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ムダな公共施設の先進的リストラ策が迷走、愛知県西尾市の事情

2018年04月10日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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矢作川のデルタに広がる西尾市の空撮写真。2011年4月に隣接する一色町、吉良町、幡豆町の3町を編入合併し、市域を2倍以上に広げた Photo:JIJI

公共施設の再配置事業で独自の方式を展開し、全国の自治体関係者から「西尾市方式」として注目されている愛知県西尾市。ところが、その手法に住民から異論が噴出し、昨年の市長選で見直しを公約に掲げた新市長が誕生。計画に急ブレーキがかかっている。一体、何があったのか、その背景を探った。 (地方自治ジャーナリスト 相川俊英)

「大幅な内容変更になりますが、市民に一番広く受け入れられるものになったと思います」

 冷静な表情でこう語ったのは、愛知県西尾市の中村健市長。

 中村市長は3月5日の市議会全員協議会の場で、市が推進していたPFI(民間資金活用による社会資本整備)方式による公共施設再配置事業の大幅な見直しを発表し、その直後に記者会見に臨んだ。

 事業の見直しは、昨年6月の市長選挙で中村氏が掲げた公約の目玉だった。西尾市の職員と市議会議員(1期)を経て市長となった中村氏は38歳。3選を目指す77歳の榊原康正前市長を2万7164票の大差で退け、初当選した。

 中村氏は新市長に就任後、PFI事業の一時中止を表明、工事に待ったをかけた。さらに市庁内に検証室を設置し、PFI事業の徹底検証と見直し作業を進めていた。

 発表された見直し方針は対象となる32事業のうち、18事業が計画通りの実施となり、市民から批判が多かった施設の新設など10事業は取りやめ、建設済みの建物を含めた4事業は計画を一部変更した上での実施となった。市はこうした方針を基に、PFI事業の契約先である特別目的会社、エリアプラン西尾との協議を重ねている。

日本初の先進手法たる理由

 三河湾に面する西尾市は人口17万2057人(2018年2月1日時点)。温暖な気候と矢作川のデルタに広がる肥沃な土壌を持つ地域で、全国屈指の抹茶の産地として知られる。西尾市は11年4月に隣接する一色町、吉良町、幡豆町の3町を編入合併し、市域を2倍以上に広げた。同時に公共施設の数も2倍近くになり、たくさんの重複施設を抱えた。

 このため西尾市は公共施設対策プロジェクトチームを立ち上げ、施設の総量を縮小する再配置事業に着手した。12年3月に基本計画を策定し、対象となる329の公共施設のデータを白書にした(その後、対象施設は357に)。そして14年3月に第一次実施計画をまとめ、30年間で公共施設全体の約16%を削減する数値目標を掲げた。第一次の5年間では数値目標の約3割に当たる施設を削減し、新しいまちづくりの出発点となる施設に造り替える計画であった。

 西尾市は実施計画の策定作業を市民参加型で進めた。市民説明会やワークショップなどを度々開催し、市民と専門家によるワーキンググループを設置し、大学教授をアドバイザー役に据えた。

 西尾市はPFIの手法を活用して公共施設の再配置を進めることにした。それも日本初の先進的なPFIのやり方で、自治体関係者から「西尾市方式」と呼ばれた。従来型PFIとの違いは主に二つ。一つが日本初のサービスプロバイダー方式の採用である。

 一般的なPFIは、ゼネコンなどが代表となって特別目的会社を設立し、参画する形が多い。施設運営者が事業を主導しにくく、地元企業が加わりにくいという難点がある。このため西尾市方式はゼネコンなどを特別目的会社に加えず、地元企業の運営者が主体となれる仕組みにした。

 また、施設の内容を自治体側があらかじめ全て決めず、民間事業者からさまざまなアイデアを提案してもらう「性能発注方式」を取った。民間の手足を縛らず創意工夫をしやすくすることで、公共サービスの質を上げようという発想である。市が求める業務水準を満たすことを前提に、事業者からの代替提案を広く受け入れるものとなった。

 もう一つの特徴が、一つの事業者に長期間(30年)、大規模なPFI事業(総事業費は約198億円。事業内容は施設の新設5、改修12、解体14、運営6、それに163施設の維持管理)を一括して任せる点だ。実は、こうした西尾市方式のPFIはコンサルティング業者からの提案によるもので、市はその業者と14年4月から業務委託契約を結んでいた。

 西尾市の取り組みはPFIの画期的な事例として高く評価され、14年12月に公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会から第9回日本ファシリティマネジメント大賞の奨励賞を授与されることになった。

 だが、その一方で現実との間に大きな齟齬が生じていた。

 民間事業者向けのPFI説明会を開催した西尾市は、15年3月に募集要項を公表した。しかし、民間からの反応はさっぱりで、手を挙げた企業グループはわずかに一つ。市内でスイミングスクールやスポーツクラブ、スーパー銭湯などを運営する地元企業を代表とする12社(協力企業を含む)の企業グループだ。

 当時、市議会議員だった中村市長は「私は3~4社から応募があって競争性が担保されれば、問題はないだろうと思っていました。しかし、西尾市のPFI事業は全て一括でやるので、応募への壁が高くなっていました。それで事業を切り分けてやるべきではという意見も出ていました」と振り返る。

身の丈を超え、住民不在に

 その後、西尾市の先進的な事業はコースを逸脱し、大きく迷走していった。16年1月に応募グループによる公開プレゼンテーションが開催され、参加した市民の多くを仰天させた。新設する公共施設にフィットネスクラブを併設する計画やスケートボード場を新設するプランなどが示されたからだ。取り組み当初のワークショップに参加した市民の中から「私たちの意見が反映されていない」との声が上がり、西尾市方式のPFI事業への不信感が広がった。

 事業者との交渉内容などを知ろうと、市に情報公開請求する人も現れた。しかし、市から示されるのは、黒塗りの資料ばかり。「民間事業者の著作権や意匠権などが絡むので、市の一存で開示判断できるものが限られる」というのが、その理由とされた。

完成間近で工事ストップとなった施設。2階のフィットネスクラブは取りやめに。 Photo by Toshihide Aikawa

 こうした情報の非開示は市の内部でも同様だった。事業の全容を把握しているのはごく一部の幹部職員に限られ、議会への説明もきちんと行われなかった。西尾市方式PFI事業の検証を担当した市職員は「(PFIによる公共施設再配置は)西尾市最大の事業なのだから、細かいことは言わずにとにかく通してくれと言われ、おかしいと思いながらも反対できなかった」と、当時の実態を明かした。

 市民の不信が広がる中、西尾市は16年3月議会にPFI事業の債務負担行為額約327億円(事業期間30年間)の議案を提出した。その積算根拠などはきちんと示されなかったが、議会は賛成多数で可決。これを受け、市は民間事業者が設立した特別目的会社と仮契約するが、ここで驚きの行動に出たのである。市民から反発を受けたスケートボード場を見送り、維持管理業務などの契約期間を15年間に短縮するなどし、契約金額を約128億円も減額した約198億円に変更したのである。市は6月議会にこの変更したPFI契約議案を提出し、詳細を説明することなく議会の可決を得た。

 こうして16年6月から西尾市方式のPFI事業が正式にスタートしたが、各事業の内容が明らかになるにつれ、市民の反発は増していった。例えば、市役所の吉良支所を建て替え、支所機能やフィットネスクラブ(浴室付き)機能を併設した公共施設にする計画や、寺津校区に小中学生と市民が共用する温水プールを新設することなどについてだ。

 こうした市民の反発がうねりとなり、昨年6月の市長交代となった。そして、今年3月の西尾市方式のPFI事業の大幅見直しとなったのである。

これからが大変ですと語る西尾市の中村健市長。 Photo by Toshihide Aikawa

 中村市長は本誌インタビューでこう語った。「PFIそのものを否定はしていませんが、西尾市のやり方はまずかったと思います。(民間事業者から)こういう提案があったと市民に説明し、意見をきちんと聞いて進めていれば、こうはならなかったと思います。(PFIを)進めることが“是”、やるしかないといった感じになり、住民不在になっていたと思います」。

 西尾市の場合、公共施設の再配置を進める手法として採用したPFIが、いつしか目的そのものにすり替わってしまったと思われる。また、自治体関係者から取り組みを高く評価されたことが、プレッシャーとなったのかもしれない。功を焦るあまり、身の丈を超えた施策にこだわり続けたことが、混迷を生み出すことになったとみられる。その結果、西尾市はPFI事業の契約相手である特別目的会社との見直し協議という新たな課題を抱えることになった。

 そして、見直しで立ち止まる形となった公共施設再配置の取り組みをどう再起動させるかという、大きな課題も残されている。

 西尾市はPFI事業見直し方針に関する市民説明会を4月10日から4カ所で実施する。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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