このページの本文へ

回線/クラウド/開発契約すべて不要、センサー8種+Wi-SUN送受信機+開発モバイルアプリを提供

IoT開発を“ブログ並”の簡単さに、Momoが「Palette IoT」発表

2017年12月21日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 IoTベンチャーのMomo(モモ)は12月20日、センサーとWi-SUN(特定省電力無線)送信機/受信機、IoTアプリケーション開発用のモバイルアプリをセットで提供する、IoTフロントエンドプラットフォーム「Palette IoT」を発表した。IoTのビジネス活用を妨げる“スキル”や“コスト”のハードルを大きく引き下げ、幅広い業種でのIoT導入を支援する。2018年2月の発売予定で、すでに東京海上日動火災保険など複数企業との実証実験も決定している。

「Palette IoT」のモバイルアプリ画面。スマホやタブレット上で、複数のボックス(センサーからのインプット/データ処理/アウトプット)をドラッグ&ドロップでつなぐだけ

発表会に出席した、Momo 代表取締役の大津真人氏

回線契約、クラウド、外部開発委託が“すべて不要”のIoT開発基盤

 兵庫県神戸市を本社とするMomoは、ソフトウェアベンダーでMDM(モバイルデバイス管理)ツールの開発経験を持つ大津真人氏を代表とするスタートアップ。今年3月には「子どものスマホ利用を見守る」製品として、長時間使用や深夜使用を制限したり、歩きスマホを防止したりできるスマホケース型管理製品「OTOMOS(オトモス)」を発表している(クラウドファンディングに成功し、現在発売準備中)。

 今回発表されたPalette IoTは、このOTOMOSで培った技術を生かした汎用IoT開発プラットフォームとして新たに展開するB2B市場向けのサービス。具体的には、8種類のセンサー(温湿度/加速度/距離/人感/明るさなど、今後さらに拡充予定)と、センサー基板を取り付けられるWi-SUN送信機、Wi-SUN受信機を内蔵するリングホルダー、受信データのインプット/処理/アウトプットのパイプラインを開発できるモバイルアプリを提供する。

Palette IoTの構成。送信機と受信機(リングホルダー)はWi-SUNで通信する。受信機1台で複数台の送信機との接続が可能だ

センサー基板(左上の2つ)を送信機(左下)に取り付けるだけで、リングホルダー(中上)を介してスマホアプリでデータ収集できる。中下の基板はリングホルダー内に格納されている受信機基板

 Wi-SUNにより、1.5キロメートル範囲(理論値)でのデータ送信が可能。さらにWi-SUNはマルチホップ通信に対応しているため、より広範囲な通信も可能になる。

 モバイルアプリでは、あらかじめ用意されたインプット(センサー)とロジック、アウトプット(スマホ通知/メール送信/ユーザー指定URLへのJSON形式アップロード)のボックス間をドラッグ&ドロップでつなぐことにより、簡単にパイプラインを構築できる。このアプリ自身で簡単なグラフ化や可視化もできるので、インターネットやクラウドサービスを使わず、ローカルに閉じた環境でも利用が可能だ。もちろん、より高度なデータ分析やアプリケーション構築が必要であれば、クラウドにデータをアップロードして処理を行うこともできる。

アプリはドラッグ&ドロップで簡単に構築可能。「センサーデータが一定のしきい値を超えたら通知する」といったデータ処理ができる

 送受信機間はWi-SUNで通信するため、3Gなどの回線契約が不要。また、モバイルアプリ上でデータの可視化まで完結させることができるため、クラウドサービスやサーバーの契約や設定も不要。加えて、ハードウェア設計やアプリコーディングの必要がないため、外部との開発契約も不要。ユーザーが「買ってすぐ使える」シンプルなキットを提供することで、IoTのPoC(実証実験)や構築、改修のハードルを大幅に引き下げるのが狙い。

 Palette IoTは来年2月からの発売予定で、価格はオープン。価格の詳細は明らかにされていないが、MomoではIoT開発を外部委託する場合の「数十分の一程度」(発表より)になるケースもあるとしている。

 販売は法人顧客が対象で、当初は同社サイトを窓口に販売する。今後、農業や工業、運輸、医療介護などの各領域でそれぞれ2~3社のSIベンダーとパートナーを組み、領域特化型のソリューションパッケージを共同開発するとともに、代理販売できるようにしていく計画だという。

「ブログのようにすぐ使えるIoTを」保険/運輸、介護などの実証実験も

 発表会に出席したMomo 代表取締役の大津真人氏は、Palette IoTが目指すポジショニングをブログサービスのたとえで説明した。シンプルで誰でも簡単に使え、なおかつ安価であり、“必要十分”な機能を持つものだ。

 「かつてのWebの世界では、HTMLを知らなければ情報発信ができなかった。しかし現在は、アメブロなどのブログサービスやWordPressを使うことで、誰でも情報発信できるようになっている。もちろん高度な機能はないが、ほとんどの人にとっては『それで十分』というのも事実だ。Webで起きたこのような変化を、IoTの世界でも絶対に起こせると考えた。現状のIoTはコーディングに大きく依存し、開発を委託しなければならないが、Palette IoTではそうした要素を排除し、誰でも簡単に必要なIoTを実現できるものを目指す」(大津氏)

 大津氏は、IoTのビジネス活用に対する注目や期待は高まっているにもかかわらず、IDCの国内IoT市場予測データでは、2016~2020年の年平均成長率(CAGR)が「わずか17%」にとどまっていることを指摘した。その背景には、現在市場に出ている「IoTプラットフォーム」のほとんどがバックエンドを担うものであり、そこに欠けているフロントエンド(センサー、通信ゲートウェイなどIoTエッジ部分)を自ら開発するのはコスト、スキルの両面でハードルが高いという大きな問題がある。Momoでは、Palette IoTの提供でこのハードルを引き下げることにより、潜在的なIoT活用ビジネスの実現を支援し、市場の活性化を狙う。

 今回の発表では、すでに5領域7件で、Palette IoTを活用した合同実証実験が決定していることも明らかにされた。

 そのひとつが、2018年1月から東京海上日動や運送会社などと合同で行う「ながら運転撲滅」の実証実験だ。これは、商用車(トラックなど)にBLEビーコンを取り付け、ドライバーが運転席にいる間は業務用スマホが使えないようスマホケースから制御することで「ながら運転」を完全に防止し、交通事故の発生を防ごうというものだ。ここには前出の、OTOMOSの技術が生かされる。すでにこのソリューションは、運送会社や大手飲料メーカーから4000セットの受注を受けているという。

「ながら運転撲滅」ソリューション。運転席での業務スマホ使用を完全に防止する

 大津氏は、「ながら運転防止」に加えて、センサーを活用した積荷状態(振動や温度)の監視、接触事故防止といった機能への顧客ニーズもあり、ここでPalette IoTが活用できると説明した。荷台やバンパーなど車外に設置したセンサーともWi-SUNで通信でき、3GやLTEの通信圏外であってもアプリがスタンドアロンで動作する、Palette IoTならではの優位点があるという。

 このほかにも、ビルメンテナンス/警備会社の三木美研舎との「通信圏外(地下など)でも連絡手段を確保する実証実験」や、医療介護ソリューションを開発するKURASERUとの「介護業務における負担軽減の実証実験」なども行うことが発表されている。介護業務では、介護対象者に小さなセンサーを身につけてもらい、転倒や徘徊の発見、おむつ替えの管理などに役立てるという。「さらに、こうしたデータはアプリに集約されているので、これまで手書き書類で行っていた介護者の引き継ぎ業務も軽減できる」(大津氏)。

 大津氏によると、実証実験を行う企業のPalette IoTに対する評価として「いちばんは、やはり安いということ」。初期導入費用が安いというだけでなく、利用開始後の細かな修正や設定のチューニングをユーザー企業自ら行えるため、そこでも委託開発する場合とのコスト差が付くという。「まずPCで○○にログインして……といった複雑な操作がなく、スマホのアプリだけで完結しているので理解しやすい。『これなら使えるね』と評価いただいている」(大津氏)。

■関連サイト

カテゴリートップへ

ピックアップ