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「グローバル化先頭国」でトランプ現象や保護主義が台頭した理由

文● 河野龍太郎(ダイヤモンド・オンライン

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保護主義が台頭
写真はイメージです

 支持率低下が続く中で、秋の中間選挙を控えるトランプ政権が保護主義的な通商政策を立て続けに打ち出している。

 1990年代から始まった今回の「第2次グローバリゼーション」もかつてのように保護主義の広がりで中断を余儀なくされるのだろうか。そもそもグローバリゼーションやイノベーションに対し最も寛容なアングロサクソンの国々で“トランプ現象”や「Brexit」(英国のEU離脱)が起きたのはなぜだろうか。

第1次グローバリゼーションは
保護主義台頭で「中断」

 19世紀初頭、西洋の国々は、「農業社会」から「工業社会」への移行を開始し、人類史上初の成長の時代が訪れた。

 英国で蒸気機関が実用化されて、モノの移動コストが大幅に低下した結果、生産地と消費地を切り離すことが可能となり、第1次機械時代(ファースト・マシン・エイジ)と共に、「第1次グローバリゼーション」が始まったのだ。

 それ以前は、モノの移動コストが大きかったから、人類は消費地での生産を余儀なくされていた。

 生産の集積が一度始まると、イノベーションが誘発され、さらなる集積が促される。これが、一足遅れて工業化を始めた日本を含めて、G7諸国を中心とする世界経済の成長がその後150年間にわたって続いた理由でもある。

 工業国といえば、それは先進国のことであり、途上国との格差は開く一方だった。これが経済史家の言う「大いなる分岐」である。ただ、第1次グローバリゼーションには大きな中断が存在している。

 それは、第1次、第2次世界大戦と戦間期の保護貿易の時代である。

 まず、第1次世界大戦の勃発で中断が生じ、その後、大恐慌が世界経済を襲った。当時、保護主義の蔓延でブロック経済化が進み、最終的に第2次世界大戦に至る。

 その過程では、悪名高い高関税のスムート・ホーリー法の成立が、米国に端を発した大恐慌の悪影響を各国に伝播させたという点も無視し得ない。

第2次グローバリゼーションの“誤算”
中間層衰退で政治が不安定化

 1990年代に第2次機械時代(セカンド・マシン・エイジ)と共に「第2次グローバリゼーション」がスタートする

 第1次グローバリゼーションの下では、イノベーションもサプライチェーンも一国内で完結していた。しかし、第2次グローバリゼーションでは、セカンド・マシン・エイジにおけるICT(情報通信)革命が触媒となり、国境をまたぐアイデアの移動コストが劇的に低下した。

 その結果、先進国企業は自らのノウハウと途上国の割安な労働力を組み合わせることが可能となり、生産工程を途上国へシフトさせた。

 生産工程のフラグメンテーション(断片化)とオフショアリング(海外などへの移管や委託)が進んだ結果、2000年代以降、中国を始めとする新興国が世界の工場となる。

 この「大いなる収斂」が始まった時、国境をまたぐ高度なサプライチェーンやバリューチェーンが確立されたため、保護貿易は、自国に大きな返り血をもたらすから、あり得ないと皆が考えた。

 また、先進国企業が海外に移転させたのは、労働集約的な生産組立工程であり、収益性の高い研究開発やアフターサービスは自国に残したままだから、むしろ自国にメリットが大きいとも多くの人が考えた。

 主流派経済学者の言うところの「比較優位の無国籍化」である。

 しかし、後知恵で考えるなら、主流派経済学は大きな点を見逃していたように思われる。

 戦後、先進国では、学校を卒業したばかりの低スキルの若者は、製造業の生産工程で吸収されていた。そこでは、人的資本が徐々に蓄積され、段階的に実質賃金が上昇していった。

 こうした中程度の賃金の仕事が増え、分厚い中間層が形成され、それが先進各国で中道右派と中道左派が競う安定的な民主主義を実現してきたのだ。

 しかし、オフショアリングの進展によって、先進国では、中程度の賃金の仕事が失われ、賃金の高い仕事と賃金の低い仕事に二極化している。

 この結果、中間層は衰退し、多くの先進国では、かつての二大政党を足し合わせても有権者の半分の支持を得ることが難しくなっている。

 これが、先進各国で政治が不安定化している理由だ。

二極化と保護主義は
共通して起きた

 実は、所得の格差が拡大するということでは、第1次グローバリゼーションと第2次グローバリゼーションで同様のことが起きている。

 第1次グローバリゼーションによって、農業社会から工業社会へ移行する際、所得増加は資本やアイデアの出し手に集中し、それが経済格差の拡大をもたらした。格差拡大は長引き、拡大が止まるのは、農村の余剰労働が吸収され終わり、「ルイスの転換点」を迎え実質賃金の急騰した1870年代だ。

 また、所得格差の継続的な縮小が始まったのは、大恐慌後の1930年代で、全体主義や共産主義の脅威で社会の不安定性が高まり、社会保障制度が拡充されると共に、その財源確保を目的に、高所得層に高い税率を課す累進課税が導入されたためだ。

 今回の第2次グローバリゼーションでも、資本やアイデアの出し手、一部の経営者に所得が集中し、先進各国の労働分配率は低下トレンドにあり、所得格差も広がっている。

 第1次グローバリゼーションの初期局面と同様、第2次グローバリゼーションでも、経済発展の初期局面では経済格差が拡大すると唱えたクズネッツの主張通りの展開が繰り返されているのだ。

 第1次、第2次ともいずれも、経済構造が大きく変化し、新たな産業の担い手に所得が集中することで経済格差が大きく拡大したことから、保護主義を許容する政治的な土壌が生まれたのだろう。

「ヒトの移動コスト」が低下
「新たな段階」に入った可能性

 ただ、第1次、第2次で大きな違いがあることを認識することが重要だ。

 第1次グローバリゼーションでは、大恐慌の直後に、保護主義が蔓延し、グローバル化に中断が生まれたが、今回、保護主義が台頭したのは、2008年のリーマンショックの直後ではない。欧州では極右が台頭するようになったのは、2010年代に入ってからだった。

 またグローバリゼーションやイノベーションに対し最も寛容なアングロサクソンの英米で「Brexit」やトランプ現象が生じたのも2016年だ。なぜか。

 筆者の仮説は、2010年代頃からセカンド・マシン・エイジと第2次グローバリゼーションが新たなフェーズに突入しつつあることが大きな要因の1つではないか、というものだ。

 ジュネーブ高等国際問題・開発研究所のリチャード・ボールドウィン教授の指摘するように、第1次グローバリゼーションは「財の移動コスト」の大幅低下がきっかけになり、第2次グローバリゼーションは「アイデアの移動コスト」の大幅低下によって、始まった。

 しかし、残された最後の制約である「ヒトの移動コスト」が相変わらず高くつく一方で、ビジネス上の「対面でのやり取り」の重要性は今でも変わらない。このため、生産工程の移転も、先進国から地理的に近い途上国が選択されている。

 例えば、日本や台湾、韓国が生産拠点として選択するのは、中国か東南アジアまでだ。それは上級管理職がナイトフライトを利用し、最短1日で往復が可能な距離だからだ。

 同じように、米国の生産拠点もメキシコが中心で中南米には至っていない。欧州の生産拠点も中・東ヨーロッパや北アフリカまでで、東アフリカには至っていない。賃金が安いからといって、全ての途上国に生産拠点が移行するわけではない。

 ところがここにきて、AIだけでなく、ロボティクス(ロボットの遠隔操作)やテレプレゼンスなどリモート・インテリジェンス(RI)の急速な発展によって、ヒトのバーチャルな瞬時移動が可能となり始めている。

 そのことは、高スキル労働は活躍の場が世界にさらに広がり、一方で低スキル労働は途上国の低賃金労働に代替されてさらに厳しくなり、ますます二極化が進むことを意味する。

 最後の制約だった「ヒトの移動コスト」が低下し、グローバル経済の地殻変動が再び始まった可能性があるのだ。

反シリコンバレーの動き
「21世紀版ラッダイト運動」の趣

 米国などを見ても、国内で増えているのは、「ギグエコノミー」と呼ばれるネット上のプラットフォームを利用した単発の賃金水準の低い仕事が多く、そのことを人々が強く懸念し始めているのではないか。

 第1次グローバリゼーションの際は、1870年代に、過剰労働力が吸収される「ルイスの転換点」を迎えたため、その恩恵が賃金上昇という形で平均的な労働者に広がり、格差の拡大が止まった。

 しかし、現在のデジタル革命は、労働力を不要とするから1870年代型の転換点はやって来ない。

 社会の不安定化を背景に社会保障などの所得再分配政策が拡充された1930年代型の転換点が訪れるまで、平均的な労働者への恩恵は限られるのかもしれない。

 現在、米国で保護主義だけでなく、反シリコンバレー的な動きが広がっているのは、21世紀版のラッダイト運動(機械破壊運動)と解釈すべきかもしれない。

 反コスモポリタン的なジャクソニアン思想を持つトランプ米大統領が、反グローバリゼーションや反イノベーション的政策を掲げたのは、決して偶然ではないのだろう。

 目先、米中貿易摩擦はいったんは落ち着くかもしれないが、トランプ大統領の最終目標が2020年の大統領選挙での再選であることを考えると、これで問題解決ということにはならないのではないか。

 本来、必要なのはイノベーションやグローバリゼーションを進め全体のパイを拡大しつつ、不利益を被った個人をサポートするような所得再分配政策を行うことだ。

 戦後、GATT(関税貿易一般協定)体制の下で、安定的な自由貿易が可能だったのは、戦間期に強化された所得分配とセットになっていたからでもある。

 しかし、日本を含め多くの先進国はサッチャー・レーガン後、イノベーションやグローバリゼーションを推進すると同時に、所得の分配や再分配についても、むしろ弱体化を進めてしまった。

 保護主義政策や反イノベーション政策を取ることで全体のパイの拡大を止め、皆が等しく貧しくなるとすれば、元も子もない話だ。しかし、貧すれば鈍する、ということなのだろうか。

 保護主義が広がるリスクが拭えない。

(BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野龍太郎)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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