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たった1台の割り込みが渋滞40kmに…「渋滞学」最前線

2018年02月22日 06時00分更新

文● 末吉陽子(ダイヤモンド・オンライン

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運転手を悩ませる渋滞。車がなかなか進まないとイライラは募るばかり。さらに言えば、渋滞が事故を誘発しかねずリスクも高い。できればストレスのないスムーズなドライブをしたいものだが、そもそも渋滞は、なぜ発生するのだろう。ドライバー1人の心掛けで、渋滞を緩和させることはできるのか。「渋滞学」の第一人者・東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授に聞く。 (フリーライター 末吉陽子、編集/清談社)

「渋滞学」第一人者が分析する
渋滞発生の元凶とは?

たった1台の無理な車線変更や、坂道に差し掛かった際の少しの減速などが原因で、大渋滞が引き起こされることが分かっている

 一般的に、渋滞とは「車の移動スピードが遅くなっているイメージ」、つまり、「速さ」で定義しがちだが、これは渋滞の本質を理解するうえで正しいとは言えないようだ。

「渋滞は、いわゆる交通量調査で測るデータで捉えることが適切です。混んでくると、定点を通過する交通量はゼロに向かっていくことになります。つまり、車間が短いと、自動車の走行スピードが遅くなり、交通量が減るわけです。では、ちょうどいい車間距離はどれくらいかというと、ベストなのは40mであることが分かりました」(西成教授、以下同)

つまり、高速道路も一般道路も、40mよりも距離が詰まっている状態が「渋滞」といえるのだという。

では、そもそも自動車の自然渋滞が発生するのはなぜなのか。西成教授は「減速・発進が続いて、その振れ幅が大きくなっていくこと」と分析する。

「データを見ると、渋滞のほとんどは追い越し車線から発生します。ある車が追い越し車線に割り込むと、後方の車にブレーキを踏ませてしまいます。割り込みが複数台続いて、ストップアンドゴーを繰り返すことで、“ブレーキのバトンを渡している状態”になるんです。早く進むために追い越し車線に自動車が集まると、よりブレーキが踏まれやすい環境になり、追い越し車線が渋滞してきて、車間が縮まってしまうのです」

 以前、東名高速で発生した約40kmの渋滞を調べたところ、たった1台の車の車線変更が原因だったことが判明。あまりにも急に割り込んだため、後方の自動車が続々とブレーキを踏んで、長距離渋滞につながったという。

「これは極端な例ですが、どこかで車間距離が40m以上空いていれば、ここまでの渋滞にはならなかったと考えられます」

 前の車が時速5km減速したとすると、後方車が5km減速、さらに後ろで5km減速…といけばまだいいが、5kmの減速で後方の車は強くブレーキを踏むかもしれない。すると結果として、速度が10km、次の車で20kmと、減速の幅が倍に広がってしまうという。

ベストは時速70km
車間距離40m

 また、物理的な原因も無視できない。道路が下り坂から上り坂に変化するサグ(凹部)や、長い上り坂における速度低下も、渋滞の原因の半分以上を占めるといわれている。

「渋滞の起きやすいところは、ずばり上り坂です。坂に差し掛かってもアクセルをそのまま踏んでいたら、速度は遅くなります。すぐ気づけばいいのですが、時速100kmが95kmに減速したところで、ほとんど誰も気づかない。でも、その5kmの差がポイントになります」

「たとえば、渋滞の名所といわれる関越自動車道の花園ICは荒川を渡るところにあるのですが、橋がちょっとだけ盛り上がっているんです。分度器で見れば2度くらいですが、そのちょっとした盛り上がりが渋滞を生みやすくしているのです」

 坂道やカーブなどの立地条件による渋滞回避には、2つ方法があるとのこと。1つ目は、上り坂にさしかかったら減速を抑える、つまり「速度回復」する。2つ目は、やはり車間距離を適切にキープすることだそう。

「減速しなければ減速の連鎖が抑えられるので、基本は『速度回復』をすることが大切です。高速道路に、『速度回復』の文字を見つけたら、減速しないように気をつけましょう。ちなみに、最近は減速したら自動的に速度を回復する機能がついた自動運転車も登場しています。そして、車間距離を適切に取っておくことも大事で、この2つが掛け算で渋滞回避に効いてくる。速度を回復しつつ距離を開けておけば、両方プラスの効果で渋滞を防ぐことができる。“ブレーキのバトン”を断ち切れるんです」

 ちなみに、調査によって分かった車間40mの時の速度は、およそ時速70km。この速さなら普通の感覚であれば、「少し混んでいるけど、まだ渋滞じゃない」風景だ。それゆえに、より早く行こうとして車間距離を詰めてしまうのだ。つまり、感覚と定義がずれてしまっている状態のため、やっかいなのだという。

「時速70kmで車間距離40mだと、まだまだ行けると感じてスピードを上げてしまいがちですが、それが渋滞を作ってしまうんです。人間が『心のモノサシ』を持つことが、渋滞を回避するのに必要なのです」

 車間距離を40m以上とることが、渋滞を回避するうえで有効な打ち手になることは証明されているが、割り込まれたくないから詰めるという悪循環も問題のようだ。

「『詰める方が早く前に進むのではないか』という指摘がありますが、もちろん車両が連結していれば、詰める方が有効です。ただ、自動車は誰がどう運転するのか分かりません。渋滞を防ぐために、前の車がどういう状態でも自分は一定の速さで動けば、それ以降はブレーキが伝わらないですよね。近くにいればいるほど、ブレーキは後ろに伝わりますが、ブレーキを後ろに伝えないようにすれば、自分より後ろで渋滞は生まれません。要するに、車間距離はセーフマージンとして機能するのです」

“エゴな走り”がある限り
渋滞問題は解決しない

 渋滞の原理を運転免許更新時などで学ぶことで、意識も変わるのではないだろうか。また、こうした知識の積み重ねに加え、社会として成熟することも必要だという。

「エゴな走りをすると、自分も含めて損してしまうことに気づかなければいけません。つまり、“大人の社会”にならないと、交通問題は解決しないんです。自分のことばかり考えている人の集団が運転したら、どんな技術を持ってしても渋滞は解消できません。交通網という有限のキャパシティがある以上、譲り合いをはじめ、全体を考える行動をしないかぎりは、渋滞がなくなる日はこないでしょう」

 日本は、譲り合いの精神を重んじ、「三方良し」を理解できるお国柄。知識さえ身に付ければ、渋滞になりにくい運転が浸透するはずだと西成教授は考察する。また、自動運転などのテクノロジーの進化も、渋滞を激減させていくだろうと話す。

「自動運転化社会がくると、渋滞は減ります。車間距離や速度回復などをプログラムすれば効果はバツグンです。実用化まで時間はかかると思いますが、未来は明るいと思います。また、カーナビの精度も格段に向上しています。ほぼリアルタイムで、きめ細かい交通情報が取れるようになってきました」

 これまでの研究の成果やテクノロジーの発展を前提にしながらも、大型連休の渋滞は国民レベルの意識転換なくしては解消できないという。

「交通量が1時間に2000台を超えると、どんなに車間距離を空けても、速度回復をしても渋滞になります。つまり自動車を分散させて、1時間に2000台通過しないようにすることが大事です」

「しかし、高速道路で1時間に2000台を超える勢いで車が集中するタイミングが、年に3回あります。それは、5月のゴールデンウイーク、8月のお盆、そして12月末から1月頭の年末年始です。つまりは、休暇分散がひとつの究極のソリューションなのです」

 渋滞解消には、個人の知識拡充や意識改革、そして国のかじ取りによる施策も必要になるようだ。いずれにしても、公益を考えるドライバーが増えることが、渋滞解消への近道のひとつであることは間違いなさそうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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