム内容のデータが直接的に東証側へと送られる取引形態が取られていた。

 そして、連休明けの9日早朝。なぜかHFT業者によるシステムへのログインがうまくいかず、その際にプログラムミスからか何度も自動ログインを繰り返そうとする動作が発生。通常の1000倍超もの大量のデータが送り込まれる事態を招いた。さらに不覚だったのは、過去のシステム障害と異なり、売買注文と別の業務データが大量に送り付けられたことだ。

 こうして東証と証券会社をつなぐ四つの回線の一つで障害が起きたが、普段からこのような場合に備え、東証は証券会社に最低2回線を接続できるよう求めている。この日も問題発生後はすぐ各社へ回線切り替えを要請し、バックアップシステムが機能すれば、投資家に被害が及ぶのは避けられたはずだった。

 ところがだ。野村證券やSMBC日興証券、みずほ証券など大手証券で相次ぎ投資家の注文を出せない事態に陥った。これら証券はいずれも、証券側の発注システムと東証の取引サーバーをつなぐ際に必要な「接続装置」について、冒頭の日系システムベンダーのものを採用していたという。

 このソフトの設計に不備があり、障害発生時に回線が切り替わらなかった上、「大手証券などはベンダーに設計を丸投げしているケースも珍しくなく、実効性ある運用体制が敷かれていない」(業界関係者)ことが対応遅れの一因との声がある。一方、内製化に積極的なネット証券や外資系証券では問題は起きておらず、明暗が分かれた。

 障害発生の当日こそ東証が記者会見を開き、釈明に追われる立場となったが、こうなるとバックアップシステムを機能させられなかった証券会社側もやや分が悪い。

 今後、売買注文の執行に問題が出た証券会社は、システム障害により本来意図した形で取引できなかった顧客への補償手続きを進める見通し。普段から複数回線につなぐよう求めてきた東証側は損失負担に応じない姿勢で、要因をつくったメリルを含めた泥仕合に発展するシナリオも指摘される。

総合取引所構想やHFTの規制など
影響の波及にも懸念

 今回のシステム障害の余波は、こうした“内輪もめ”にとどまらない可能性がある。「東証の持ち株会社である日本取引所グループ(JPX)の経営戦略にも負の影響を及ぼしかねない」(JPX関係者)との懸念が出ているからだ。

 証券取引という寡占ビジネスを行うJPXは利益率が高く、現金資産も豊富に有する“安定企業”で、ここ最近の経営方針はシステム投資など「守り」に比重を置いている。昨年には今後数年かけて株式売買システムのバックアップ拠点を関西に新設するため、百億円単位を掛けて整備を進める方針を決めたばかりだ。

 一方、世界に目を転じれば、欧米などの主要な取引所は「攻め」の姿勢でグローバルに収益源の多角化を進め、合従連衡を伴う熾烈な競争環境でしのぎを削っている。アジアの各証券取引所も成長著しい中、JPXが国際的に後塵を拝すデリバティブ(金融派生商品)取引の拡大は急務といえる。

 そこでにわかに具体化してきたのが、商品先物市場などをJPXに移管する「総合取引所」構想だ。新たに金融庁長官に就任した遠藤俊英氏も実現に意欲を示しているという。そうしたタイミングにもかかわらず、システム障害を起こしてしまった。

 また、その発端となったのが、東証がETF(上場投資信託)市場活性化に向けて秋波を送っていた、HFTであったことも誤算の一つだ。さらなる規制強化につながり、HFTの呼び込みに困難が生じてしまうとの見方もある。

 むろん、再発防止策の徹底やバックアップ体制の見直しは必須だ。だが、その一方で「守り」から「攻め」に転じ、かねて喧伝してきた「金融立国」にかじを切らねば、世界の証取ビジネスから取り残されかねない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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