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小池都知事vs万葉倶楽部、豊洲の千客万来問題が解決不可能なワケ

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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小池都知事 都庁で定例会見
「インパール百合子」と呼ばれて Photo:Rodrigo Reyes Marin/Aflo

昨年の衆院選で大敗を喫して以来、小池百合子東京都知事が再び注目を集めるきっかけになったのは、皮肉にも豊洲市場の千客万来施設をめぐる協議の混乱だった。その原因を探るとやはり、小池知事自身に行きつくことになる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)

 もはや、手の施しようはなさそうだ――。

 豊洲市場の「千客万来施設」をめぐる東京都と運営会社・万葉倶楽部との協議が暗礁に乗り上げた。解決策は、もはや見出せまい。

 千客万来施設とは、豊洲市場に隣り合う場所で計画された、温泉やホテル、商業店舗などから成る複合施設だ。築地からの市場移転を江東区が受け入れるにあたり、地元の賑わいを生み出す機能を求めた経緯がある。

 豊洲への移転後、築地市場跡地は民間に売却される計画だったが、小池百合子東京都知事は昨年6月、「築地は守る、豊洲は活かす」と述べて、築地跡地を売却せずに都が保有し続け、再開発して民間に貸し出し、地代収入を得る方針に変更した。再開発後の姿として「食のテーマパーク」を掲げた。

 これに万葉側が、自社の計画と競合するとして反発。小池知事に対して方針転換の撤回と謝罪を求めている。

 ただ、本誌が従来指摘している通り、小池流の「築地・豊洲両立案」なるもの自体がそもそも“欠陥品”なのだ。

 要約すると、都の事務方は、築地跡地を民間に貸し出すことで、2021年度から50年間、年間160億円の地代収入を得続け、かつその途中で債務の借り換えをすれば、豊洲市場の建設によって生じた約3600億円の負債を解消できると試算した。

 ところがこの試算では、住宅価格の積算根拠が東京・表参道のそれを用いるなど極めて非現実的であり、本誌が不動産の専門家の知見を得て検証したところ、年間160億円の地代収入を得続けるのは、まず無理だとの結論を得た。

 ちなみに都は5月21日、築地跡地の活用策を話し合う有識者会議の議論を取りまとめたが、「将来の都民にとっての価値を最大にする」という、まったく具体性のない目標を示しただけだった。

 今回、千客万来施設をめぐる協議が平行線をたどっているのは、万葉側が都に対して、豊洲の計画地での貸付料の減額や、テナントの募集を引き受けるよう求めたためだ。

 都にしてみれば、そもそも築地跡地でも十分な地代収入が得られる見通しがないのに、さらに豊洲の千客万来施設においても、本来得られるべきはずの地代収入を減額し、テナント募集に何らかの補助をするとなっては、もともと非現実的な市場会計の試算にできた収支の穴を、さらに大きく広げることになる。それで一体、約3600億円の負債をどのように解消するというのだろうか。

 よしんば市場会計ではなく一般会計から万葉側の求める費用を計上するにしても、そのような予算案に現在の都議会が同意する可能性は低いし、いずれにせよ都民の負担が増えることに変わりはない。

 万葉側は、施設の設計費用などですでに10億円を投入しているといい、交渉から降りる気配はない。

 一方でもし、都が万葉を切り捨てて事業者を再々公募した場合、一体誰が手を挙げるのか。

 14年には寿司店の「すしざんまい」を経営する喜代村と大和ハウス工業が事業者に決まったが、採算性への懸念を示すなど何かと理由をつけて撤退。再公募の結果、万葉に決まったのだ。

 さらにここへ来て、「豊洲市場の安全性を担保する」と小池知事が大見えを切った追加対策工事において、信じがたいまやかしが明らかになったほか、水産仲卸業者らが従来訴えていた、豊洲市場の構造的な問題による、市場内での車両の通行への懸念が再燃し始めた。市場移転問題全体が混乱している中で、その渦中に飛び込むような事業者が他にいるとは、おおよそ考えにくい。

 もっとも、万葉による収支見通しの甘さを指摘する声もある。だが、さらに現実的な根拠や見通しを欠いた小池流の築地・豊洲両立案によって、万葉側に格好の批判材料を与えてしまったのは事実だ。そんな小池知事は、万葉との交渉について再三、記者会見で問われても「誠意を持って対応してまいります」と、壊れたスピーカーのように繰り返すばかりだ。

 まさに、自らぶち上げた方針転換によって、千客万来施設をめぐる問題を膠着させ、自分の首を絞めてしまった小池知事。何ら打開策を示さぬまま、10月11日の移転を進める方針を変えていない。

 そんな小池知事に移転反対派の関係者は、「インパール百合子」という不名誉な呼び名を授けた。

 1944年、旧日本軍がインド西部の同地を占領しようと「インパール作戦」を計画したが、弾薬や食料の補給が不十分なまま、甘い見通しや精神主義に基づいて強行されたため、英国とインド軍の反撃だけでなく、飢えや伝染病によって2~3万人が犠牲になったとされる、旧日本軍の作戦でも最大の失敗と言われるものだ。

 思えば小池知事が16年の知事就任直後、インパールやレイテ海戦など旧日本軍の数々の作戦の失敗を子細に検証した名著『失敗の本質』を座右の書に挙げて「都政は敗戦するわけにはいきませんので」と、引き締まった表情で語っていたのは、なんとも皮肉なことである。

 逆に、代替策なしに豊洲移転を再延期すれば、築地を更地にして2020年開催の東京オリンピックの選手や関係者の輸送拠点とする現行計画は破綻する。小池都政どころか、五輪開催国・ニッポンの“敗戦”の引き金を引くことにもなりかねないので、事態は窮迫している。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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