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「内閣人事局が“忖度”を生む元凶である」は本当か

2018年04月04日 06時00分更新

文● 室伏謙一(ダイヤモンド・オンライン

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森友・加計学園問題で「忖度」という言葉が一躍話題となった。官邸の意向を官僚が忖度したのではないかという指摘だが、その「忖度」を生む元凶が内閣人事局の存在だと言われている。それは本当なのか。元官僚の筆者が解説する。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一)

財務省の職員は官邸の意向に「忖度」したのか?

内閣人事局が
「忖度」を生む元凶なのか

 森友学園問題、そして加計学園問題で「忖度」という言葉が一躍流行語のようになったのはご承知の通り。

 森友問題における国有財産の売却に関する決裁文書の改ざんをめぐり、「財務省の担当職員が官邸の意向を『忖度』したのではないか」という疑惑から再び注目を集めることとなった「忖度」。ついには佐川元国税庁長官の国会への証人喚問にまで至ったが、「忖度」に関する新たな事実は得られなかった。

 同時に、これは「忖度」がなかったということに関する新たな事実も得られなかったことも意味している。要するに真相はまだまだ「闇の中」ということである。

 さて、この「忖度」との関係で話題となっているのが内閣人事局であり、「この組織が『忖度』を生む元凶である」と指摘されるようになってきている。

 その理由は、国家公務員の幹部人事を、官邸の下、内閣人事局に一元化したことで、人事への官邸の影響力が強くなり、官邸の意向を踏まえなければ出世できない、官邸の意向に反することをしようとすれば左遷される、そうしたことを懸念して国家公務員が官邸の意向に従順に従うに止まらず、それを先回りして過剰に「忖度」するようになった、といったものである。

 確かに、なんとなくその通りであるように聞こえるが、実際はどうなのだろうか?

 そもそも内閣人事局とはどのような組織で、どのような経緯で誕生したのか、そういったことを紐解き、整理していくと、この問いの解が導き出されるように思われる。

内閣人事局は
「人と組織の主計局」

 内閣人事局とは、どのような組織なのか?

 内閣人事局は、平成26年の第186回国会(常会)において可決・成立した国家公務員法等の一部を改正する法律において規定され、同年5月に設立された国家公務員の人事制度を所管する機関である。

「人事」とその組織名に付いてはいるが、民間企業の人事部のように一括採用を行うわけではなく(採用試験は人事院、採用は各府省)、国家公務員の人事制度の根幹である国家公務員法を所管して制度の企画立案を行う他、幹部公務員の人事の一元的管理や、公務員の給与制度、行政機関の組織や定員管理といったことを担っている。

 簡単に言えば、各府省の幹部人事、それに組織やその在り方、職員の数をどうするのか、給与の在り方をどうするのかといったことを一手に引き受け、担っている「強大な権限」を持つ組織ということである。

 少し補足すると、まず幹部人事。この幹部というのは本省の部長や審議官以上の、指定職と言われる官職のことで、上は事務次官クラスや長官まで。その人事をどうするかをこの内閣人事局が担っているわけである。

 また、政策の企画立案、そして執行には予算とともに人と組織が不可欠であるが、国の行政機関については、組織や組織の定員は法令で定められていて、簡単に部や課といった組織を作ることもできなければ、人を増やすこともできない。新しい組織を作る場合や定員を増やす場合は、根拠となる法令の改正によって手当てすることになるが、その前提として内閣人事局による査定を経なければならず、ここで認められなければ、そもそも新しい組織を作ることも定員を増やすこともできない。

 内閣人事局は「人と組織の主計局」と言ってもいい側面も持っているのである。

 また、内閣人事局はゼロからいきなりできた組織というわけではない。その前身は、人事院の一部、総務省行政管理局の査定(組織や定員の管理)部門、人事・恩給局の旧人事局関係部門であり、幹部人事に関する事務等が新たに設けられてはいるものの、基本的にはこれらが統合されてできたと言っていい。

 別の言い方をすれば、分散していた国家公務員人事制度に関する組織および権限を、一つの組織に集中させ、強化したということである。

「忖度」を生むのは
内閣総理大臣や官房長官との関係?

 これだけ読むと、単に役人が権限を強化しただけで、官邸への「忖度」とはなんら関係ないかのように思われてしまう。

 だが「忖度」、それも過剰な「忖度」を生む原因とされているのは、内閣人事局と内閣、特に内閣総理大臣や官房長官との関係である。

 幹部職員となるためには内閣総理大臣による適格性審査を経ることとされており、その結果、幹部職員として必要な「標準職務遂行能力」を有していると判断されれば、幹部候補者名簿に掲載される。

 この名簿から各府省の幹部が任命されることになる。「適格性審査」は随時行われるので、場合によっては幹部候補者名簿から外されるということも起こりうる。こうした内閣総理大臣の権限は内閣官房長官に委任することができる。各府省の人事権者は各大臣であるが、幹部職員の人事については内閣総理大臣および内閣官房長官と協議した上で行うこととされており、幹部人事は大臣の一存で決められない仕組みになっている。

問題とすべきは
幹部職員の「位置付け」

 このように国家公務員の幹部人事については、微に入り細に入りと言っていいほど、内閣総理大臣や内閣官房長官が関与するようになっている。

 そして、こうした事務を司るのが内閣人事局なのであるが、彼らが内閣総理大臣や内閣官房長官の意を汲み取って、ある意味「忖度」して業務を進めることはあったとしても、内閣人事局という「組織の存在自体」が幹部職員を含む国家公務員における「忖度」を生んでいるというのは、こうした仕組みを正しく押さえた上で考えれば、「議論の飛躍」と考えた方がいいように思う。

 むしろ問題とすべきは、内閣人事局という組織そのものではなく、国家公務員の幹部職員人事における内閣総理大臣等の「権限の在り方」であり、幹部職員の「位置付け」であろう。

 そもそも、組織の名称や在り方はともかく、国家公務員人事制度を担当する部局や行政機関の機構・定員の査定を担当する部局を、一つにまとめようという動きは過去に何度かあった。それが紆余曲折を経てなんとかカタチになったのが内閣人事局である。

 国家公務員の立場からすると、指定職への昇任を考えれば、そのためには幹部候補者名簿に掲載されることが必要となれば、その判断をする内閣総理大臣や官房長官の目を気にするというのはある種当然のことである。

 ただし、国家公務員が「上の目」を気にするというのは今に始まった話ではなく、昔からある話で、「公務員の習性」のようなものであると言っていいだろう(もちろん、そうしたことを嫌う幹部や上司というのも少なくなく、反論しなければ“馬鹿扱い”といった話もあるようだが…)。

 現状での幹部職員人事への内閣総理大臣等の関与は、そうした「公務員の習性」を逆手に取ったものと言えるかもしれないが、標準職務遂行能力なるものをメルクマールとして、「幹部職員として職責を担うのにふさわしいか否か」の判断まで内閣総理大臣の権限に係らしめるのは、「やりすぎである」との批判は免れえないだろう。

 もっとも、内閣人事局の設置を含む国家公務員制度改革は、元々は内閣としての政策の企画立案から執行までを効率的に行うのみならず、その効果を最大限発揮させることを企図して検討が進められてきたものであり、国家公務員の幹部職員人事について、内閣総理大臣がある程度強い権限を持つことについては、否定されるべきものではない。

 一方で、内閣とのある種の一体性を考えるのであれば、幹部職員はこれまでどおりの一般職ではなく、身分保障のない、各府省の人事から切り離された「特別職」とすべきであり、そうなれば職員自らがリスクを取ってその職に就くことになるため、「忖度」による弊害の生じる余地は限りなく小さくなるはずだ。

 実際、例えばフランスの大臣官房の幹部職員はそうだし、日本でも、これまでに退路を絶って政務の総理秘書官や大臣秘書官(いずれも特別職)に自ら転じた例はある。

 幹部職員を特別職とすることを含む国家公務員法の改正案を立案し、国会に提出したのはかつての民主党である。

 しかし、日本の国家公務員の幹部職員の人事制度では幹部職員は一般職であり、これまでの人事に内閣総理大臣等が強く関与するようになっただけのような形であれば、今後の自らの人事、処遇を懸念して、過剰な「忖度」や「忖度」による弊害が生じるのは「自明の理」とも言えるのではないか。

「特定の組織」を悪者に仕立て上げるというのは世の常のようなところもあるが、つまるところ、「内閣人事局悪玉論」は的外れで、元凶ではないということであり、そこだけをあげつらっても国家公務員の「忖度」問題、過剰な「忖度」による弊害は解決しないだろう。

 そもそも、それらを完全になくすことは不可能であろう。

 そうした前提に立って、現実的な視点から「忖度」による弊害が極力起こらないようにするためには、主要な幹部職員の特別職化や、特別職である幹部職員の人事を対象にした内閣総理大臣の権限の在り方の適正化等、国家公務員制度自体の見直しを考えるべきではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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