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JALが以前リストラした人材を再雇用へ、LCC新会社で人手不足に

2018年06月08日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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日本航空(JAL)がLCC(ローコストキャリア)新会社設立に関して、2010年の経営破綻時に退職・解雇した人材を雇用対象にする方針を打ち出したことが分かった。人手不足と労働争議を解決する“一石二鳥”作戦はうまくいくのだろうか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

JALの労働組合のビラ
「解雇問題が解決に向けて動き出した!」と“朗報”を伝えるJALの労働組合のビラ。交渉の行方が注目される

「LCC新会社が雇用創出」「もう一度JALで活躍を!」。本誌が入手したJALの労働組合のビラには、こんな文言が喜々として躍っている。

 5月14日、JALは国際線中長距離LCCの新会社を設立すると発表した。成田国際空港を拠点に、2020年春から就航する。具体的な路線は未定だが、飛行時間10時間前後のアジア、欧米を含めた広範囲を見据える。

 同日、JALは各労組にもこうした概要を説明。しかしその席上、記者会見では一切語られなかったある重大発言が飛び出した。人事部門の責任者が、「従来の労務方針を大幅に変更する」と話したのだ。

 その内容は、10年の経営破綻前後に実施した特別早期退職、希望退職、整理解雇した運航乗務員(パイロット)を、LCC新会社の採用対象にするというもの。併せて、これまで早期退職者と希望退職者はJALグループへの再就職を禁止していたが、パイロットに限らず全ての職種で、その禁止措置を撤廃するという。

 破綻当時、JALと企業再生支援機構は約1万6000人を削減する更生計画案を提出。希望退職を3度募った。ところがパイロットと客室乗務員(キャビンアテンダント、CA)は応募が計画を下回ったことを理由に、計165人の整理解雇に踏み切った。

 これに対して「年齢や病歴を理由に解雇対象者を選ぶのはおかしい」「人員削減は計画通り進んでいたはずだ」などと訴える「JAL不当解雇撤回争議団」が結成され、一部労組が支援。JALと争議団・労組は長年にわたって、複数の裁判を繰り広げてきた。

 それが一転、LCC新会社をきっかけに、解雇問題が解決に向けて動きだした。ある労組関係者は「7年間、何も進展がなかったことを踏まえると、大きな一歩」と経営陣の判断を評価。不当解雇を訴える街頭での宣伝活動を休止している。

 JALが態度を変えた背景には、航空業界の世界的な人手不足がある。20年に向けた経営計画では、世界500都市へ乗り入れる(コードシェア便を含む)路線拡大を掲げ、新型機材も複数導入予定。人材の安定確保は喫緊の課題だ。毎年、数百人規模の新卒採用を続けてきたが、新人の育成には時間がかかる。そこで即戦力となる“出戻り人材”に門戸を開いたわけだ。

 LCC新会社を設立するこのタイミングで、長年の労働争議の解決と、人材確保を図る今回の労務方針転換は、まさに“一石二鳥”の作戦といえる。

LCCなのに高コストになる?
現役への影響も

 一見すると多方面にメリットがあるこの策。しかし「円満解決」するには、幾つかの懸念を払拭していく必要がある。

 まずは、このまま労組が経営側の提案をすんなり受け入れるかどうかだ。「会社側が一向に詳細を出さないので、受け入れようがない」とある労組関係者が言うように、具体的な交渉はまだ進んでいない。新LCCに関しては7月に準備会社が立ち上がり「その経営陣が人事も決めていくようだ」(同)といううわさもある。

 とりわけ注目されるのが、本人の意思とは無関係に解雇された被整理解雇者が、どのような労働条件や待遇になるかだ。仮にJAL本体に引けを取らない給与水準でLCC新会社に迎えられれば、今度は新LCCが「ローコストキャリア」を実現できなくなるジレンマに陥る。

 一方、労務方針の転換は、一般社員にも影響を与えそうだ。

 そもそもJALの労組には、性格の異なる二つの系統がある。前述した争議団を支援するのは複数の少数組合で構成する通称「JJ労組」と呼ばれる一派。対して、最大派閥は通称「JALFIO」で労使協調型だ。JALFIO側の社員には今回の労務方針転換は、あまり広まっていないもよう。解雇問題に興味を持たない層も一定数いて、近い将来、出戻り人材と一緒に働くかもしれないことに対して「正直、違和感がある」などと“忌憚ない”意見も出ている。

 こうした状況を踏まえると、JAL経営陣には再就職者にも現役社員にもさまざまな配慮が必要だ。それができなければ労務問題の新たな火種になりかねない。

 他方、競合のANAにも話は伝わり、反響を呼んでいる。傘下のLCCに元JAL社員が多数在籍しているからだ。仮に人材がJAL側に流出すれば大打撃だ。

 航空業界では「採用競争力」がホットトピックになって久しい。JALが会社の都合で解雇を断行し、必要になれば人材を呼び戻すというのは、いささか虫がいい話にも思えるが、プライドを捨ててでも背に腹は代えられぬ状況が、そこにある。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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