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アミノ酸の生成はビッグバン直後、生命の起源に一石

Emerging Technology from the arXiv

2018年07月17日 12時27分更新

記事提供:MIT Technology Review

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宇宙のビッグバンによって大量の水素とヘリウムが生成され、星の内部の核融合反応でより重い元素が作られていったことはよく知られている。しかし、こうした元素から生命の起源となるアミノ酸のような複雑な分子がどのようにして生まれたのかについてはまだよく分かっていない。科学者たちは隕石に含まれる分子の質量分布と化学進化のシミュレーションの比較で、生命が誕生する約90億年前の初期宇宙からアミノ酸が存在していたことを示した。

1952年、化学者のスタンリー・ミラーとハロルド・ユーリーは、約40億年前の地球上の状態を再現する有名な実験をした。水、アンモニア、メタン、水素を、密閉したフラスコの中で混ぜ合わせて加熱し、雷を模した火花で刺激を与えたのだ。この実験が有名なのは、その数日後、フラスコ内がアミノ酸などの複雑な有機分子で満たされ始めたからである。アミノ酸は、生命を構成する上で基本となる要素だ。

実験の結果から暗示されることは明白だった。生命を作り上げる基本要素が簡単に作れるのなら、生命そのものを創り出すことも難しくないのかもしれないということだ。宇宙の中では、環境さえ整っていれば、どこにでも生命が生まれるのかもしれない。そんな可能性が暫定的に浮かび上がった。

その後、天文学者たちは、他の惑星、小惑星、さらには星間空間からも同じ分子が存在する証拠を見つけてきた。

そして、いくつかの興味深い疑問が生まれた。宇宙において分子は最初どのようにしてでき上がったのか。より複雑な分子ができ始めたのはいつだったのか。そしてこのことから、生命の起源について何が示唆されるのだろうか。

現在、米シアトルのシステム生物学研究所(Institute for Systems Biology)に所属するステュワート・カウフマン博士と、ハンガリーのブダペストにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究者たちの研究から1つの答えが得られている。博士らは初期の宇宙において分子が生成される過程をシミュレーションして、現在の宇宙空間で天文学者たちによって観察されている化学物質の組み合わせが再現されることを示した。この研究は、生命の起源に対する私たちの理解と、合成生物学を使って研究室内で生命の起源を再現できる可能性について重要な示唆を与える。

まず、背景を少し説明しておこう。地球において、生命はおよそ40億年前、現在とはかなり違った環境で生まれたようだ。ミラーとユーリーは、そうした環境を有名な実験で再現した。

しかし、そもそも、彼らが使った化学物質の混合物は、どのようにして地球に生じたのだろうか。天文学者たちは水やアンモニアなどの単純な分子だけでなく、多環芳香族炭化水素やアミノ酸といった、もっと複雑な分子までも宇宙空間に存在する証拠を見つけている。この多様な分子群はどのように生まれたのだろうか。

大ざっぱな答えはこうだ。ビッグバンが大量の水素とヘリウムを作り出し、それが最初に生まれた星々の中の核融合反応で、炭素、酸素、窒素などのより重い元素を生んだ。そして、さらなる星形成により、地球上で見られるようなさらに重い元素群が作られた。

とはいえ、こうした元素が結合して分子を形成した過程については、まだはっきりとはわかっていない。理由の1つは、生じうる分子の種類があまりにも多いことだ。「組み合わせる(原子の)数が多くなるにつれて、生じうる分子の種類は爆発的に増えます」と、カウフマン博士らはいう。

そこで博士らは問題を単純化することにした。その方法は、生じうる分子の質量に着目するというものだ。多くの異なる分子が同じ質量を持つので、対象の種類を少なく抑えられ、検討もかなり容易になる。

地球上に存在する分子の質量分布を調べるのは、よい出発点と言える。地球の環境は、これまで科学者たちが調べた中で、化学的な多様性が最も高いものの1つであるからだ。

カウフマン博士らはパブケム(PubChem)と呼ばれるデータベースから地球上における分子の質量の分布データを調べた。パブケムには、自然界に存在する分子の大部分に相当する9000万種類を超える分子の情報が蓄積されている。質量分布のピークは約290ダルトン(炭素原子およそ24個分の質量に相当する)付近に位置していた。

しかし、290ダルトン程度の質量を持つ異なる分子は数多く存在する。加えて、分布グラフは質量が大きい側に裾が長く伸びた形をしており、数千ダルトンの質量を持つ分子も存在している。

続いて、研究チームはこの質量分布をマーチソン隕石のものと比較した。この大型の隕石は1969年に宇宙からオーストラリアのマーチソンの町に落下したもので、よく調べられている。

さまざまな分析から、マーチソン隕石には少なくとも5万8000種類の分子が含まれていることが分かっている。ただ、実験上の理由によって、200ダルトン未満および2000ダルトンを超える分子については測定できていない。そのため、カウフマン博士らはこの欠落を修正する必要がある。

これらの分子の質量分布は、パブケム・データベースで見られる地球上の分子の質量分布と似たパターンになっている。マーチソン隕石の分子の質量分布のピークは約240ダルトンのところにあり、裾が長い。この結果は有用だ。マーチソン隕石の由来が約50億年前の太陽系形成の頃にさかのぼり、組成が初期の化学進化の様子を端的に捉えているからだ。

カウフマン博士らの論文のカギとなる考え方は、パブケム・データベースとマーチソン隕石の分子の質量分布を比較することで、複雑な分子が最初にいつ生じたのかを解き明かせるはずだというものである。

このパズルの重要な点は、今回示された質量分布パターンがどのようにして生まれたのかということだ。それを探るため、カウフマン博士らは存在しうる化学物質をすべて調べて、分子が2つの異なる過程で成長し得ることを示している。

まず、比較的大きな分子は、ランダムに蓄積したより小さい分子が、化学反応を起こすことで生じる。「この過程では、ある程度の時間を経て、存在し得る小さい分子と構造のほぼすべてが作られます」とカウフマン博士らは話す。

しかしながら、非常に大きな分子の形成は、ランダムな蓄積では説明できない。カウフマン博士らは、巨大分子は「優先吸着」という異なる過程によって作られたはずだという。「たとえば、ペプチド鎖や多環芳香族炭化水素は、原子のランダムな蓄積によって組み上がっていくのではありません。大部分はアミノ酸や芳香族環など、より大きな部品の蓄積によって作られるのです」と話す。

ここで重要なのは、2つの過程のそれぞれが、分子の質量分布の異なる特性につながることだ。ランダムな蓄積によって比較的素早く形成される小さな分子は、240ダルトン付近のピークを作り出す。優先吸着で作られるもっと大きな分子は、小さな分子よりずっと後になってから作られ、分布の長い裾を形成する。

マーチソン隕石と地球における、これら2つの質量分布の相対的なサイズを比較することで、過去にさかのぼって推測し、優先吸着の過程がいつ始まったのかが分かるはずだ。すなわち、アミノ酸が宇宙に初めて姿を現したのはいつなのかを解き明かせるということだ。

カウフマン博士らの論文で取り組んでいるのは、まさにそのことだ。博士たちによると、アミノ酸が最初に登場したのはビッグバンから約1億6800年後だという。宇宙論の観点から見れば、ほんの一瞬に過ぎない時間だ。

これらすべてを考え合わせると、ミラーとユーリーによる実験に対して非常に異なる見方が生まれる。彼らの実験は地球上で生命が生まれた時の状態ではなく、実は、初期宇宙でアミノ酸が初めて生じた時の状態を再現していたことになる。アミノ酸の生成は、実は、誰もが想像していたよりずっと早い段階で起こっていたようだ。

この研究結果は、生命の起源について考える上でも重要なことを暗示している。「今回の結果は、アミノ酸、核酸、その他の重要な分子といった生命の主成分が、生命が誕生する80億年から90億年前という非常に早いうちから存在していたことを示唆しています」とカウフマン博士らはいう。

ユーリーとミラーの実験以降、アミノ酸の出現は生命誕生の可能性を示すしるしだと考えられていた。しかし、アミノ酸が出現してから、地球上で生命がまさに進化する状況になるまでに、さらに80億〜90億年もの年月がかかったことを考えると、アミノ酸は生命誕生のしるしにはなり得ない。「試料の中にアミノ酸が存在していても、それが生命の前触れであるとは決して言えないのです」とカウフマン博士らは話す。

彼らの研究結果によって、ユーリーとミラーの実験を数カ月、あるいは数年以上続けても、興味深い結果がまったく得られていない理由も説明される。アミノ酸から自己触媒による化学的ネットワークへ、そしてさらには自己複製を行う生命の分子への発展がどのように起こりうるのか。コンピューターによるシミュレーションでも、生命の起源に関する明確な証拠は得られていない。

このことは、宇宙は生命で満ちている可能性があるという考えに水を差す。生命の起源を研究する生物学者たちは、生物学的な進化(カウフマン博士らの言葉を借りれば「化学進化後の」進化)が起こる特別な条件を、これまでよりずっと詳しく調べる必要がある。「生命の秘密は、こうした分子ファミリーの相互作用、化学進化の後の進化の中に記されているのです」とカウフマン博士らは語る。

今後、より多くの研究が必要になることは間違いない。

(参照:http://arxiv.org/abs/1806.06716 : The Clock of Chemical Evolution:化学進化の時計)

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