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胎児の心臓病を検出、コペンハーゲン大が新方式の磁力計を開発

Emerging Technology from the arXiv

2018年07月19日 14時57分更新

記事提供:MIT Technology Review

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体内の電気的な活動を測定することは、医師が病気などの診断を下すうえで非常に有用である。しかし、胎児の心臓の電気的な活動を十分な精度で検出できる装置はこれまでになかった。コペンハーゲン大学の研究者らは光ポンピング磁力計を改良して、常温で胎児の心磁図をとれる装置を開発した。

体内で生成される電場は、診断に役立つ強力なツールとなる。他の手段では収集するのが不可能な知見を得られるため、臨床医は日常的に患者体内の電気信号を用いて、脳、心臓、神経、筋肉の機能を測定している。

だが、このアプローチには限界がある。たとえば、胎児の心臓からの電気信号は、母親の電気信号に埋もれてしまうので、検出することが困難だ。そのため、胎児の心臓病を診断するのは特に難しい。

体内の電気的活動を調べる方法がもう1つある。体内の電気的活動により生じる生体磁場を測定するのだ。磁場には短い距離ですぐさま減衰する性質があるため、胎児の磁場信号を母親の磁場信号と区別するのがはるかに容易になっている。

一方、診断に必要な高い感度を持つ磁力計は超伝導技術を使っており、液体ヘリウムの温度(摂氏マイナス269度)まで冷却する必要がある。そのため、周囲の環境から隔離する必要があり、測定対象の臓器に磁力計を十分に近づけられない。結果として、これまでずっと、検出できる生体磁場は微弱なものに限られ、解釈するのが困難だった。

室温で利用可能で、対象物から数ミリメートル以内の位置に設置でき、体内の磁場信号を測定するのに十分な感度を備えた磁力計が求められているのだ。

現在、デンマークのコペンハーゲン大学のカスパー・イェンセン助教授ら研究チームの功績により、そのような磁力計が実現する可能性が生まれている。イェンセン助教授らの研究チームは、室温で利用可能な磁力計を用いて、人間の胎児と同じ程度のサイズの心臓から、診断に役立つさまざまな磁場信号を測定した。この研究は、生体磁場の測定方法に変革をもたらし、医師が他では検出不可能な胎児の心臓病を診断するのに役立つ可能性がある。

この手段を実現する測定器は、光ポンピング磁力計として知られている装置だ。光ポンピング磁力計は、原子ガスを含む小さな容器から成る。イェンセン助教授らの研究ではセシウム原子を用いている。各セシウム原子のスピンは周囲の磁場に極めて敏感に反応するため、有用な測定ツールとなる。

最初に、偏光レーザー光を用いて、すべてのセシウム原子のスピンを同じ方向に揃える。偏光レーザー光の照射を止めると、セシウム原子のスピンは局所磁場に従って違う方向に動き始める。少し時間が経ってから再度スピンの方向を測定すると、スピンの方向がどのように変化したかが分かり、局所磁場の強度や方向が明らかになる。

近年、さまざまな研究グループが、生体磁場の研究に光ポンピング磁力計を使用し始めている。だが、これらの試みの多くは失敗に終わっている。光ポンピング磁力計は帯域幅が狭いため、求められるすべての磁場信号を拾い上げられないのだ。

多くの光ポンピング磁力計では、原子を摂氏数百度まで加熱する必要があるため、断熱して測定対象から離して設置しなければならない。磁場の強度は発生源から少し離れるだけで急激に減少するので、対象から離して設置することは磁力計の有用性に大きな影響をもたらす可能性がある。

イェンセン助教授らの研究チームは、比較的幅広い帯域感度を持ち、体温と同じ温度で機能する小さな光ポンピング磁力計を開発することで、前述の問題をうまく回避している。すなわち、測定対象となる臓器の上や、臓器から数ミリメートル以内の位置に、磁力計を置けるということだ。

同研究チームは、磁力計の性能を試験するため、実験室に隔離されていたモルモットの心臓の鼓動に関連する磁場を測定した。モルモットの心臓は、人間の胎児の心臓と同様の大きさを持つので、格好の実験材料となる。

実験の結果は有望なものだった。イェンセン助教授らは、診断につながるさまざまな特徴とともに、心臓の鼓動をはっきり検出できたという。

正常な心臓では、「心臓の鼓動」を特徴づける筋収縮は、心臓の表面上を伝わる電波により引き起こされる。心臓の鼓動に関与する電波は複数あり、これらにより心臓の異なる部分の収縮を同期させている。

心臓専門医は、心電波形(心電図上の波形)の特徴的なポイントを、P、Q、R、S、Tとラベル付けしている。これらのラベルの時間的間隔が心臓の機能を示す重要な指標となる。

胎児の心臓において特に注目すべきなのは、QとTの間隔(QT間隔)だ。QT間隔が長いことは、重大な心臓障害が存在することを示している。だが、胎児の心臓のQT間隔を測定するのに心電図は使えない。

イェンセン助教授ら研究チームが開発した新しい光ポンピング磁力計は、そうした胎児の心臓病の診断に使用できる可能性があるという。医薬品を用いて心臓のQT間隔を延長させたモルモットで実験したところ、診断に役立つ兆候を確かに検出できたとしている。

これは、重要な意義を持つ興味深い研究だ。QT間隔の長い子どもは2500人に1人の割合で生まれており、早期診断が重要となっている。イェンセン助教授ら研究チームの新しい手法により、胎児段階での早期診断が可能となるはずだ。

「実験に使ったモルモットの心臓の測定結果に基づいて、在胎期間が18~22週の人間の胎児の心臓の鼓動をリアルタイムで検出可能だと結論付けています。測定の際の心臓とセンサーとの間隔は、半径5センチメートル以内と見積もられます」とイェンセン助教授らはいう。

彼らの成果は素晴らしい未来につながるかもしれない。人間、そして特に妊婦を対象にして試験することが次の段階になるだろう。この磁力計は、脳や神経系が生み出す磁場など、体内の他の磁場の測定にも使える可能性がある。新しい形態の診断ツールの実現に期待しよう。

(参照:https://arxiv.org/abs/1806.10954 : Magnetocardiography on an isolated animal heart with a room-temperature optically pumped magnetometer:室温で利用できる光ポンピング磁力計を用いた隔離した動物の心臓の心磁図)

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