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犯罪者の「精神鑑定」、重要だが誤診も多い悩ましき実態

2018年07月04日 06時00分更新

文● 福田晃広【清談社】(ダイヤモンド・オンライン

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重大な殺人事件などが起きると、ほぼ必ずといっていいほど被告人に対して行われる「精神鑑定」。誤診の可能性も多分にあるため、批判にさらされることも多い。精神鑑定の実情や意義など、精神科医の岩波明氏に聞いた。(清談社 福田晃広)

「責任能力」とは何か?
知っておきたい精神鑑定の実態

精神鑑定にはどんな意義があるのでしょうか?
精神科医によって結果がバラバラになりがちな精神鑑定への批判の声は大きい。しかし、精神障害のある犯罪者は、やはり一般の犯罪者とは違う。彼らのケアに関して、日本は諸外国に大きく後れをとっている

 精神鑑定とは「被告の精神状態について法的な手続きを経て行われる診断」のこと。つまり、犯行に精神疾患がどの程度関与しているのかどうかを明らかにするのが目的だ。

 精神障害の症状によって、自分の行為の善悪を適切に判断する能力(弁識能力)、その判断に従って自分の行動をコントロールする能力(制御能力)が失われている場合、刑罰を科さないというのが現行の司法制度だ。

 この弁識能力と制御能力を合わせたものが「責任能力」といわれるもので、刑法39条1項では、「心神喪失者の行為は、罰しない」、2項で「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定されている。

 そこで過去の病歴などを調べた上で、本人の精神状態を主に面接で引き出すため、精神医学などの専門的見地が必要とされる。

 もちろん、精神異常があるからといって、必ずしも罪を犯すということにはならないが、被害妄想が強くて、特定の個人から殺されるのではないかという妄想や幻聴が聞こえる人は、自分の身を守るために「反撃」をするケースも考えられる。

 しかし、岩波氏によれば、法廷における精神鑑定には誤りが多いという。

「精神医学はいまだに未熟な学問。当然診断基準というものがあるとはいえ、ほかの医学と比べて数値で判断できるものが非常に少ないのです。そのため、精神科医によって鑑定結果もさまざまで、客観的とはいえないのが現状でしょう」(岩波氏、以下同)

精神科医の診断によって
鑑定結果は180度異なることも

 たとえば、2007年1月に東京都の歯科医宅で起きたバラバラ殺人事件。兄が妹を殺し、遺体を切断した事件だ。被告に対して行われた精神鑑定では、多重人格と診断し、責任能力がないか、もしくは不十分であるという結果になった。

 しかし、被告自身は多重人格の症状を訴えていない上に、犯行の計画性はないものの、悪いことをしている自覚はあった。事後の隠蔽工作を綿密に行っていたことも明らかだったため、「責任能力がかなり損なわれる」という鑑定結果は誤りだったと、岩波氏は言う。

 最終的にこの事件は、被告の責任能力が認められて懲役12年が確定したが、精神鑑定の結果によって無罪となる可能性も十分に考えられた事件だった。

 つまり、現状の精神医学では精神科医の判断によって、結果が180度変わることもあり得てしまうのだ。

 また、09年から始まった裁判員制度のもとでは、裁判員に選ばれた一般市民が精神鑑定の結果を検討し、責任能力の有無を問うことが求められる。さらに4日程度で結論を出すことになっているため、裁判員たちが裁判官の意見をうのみにしてしまうことも容易に想像がつき、問題が多いと岩波氏はいう。

罪を犯した精神障害者を
どのようにケアするか

 重度の精神病にかかっていても、凶悪犯罪に手を染めない人の方が圧倒的に多い。さらに、疑問の多い鑑定結果がしばしば出るとあって、「精神鑑定はアテにならないから、刑法39条も必要ない」という声もある。

 しかし、岩波氏はそのような意見を一蹴する。

「刑法39条を削除すべきだという人は、精神障害者に対してどのような施策が望ましいのか提示しないと無責任。刑法39条があろうがなかろうが、罪を犯した精神疾患の人をどうすればいいのか、常に問われるわけなのです」

 かつては、重大な罪を犯した精神疾患者も、一般の精神病院で他の患者と同じ部屋に入院させていたが、これでは効果的な治療にはつながらない。

 そこで、05年に「医療観察法」(正式名称「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」)が施行され、心神喪失や心神耗弱と認定され、実刑が科せられなかった人に対しては、裁判官と精神科医の話し合いによって、新しく開設された指定病院に入院するようになっている。

 このように、状況は若干は改善されつつあるようだが、まだまだ日本では、イギリスやフランス、ドイツといった諸外国に比べて、犯罪性のある精神障害者に対する治療施設、リハビリテーションに関して、大きく後れをとっているという。

 現状では精神医学のレベルが不十分であることは間違いないが、それでも精神障害がある犯罪者は、一般の犯罪者とは異なる。彼らを裁くためには、不十分であっても、専門家である精神科医の目で見極めるしか方法はないのである。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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