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区職員とITエンジニアがチームを組み新しい行政サービスを開発

渋谷区の課題をMicrosoft Azureで解決する「シブヤクハック」、怒涛の2日間

2018年04月12日 08時00分更新

文● 阿久津良和 編集 ● 羽野/TECH.ASCII.jp

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Day 2:怒涛の開発タイム、そして成果物披露

 シブヤクハックの2日目は、朝10時からスタートした。会場に集まった5チームと、リモート参加の1チームが、17時までにサービスの完成を目指す。各部屋のホワイトボードには、サービスのアーキテクチャなどがびっしり書き込まれ、参加者たちはもくもくと開発を進めていた。チームに1人配置された渋谷区職員のメンバーも、アプリのデザインをつくったり、サンプルデータや写真素材集めのために会場外へ走ったりと活躍していた。

開発中の様子。メンバーは得意分野に応じてテキストエディターやPowerPointなど、それぞれのツールを活用していた

アプリの構造をメンバーで共有するため、部屋のホワイトボードには実装設計を書き込んできたる

 17時に、7時間の開発タイムが終了。ここから各チーム質疑応答2分を含めて8分間のプレゼンテーションが始まった。

Team Shibuya-VR:スクランブル交差点でARパフォーマンス

 トップバッターはリモートで参加した「Team Shibuya-VR」のRK氏。本人は都内にいたが、コードを書いたチームメンバーは富山県におり、Slack経由でコミュニケーションを取っていたという。

 同チームは、前日のアイデアソンで提示された渋谷区の課題の中から「渋谷のクリエイターなど面白い人たちが表現する場所があまりない」を選択した。この課題を選んだ理由についてRK氏は、「渋谷区は建物が密集しているため空きスペースが少なく、歩行者は立ち止まってくれないため、街頭広告よりも自分のスマートフォンに集中するような状況だ」と説明。このような状況で、大勢の目を集める場所として渋谷のスクランブル交差点に着目した。

 RK氏の説明によれば、1日3000人の歩行者と自動車が行き交うスクランブル交差点では、歩行者の待ち時間が1日480秒。これをパフォーマンス時間のチャンスと捉えた。残念ながら開発の人手不足でパフォーマー側の実装など完成には至らなかったものの、交差点で立ち止まるとスマートフォン上のARを再生するデモンストレーションを披露。完成形はスクランブル交差点の中央にAR映像が映し出される状態になるという。

「Team-Shibuya-VR」のデモンストレーション

Kind Shibuya Navigations:チャットボットで渋谷区のルート案内

 次は「Kind Shibuya Navigations」。渋谷区周辺の再開発工事は2027年まで続く見通しだが、「2020年の東京オリンピック開催を控え、工事の関係で日々変化する移動ルートは大きな課題」と問題提起した。渋谷駅には移動ルートを音声案内する機械が設置されているが、例えば「15番出口」のルートの案内は1番出口から順にすべて聞かなければならず、雑音の多い駅周辺で耳を傾けるのは過度なストレスだ。さらに、その案内構造が「健常者を優先した作りになっている」と指摘。実際に、メンバーは渋谷警察署まで車椅子利用者を想定して歩いてみたが、駅からの道のりはタクシーを使わないとたどり着けない行程だったと語る。

 そこで同チームが提案したのは、二次元コードを用いた道案内システム。渋谷駅周辺を映し出す全体マップで具体的な現在位置を確認し、チャットボットを使った道案内を合わせて用意する。チャットに有名商業施設名を入力すると「3a番出口」と回答を返す仕組みだ。チャットボットが参照する辞書データの保守については、役所が対応することを想定するという。

「Kind Shibuya Navigations」が開発した出口案内システム

きのこポスト:区民の声を多言語翻訳・自動分類

 「きのこポスト」は、イベントの開催や道路の舗装に関する意見、代々木公園の桜開花報告など各種情報を区民が投稿し、その内容を苦情/提案/報告など内容よって分類する「シブヤクポスト」を開発した。

 外国人居住者から区政に対する意見をより多く収集するため、英語や中国語で投稿された内容は日本語に自動翻訳して、区職員が閲覧する。その結果、区民の声を区政に反映可能になるという。メッセージ投稿時は公開・非公開を選択し、公開可能な意見に賛同が集まれば、区職員側も能動的な実施につながるとメンバーは説明する。アプリは日本語・英語・中国語・韓国語の国旗をあしらったアイコンをクリックすることでUIを含めてリアルタイム翻訳を実施。利用者への訴求は2次元コードを各所に貼ることで、アプリの存在を知らしめることを想定している。

「きのこポスト」の「シブヤクポスト」

チームとみざわ(仮):「Custom Vision Service」で区役所の混雑状況を判断

 「チームとみざわ(仮)」が開発した「区役所の混雑改善するやつ(語彙力」は、LINEから現在の位置情報を送信するだけで、区役所の混雑情報を把握するシステムだ。

 LINEを選択した理由として、「年配層にとっては、Webページを開いて閲覧するよりも、家族に操作をきけるLINEを使うほうが容易だから」と語る。仕組みは、区役所内に設置したUWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)アプリで撮影した画像を定期的にAzure Cosmos DBにアップロードし、蓄積した画像をCustom Vision Serviceで学習・分析。混雑状況の判断結果をLINEで返すというもの。当初利用を想定していたFace APIは、顔認識よる個人情報の取得を不快に感じる利用者を想定し、混雑度を判断するCustom Vision Serviceに切り替えたという。

「チームとみざわ(仮)」の「区役所の混雑改善するやつ(語彙力」

シブヤマンジ:電子決済対応の外国人間顧客向け検索アプリ

 次は、外国人観光客向けアプリの開発に挑んだ「0001 1010 1100卍(シブヤマンジ)」の発表。「日本人は各所に設置された電柱に違和感を覚えないが、外国人居住者・旅行者から見れば面白く感じる」というギャップに着目した。さらに、日本に多く訪れる中国人観光客については、中国国内で電子決済が普及している現状を鑑みて、「観光アプリは電子決済への対応が重要だ」と説明した。

 同チームは、中国で普及している銀聯カードへの対応や、ハラルやグルテンフリーなど食の情報を検索できるアプリの開発に取り組んだが完成まであと一歩だった。

「0001 1010 1100卍」の訪日外国旅行者向け検索システム

ガベージコレクション:SNSの画像から「Custom Vision Service」で“ゴミ”と認識

 最後の「ガベージコレクション」は、ゴミのポイ捨て問題へ対応するため、SNSを利用してゴミの画像情報を取得するシステムを開発した。「“渋谷で酔い潰れている人”のような興味をひくハッシュタグを用意すれば、効率的に画像を収集可能になる」。

 このシステムでは、Logic Appsでクロールしたゴミ画像をAzure Blob Storage、GPSなどのテキスト情報はAzure Cosmos DBに蓄積し、ゴミの分量などをCustom Vision Serviceで分析した結果を再びAzure Cosmos DBに格納。後はPower BIで可視化する。実装についてメンバーは、「つなぎ込みが難しく、Azure Cosmos DBからのデータ取得や格納などトランザクション部分に問題が残っている」と開発の苦労を語った。

「ガベージコレクション」のゴミ情報可視化システム

弱者に寄り添うテクノロジーに副区長が感動

 6チームのプレゼンテーションを終えると、各チームの成果物を実際に触り合い、事前に用意したチケットで投票を行う“タッチ&トライ”が始まった。投票チケットは、各チームが2枚、イベント主催の日本マイクロソフトが10枚、イベント後援の渋谷区が10枚持つ。特に、渋谷区代表で10枚の投票チケットを持った渋谷区副区長 澤田伸氏の動向には会場から注目が集まった。

気に入った成果物のチームに対して、各人に配られたチケットを投票する

審査発表は各チームの代表が投票箱に入ったチケットを床に投げ、一番投票数が多かったチームが生き残る仕組みを用いた

 開票の結果、シブヤクハック第1回の優勝を飾ったのは、チャットボットを用いた道案内システムを開発した「Kind Shibuya Navigations」。トロフィーを授与した渋谷区副区長 澤田伸氏は、自身に割り当てられた10枚のチケットを優勝チームにすべて投票したという。「行政は弱者視点を忘れてはいけない組織。その点を技術で突いてきた」(澤田氏)と高く評価した。

 副賞を授与した日本マイクロソフト 相澤克弘氏は「各チームとも素晴らしかったが、特に、Kind Shibuya Navigationsは渋谷区の大きな課題に取り組み、優勝にふさわしい。授乳室やおむつ替え台があるトイレなどのナビゲーションにも対応できれば子育て支援になるので、渋谷駅以外の課題にも適応できる。そのような発展を期待している」と述べた。

渋谷区副区長 澤田伸氏

日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 相澤克弘氏

 優勝メンバーの渋谷区職員は「実際に多く苦情を頂いている課題だったため、早期に解決したかった。車椅子利用者が救えるのであれば、ベビーカー利用者や旅行カバン利用者も救えるはず。アプリが浸透すれば渋谷区はより良くなる」と喜びのコメント。

シブヤクハックの第1回優勝となった「Kind Shibuya Navigations」の皆さん

 同じく優勝メンバーの川合氏は「ハッカソン会場を訪れる前に決めていたことが2つある。1つはアイデアを決めない。もう1つは怒りを解決すること。交通の便において渋谷は弱者に優しくない。今後の展開については未定だが、他の自治体にも展開できるように開発できれば嬉しい」と感想を述べた。また、優勝メンバーの山下氏は「アプリ開発にはMicrosoft Azureのサブスクリプションを提供して頂いた日本マイクロソフトやMicrosoft MVPの貢献が大きい」と感謝を述べた。

* * *

 こうして、2日間のハッカソンは、参加者全員による「シブヤクハック!!」の掛け声で閉会した。今回のイベントの様子はニコニコ生放送で全編実況中継していたが、視聴者からの質問や開発のアドバイス、つっこみ、声援が多く寄せられ、また、放送を見て開発に助っ人で参加する人が現れるなど、会場の内外で大いに盛り上がっていた。

最後は全員で集合写真。かけ声は「シブヤクハック!!」

締めの挨拶をしたマイクロソフトテクノロジーセンター Azureテクニカルアーキテクト 吉田パクえ氏とデプロイ王子

 全6チームのハッカソンの成果物は、以下のようにGitHubで公開されている。

 今回のシブヤクハックの会場となった渋谷ヒカリエの「Azure Antenna 」では、Azureに関する様々なワークショップを日替わりで開催している。Azureの技術習得に興味のある方はイベントスケジュールチェックして、渋谷まで足を運んでみよう。また、2018年5月22日~23日には、Azureの最新技術の情報にいち早く触れることができるイベント「de:code 2018」が開催されるので、こちらにもぜひ参加してほしい。

(提供:日本マイクロソフト)

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