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3メガ銀の人事「旧行意識より人物本位」はどれだけ本物か

2018年01月30日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo by Takahisa Suzuki

銀行同士の合併を繰り返して誕生した3メガバンクグループでは旧行意識が融和を妨げてきたが、それと決別したというトップ人事をみずほフィナンシャルグループが発表した。そこで、3メガにおける「旧行意識の今」を探った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

「興銀から興銀へ変わるのはよくないという気持ちが以前はあったが、みずほに旧行意識はもはやなく、人物本位で選んでも大丈夫だと確信している」

 1月15日、みずほフィナンシャルグループ(FG)の佐藤康博社長はトップ交代会見に臨み、そう断言した。

 この日、みずほFGは佐藤社長の後任に、みずほ証券の坂井辰史社長を昇格させる人事を発表。みずほFGは、旧日本興業銀行と旧富士銀行、旧第一勧業銀行の3行が合併して誕生したが、両者が共に旧興銀の出身であることから、この発言が飛び出した。

 みずほFGは「3行対等合併」をうたったことによって、3メガバンクグループの中でも特に出身行への帰属意識である旧行意識が強く、激しい縄張り争いを繰り広げてきた負の歴史がある。

 その結果、2度にわたるシステムトラブルや暴力団融資問題などの不祥事を連発。また、みずほFGの社外取締役が「旧3行の実力を知る人間からすれば、3メガの中で万年3位であることは信じられない」と嘆くように、旧行時代の実力から見劣りする実績しか出せず、長らく三菱UFJFGと三井住友FGの後塵を拝してきた。

 そこで、佐藤社長はみずほFG再建の鍵は旧行意識との決別にあると見定め、社内にそれを徹底。さらに、現役世代に干渉しがちだった有力OBに対しても旧行ごとに現役幹部を送り込み、説得に当たらせた。

 そうした取り組みの成果に自信を持っているからこそ、旧興銀から旧興銀へのトップ交代となっても、再び旧行の派閥争いに火が付くことはないと、佐藤社長は確信しているというわけだ。

 ただ、「みずほの支店長が、今でも人事は旧行ベースで決まっていると話していた」(他のメガバンク幹部)という証言が今も聞こえてくるなど、旧行意識が払拭できたかどうかは“神学論争”に近いものがある。みずほFGとしては、グループが結束して業績という結果を示すことで、旧行意識との決別を証明するほかないだろう。

 一方、「今でも明確に旧行意識が残っているところが二つある」(みずほFG幹部)。それは、みずほFGの系列会社と取引先企業だ。

 系列会社で代表的なのが、下図にあるリース会社と不動産会社だ。旧行の系列会社が整理されずに残っており、みずほFG幹部の“天下り”ポストとなっている。旧興銀出身者は興銀リースとユニゾホールディングス、旧富士出身者は芙蓉総合リースとヒューリック、旧一勧出身者は東京センチュリーと中央不動産といった具合だ。

 また、「長い付き合いがある取引先企業からは、旧行のどこにお世話になってきたからその出身者が担当してほしいという要望もある」(同)。そのため、それを考慮した人材配置は今もあるという。

「決別」と距離置く他2メガ

 他メガにも目を向けると、三井住友FGでも最近、旧行意識の議論を伴う“地殻変動”が起きた。

 三井住友FGでは、傘下銀行である三井住友銀行の頭取に旧住友銀行の出身者が就き、FG社長は旧三井銀行の出身者が務める“たすき掛け”人事が続いていた。

 三井住友FGは他メガに比べてFG内に占める銀行の収益比率が大きく、子会社である銀行の主導による“ねじれ”状態のグループ経営がなされてきた。そのため、主導権を持つ旧住友出身者が銀行頭取のポストを握り、旧行のバランスを取るためにFG社長の座を旧三井出身者に明け渡してきた。

 ところが、この数年でその体制に不都合が生じる。国際的な金融規制の流れや、それを受けた銀行の監督官庁である金融庁の方針が、“ねじれ”を解消し、FG主導による経営体制の構築を求めるようになったのだ。

 当時、旧住友出身の三井住友銀行幹部から「FGを三井に任せていたのは失敗だった。こんなところで付けが回ってくるとは思わなかった」という嘆き節が聞かれた。

 しかし、昨年4月に一大転換に乗り出す。銀行頭取だった旧住友出身の國部毅氏がFG社長となり、その後任に同じく旧住友出身の髙島誠氏を据えるというダブルトップ人事を発動。“たすき掛け”人事に終止符を打つと同時に“ねじれ”も解消し、FG主導のグループ経営にかじを切ったのだ。

 その結果、下図を見れば分かるように、今ではFGにおいても、ポストや権限の質と量共に旧住友出身者が席巻している。

 こうした三井住友FGにおける一連の人事を、旧住友・三井のバランス人事を払拭した旧行意識との決別と取るか、旧住友が覇権を完全掌握した旧行意識の象徴的人事と取るか──。やはり“神学論争”の種になる話だろう。

 一方、他の2メガと異なり、旧行意識に不動の構えを見せるのが、旧三菱銀行、旧東京銀行、旧三和銀行、旧東海銀行の“混成部隊”である三菱UFJFGだ。

「歴史が大事なんだ。分かってくれるな」

 数年前、三菱UFJFGの中で経営体制の評価・見直しを検討するプロジェクトが立ち上がったことがあった。その際に、旧三和出身である三菱UFJFGの沖原隆宗会長(当時)は、プロジェクト関係者にそう説いたという。

 沖原氏は、旧三和・東海が合併して誕生した旧UFJ銀行の最後の頭取として、旧東京三菱銀行との経営統合を決断した人物だ。沖原氏自らが臨んだその統合交渉において、旧行ベースで新銀行のポストを決めた“歴史”があり、「それを下手な合理主義で壊してくれるなというけん制だった」と、プロジェクト関係者は振り返る。

 そして、その“歴史”的背景は今も脈々と受け継がれている。それを示すのが、三菱UFJFG傘下銀行である三菱東京UFJ銀行の出身旧行別役員を示した下表だ。

 FG社長や銀行頭取などの中枢ポストは、統合時にのみ込む側だった旧三菱が掌握。それ以外の旧3行にはそれぞれの得意分野に応じた一定の“自治権”が与えられており、各旧行に一つずつ副頭取ポストが割り振られている。旧東銀であれば国際部門担当、旧東海であれば中部地方駐在の副頭取という具合だ。また、旧三和にはFGの代表取締役会長という“指定席”も用意されている。

 さらに、会長から執行役員、取締役までを合わせた幹部の人数まで、旧行バランスを考慮した比率で長年ほぼ固定されている。

 このように旧行意識が今も丸出しの三菱UFJFGではあるが、旧三菱による支配と、その他旧3行に“自治権”を与える統治スタイルは、旧行による勢力争いを生まずに適材適所を実現し、うまく機能してきた側面も持つのだ。

旧行を「意識しない」難しさ

「シロクマのことだけは絶対に考えてはいけない」という有名な心理学の実験がある。そう言われると、逆にシロクマのことが気になって仕方なくなるというものだ。

 この実験と同様に、3メガにとって旧行意識というものは、忘れようとすることによって逆に旧行を意識してしまわざるを得ないジレンマがある。

 あるメガバンク関係者は、「旧行意識というのが本当になくなるのは、旧行出身の経営陣が総退陣し、現在の銀行名で入行した世代と入れ替わったとき」と、諦めの境地を明かす。

 三井住友銀行とみずほ銀行が誕生して15年強、三菱東京UFJ銀行が誕生して10年強が過ぎたが、3メガが真の意味で旧行意識と決別できる日はまだ遠そうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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