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がん免疫療法に美容整形病院も続々参入、翻弄される患者たち

2018年02月21日 06時00分更新

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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近年、癌医療において、オプジーボやキムリアなど免疫薬が飛躍的に進歩している。しかしその一方で、「免疫療法は胡散臭い」という話もよく聞き、患者はどの情報を信じたら良いか分からない状況だ。そこで日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科教授の勝俣範之医師に、免疫療法はどんなもので、何が問題なのかを聞いた。(清談社 岡田光雄)

年間3500万円、“夢の癌治療薬”が
保険適用で大幅値下げに…?

医療機関側が言い値で治療費を決められる自由診療は、まさにドル箱。玉石混淆と言われる免疫療法の中から、患者が“玉”を探し出すのは困難だ

 国立がん研究センターによれば、2013年の1年間に癌と診断された患者数は約86万2000人で、17年には101万4000人に達すると予想している。厚生労働省の発表でも、今や日本人の3割近くが癌で死亡しているという。

 これまでの癌治療は、手術、放射線療法、化学療法が3本柱とされてきたが、近年、話題となっているのが4つ目の治療法である「免疫療法」。従来の抗癌剤治療のように癌細胞を直接攻撃するのではなく、人間の体に元々備わる免疫力(リンパ球)を強めて癌を倒すという治療法だ。

 元・厚生労働省直営機関である国立がん研究センターが、科学的根拠(エビデンス)に基づいて「効果アリ」と認めている免疫療法はごくわずかではあるが、存在する。その一つが14年に“夢の癌治療薬”と鳴り物入りで登場した免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)だ。

 癌細胞は天敵である免疫力にブレーキをかける働きがあるが、オプジーボはそのブレーキを解除し、リンパ球による癌細胞への攻撃を強める効果がある。現在までに皮膚癌、肺癌、腎細胞癌、胃癌(いずれも一部)など6種類の癌で保険適用が認められている(18年1月時点)。

 保険適用(患者は3割負担)が認められた治療ということは、国のお墨付きを得られたも同然。逆に国の信用をまだ得られておらず、全額自己負担を求められる治療は、「先進医療」(技術料以外の診察料、検査料、投薬料、入院料などは保険適用可)や、「自由診療」に分類される。

 オプジーボの発売当初の薬価は、1人当たり年間3500万円と高額だったが、その後は徐々に値下がりしている。現在は保険適用された治療が対象となる「高額療養費制度」を申請すれば、年間43~300万円程度で済む。

 しかし、勝俣医師によれば、オプジーボなどは例外に近く、世に存在する免疫療法・免疫薬の多くはエビデンスが乏しいという。

エビデンスに乏しい治療の
片棒をかついでいるメディアの罪

「現在、免疫療法専門のクリニックなどが行っている『樹状細胞ワクチン療法』や『NK細胞療法』といった治療法は、効果がほとんど認められていません。これらの研究自体は何十年も前からされており、試験管レベルで一部成功した例もありますが、対人間では効果を発揮しませんでした。エビデンスがない以上は、医師は安易に患者さんに治療を施すべきではありませんし、患者さんは標準治療を受けるのがベストといえます」(勝俣医師)

 標準治療(Standard of care)とは、長期にわたる臨床試験の結果、効果の証明された、その時点で最も成績の良い治療法のこと。Standardは日本語に訳すと「標準」の他に「定評/権威のある」と訳すことができる。

 にもかかわらず、免疫療法を受けようとする患者が多いのはなぜなのか。

「“良薬は口に苦し”ということわざがありますが、エビデンスに基づいての治療とはいえ、抗癌剤の副作用は辛いものです。それに、今はもう少ないと思いますが、かつては『素人は黙って私の言うことを聞け!』といった偉そうな医者も多く、根強い医療不信がありました。そんな中、一昔前に『抗癌剤は効かない』などという医療否定本が広く出回り、多くの患者さんが免疫療法に流れていった経緯があります」(勝俣医師)

 同時に勝俣医師は、免疫療法がこれほど野放しになってしまった背景には、メディアの責任も多分にあるという。それを象徴するのが、16年に起ったWELQ騒動だ。DeNAが医療について専門知識を持たないライターを格安で起用し、著作権を無視したコピペでまとめ記事を大量公開していた事件である。

「当時はWELQに限らず、インターネット上には『○○を食べれば免疫アップで癌が治る』といった、無責任に煽る記事ばかりが目に付きました。本来、医学という学問は難しく、一般の人にすれば退屈なものですが、『免疫』という言葉はイメージしやすくページビューも稼げますからね。それだけじゃありません。いまだに大手メディアでも“癌治療最前線”などと銘打った免疫専門クリニックの広告を見かけることがあります。結局のところ、広告主に対してはあまりきつく言えないということでしょう」(勝俣医師)

美容整形クリニックまでもが
“金のなる木”に参入

 勝俣医師によれば、多くの免疫療法は自由診療となるため、医療機関側の言い値で治療費を決定することができる。極端な話、医師がコップ1杯の水を「癌に効く」などと言い、べらぼうな値段をふっかけても罪にはならず、患者は原則全額を自己負担することになるという。

「故・小林麻央さんは、あるクリニックで1回あたり数万円の『水素温熱免疫療法』を受けていたとされていますが、水素で癌が治ったなどというエビデンスはもちろんありません。後にそのクリニックには業務停止命令が下りましたが、罪状は治療内容ではなく、無届けで臍帯血の投与を行ったことでした。つまり、水素で癌が治るといったトンデモ医学で高額な治療費を請求しても、罪に問われないのが今の日本の法律です」(勝俣医師)

 免疫療法は“金のなる木”となっており、近年は癌の専門ではない大手美容整形クリニックまでが参入している。

「美容整形は治療の効果が一目で分かるため訴訟が多いのですが、癌は体の中のことなので効果が分かりづらい。万が一、患者さんが亡くなっても『どうせ進行癌だったし、これだけ頑張ったんだからしょうがない…』と遺族も納得してしまうケースも多いため、訴訟が少ないという現実もあるのでしょう」(勝俣医師)

 言い値でできる自由診療は、医療機関にとってはまさにドル箱だ。しかし、標準治療に従事する医師たちから、相容れない部分の多い免疫療法に対して、もっと懸念の声が聞こえてきてもいいはずだが…。

「免疫療法を手がける最大手クリニックの理事の中には、元厚労相の事務次官などの名前があり、天下り先になっていることが見てとれます。さらに名実共に日本一と称される某大学病院とも提携して寄付講座なども行っています。それらの強力なバックがある限り、ほとんど誰も免疫療法に対して大々的に問題提起できず、タブー視されている状況がある、という見方もあります」(勝俣医師)

 免疫療法は、“玉石混淆”と評される。癌が治るなら全人類にとって福音だが、「玉と石」を見分けることは、素人にはほぼ不可能だ。患者は、保険適用治療=エビデンスがある、と判断する他はなく、エビデンスの有無を誠実に検証するのは、治療を提供する医療界側の責任だろう。医学は宗教ではなく、応用科学なのだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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