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MRJ事業継続のため三菱グループの民間機事業統合案が浮上

2018年07月17日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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MRJ資本政策の“奥の手”とは
三菱航空機の資本増強策をまとめ上げることは、MRJ事業を軌道に乗せるために必要不可欠。異例の就任6年目に入った宮永俊一・三菱重工業社長(写真中央)の最後の大仕事となりそうだ Photo:Yuriko Nakao/gettyimages

「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の開発が遅れ、2018年3月期に1100億円の債務超過に陥っている三菱重工業傘下の三菱航空機。三菱重工は5月8日、今年度中に資本増強を行う方針を発表したが、増資の引受先を検討する中で、航空機事業の再編策が浮上している。三菱重工の思惑とは。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

 三菱重工業が、航空機事業の社内再編を検討している。米ボーイングや国産初のジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の機体を製造する民間機事業を三菱重工本体から切り離して分社し、MRJの開発・販売事業に専念してきた三菱航空機(三菱重工の100%子会社)に統合する案が浮上しているというのだ。

 背景にあるのは、三菱航空機の増資の必要性だ。同社は2018年3月期に1100億円の債務超過に陥っている。MRJの開発が遅れに遅れ、13年後半に予定していた初号機の納入が20年半ばまでずれ込んでいるからだ。

 これまで、ピンチが訪れるたびに三菱重工が開発資金を工面してきたが、「このままでは見栄えが悪過ぎて今後のMRJの販売等に影響が出かねない」(三菱重工幹部)。そのため三菱重工は5月、18年度中に三菱航空機の資本増強を行う方針を明らかにしていた。

 債務超過については、「開発にてこずった責任を取って、三菱重工が三菱航空機に貸し付けた債務を棒引きにする(債務の株式化を行う)などして解消するしかない」(三菱重工関係者)。

 しかし、それだけでは資本増強策は不十分である。初号機納入が見えたMRJ事業だが、リージョナルジェットの主戦場である北米市場向けの主力モデルについては、これから開発を本格化するところなのだ。

 そのため、「債務超過の解消とは別に、開発資金等の元手として1500億~2000億円の増資が必要だろう」(航空機業界関係者)とみられている。

「MRJ事業からの撤退はもはやあり得ない。とはいえ、事業リスクを三菱重工が丸抱えすることはできない」。こうした現実解が三菱重工上層部の間で主流となりつつあり、同社の水面下では、他社による資金注入が模索されているところだ。

民間機事業があれば
ベースロード収益を獲得できる

 “プラスアルファ資金”の出し手としては、まずは日本政策投資銀行や三菱商事など、三菱航空機の大株主が候補になりそうだ。だが、三菱航空機の出資企業からは、「三菱航空機に出資した資金は、いまや紙切れ。同じ会社に追加で金を出せと言われても社内の稟議が通らない」(出資企業首脳)と手厳しい声も聞こえてくる。

 そこでひねり出された選択肢の一つこそ三菱重工内の航空機事業の統合策だといえる。航空機事業の統合会社という新たな“器”を用意できる上、「民間機事業は10年スパンで見れば必ず利益に貢献する」(前出の三菱重工幹部)からだ。

 現状で、増資の引受先の大本命としてMRJ関係者がこぞって名前を挙げるのは政投銀だ。もともと、「MRJは、航空機を自動車に次ぐ日本の一大産業へ育成しようという経済産業省の思惑もあって開発をスタートした」(三菱航空機OB)。こうした経緯から、政府系金融機関が手を貸さないわけにはいかないだろう、という読みである。

 だが、政投銀とて単なる民間プロジェクトの延命に資金拠出などできるはずもない。その正当性を示すためにも、器の刷新が必要なのだ。

「開発が終わった後、機体をどう売っていくか、投資回収をどう進めていくか──。収益の最大化に向けて何が最善策となるのか検討しているところ。そこにはいろいろな選択肢がある」

 小口正範・三菱重工CFOは、航空機事業の再編観測についてこう語るにとどめるが、実際に、資本政策の成就には複数の難題が立ちはだかる。例えば、ボーイング向けの機体製造で培った技術を他のビジネスに流用されることを嫌うボーイングが、航空機事業の再編に難色を示す恐れは否めない。

 今年度中に組織再編を含めた資本増強策を打ち出そうとするなら、残された時間はそう多くない。

 7月5日には、ボーイングがMRJのライバル機を開発するブラジル・エンブラエルと合弁会社の設立に向けて合意したと発表した。

 ボーイングの目的はMRJより一回り大きい100~150席クラスの拡充であり、欧州エアバス同様、リージョナルジェットには興味がないとされる。

 しかし、MRJ事業にとって、経営が不安定になりがちな中小のエアラインが顧客となるリージョナルジェット市場において、持続的に稼ぐための施策とは何なのか。そもそも、ボーイングとエアバスが手を出さない市場に、どれだけうまみがあるのか。

 開発のゴールばかりを強調する三菱重工だが、完成機ビジネスのプロセスではようやくスタート地点に立ったばかりである。最も重要なのは、MRJ事業が安定飛行するための戦略の提示だ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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