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ソニックガーデン倉貫氏とアスキー大谷が現場主導のIT導入を語る

働き方を現場から変えていく業務ハッカーとチームリーダー

2017年12月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders 写真●金春利幸

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見える化、ボトルネック発見、試作の繰り返しを続ける

 さて、ソニックガーデンが定義する「業務ハック」は、できることからさくっと実現できる「メソッド」、業務改善からIT活用まで一気通貫の「プロセス」、業務を快適に、効率を上げるための「ノウハウ」の3つから構成されている。これを実現するにも「現状の業務の見える化」「ボトルネックの発見と改善案出し」「改善案の試行とふりかえり」という3つのステップがある。このステップを繰り返していくことがなにより重要。「業務改善を1回やって成功という会社はまずない。地味なことを繰り返し実践していくことで、スピードが上がっていく」と倉貫氏は語る。

ソニックガーデンの考える「業務ハック」

 倉貫氏が具体例として挙げたのは、とある大阪の商社。この会社は倉庫で在庫管理を行なっているが、成長に伴い倉庫の移転を計画していた。しかし、移転先が遠いため、これまで在庫管理を担当してきたリーダーの通勤時間が増大するという問題があったという。「現場リーダーに辞められるのは会社として損失だが、倉庫自体は大きくしなければならない。ここに会社としてのジレンマがあった」と倉貫氏は指摘する。

 そこで在庫管理の仕事を洗い出してみると、実は8~9割はクラウドで済むことがわかった。結果として、移転先の倉庫の業務は近所のパートにお願いし、リーダーは在宅で在庫管理の作業を行なえるようになった。「今流行だからリモートワークをやろうというのではなく、会社の成長にあわせて業務を改善していった結果、働き方改革につながった」(倉貫氏)。

 業務改善のポイントは、とにかく小さく始めて繰り返すこと、クラウドを活用し、むやみに作らないこと。そして、現地現物を大事にすることだという。「コンサルの人が考えると、たいそうなAs、Is、 To beができるんだけど、現場の人が楽しくならなければ、実効性を伴わない」と倉貫氏は指摘する。

 そして、こういう業務ハックをやるのが、まさに現場のチームリーダーや、業務だけでなくクラウドに詳しい社内SEになるという。変化の激しい今の時代、もはや経営と業務、ITは不可分になっている。これらをいろいろな角度で見つめられる業務ハッカーは、まさに専門のプロフェッショナルとして認知されるべきというのが、倉貫氏の意見。「クラウドを使うとか、Excelでマクロ作るといった業務ハックって、おそらくみなさんの会社でも行なわれている。今までは片手間だったこの業務ハックを、今後はどんどん本業にしていきましょう」と訴える。

今までの業務ハッカーは残業しながらExcelでマクロを作っていた

 セッションのラスト10分、アスキーの大谷は倉貫氏にさまざまな質問を投げかける。最初の「業務ハッカーはユーザー企業と(ソニックガーデンのような)外部のどっちにいるべきか?」という質問に対して、倉貫氏は「本来はユーザー企業。社内に1人業務ハッカーがいるってすごくいい状態。ビジネスはどんどん変わっていくので、やはり内製でどんどん変わって行けたらそれが一番いい」と回答する。とはいえ、業務に精通しつつ、ITの知識をつねに取り入れ続けるのは難しいので、外部とうまく連携するのが現実的な姿になりそうだ。

最後の10分で大谷が倉貫さんに質問を投げかける

 実際、業務ハッカーもチームリーダーも、世の中にはほとんど認知度のない言葉。しかし、大谷がTeam Leadersのイベントでコンセプトを説明すると、「それって自分のことかも」と自覚するコメントも聞かれたという。一方の倉貫氏は、「仕事や働き方をよくしたいと考えている人はやはり一定数いて、そういう人は業務ハッカーの資質がある。でも、今までそういう人たちは残業しながらExcelマクロを作っていたんです」と語る。実際、倉貫氏が以前所属していた大企業でも、「秘伝のたれのようなExcelマクロ」が長年使われていた。「こういうのを放っておかないで、きちんと改善していけば、業務ハックにつながると思うんです」(倉貫氏)。

 また、似たような概念でいわゆる「業務コンサル」という職業があるが、業務ハッカーは単に意見を述べるだけでなく、手まで動かす。とはいえ、今やプログラムは専門スキルというわけではないので、kintoneなどである程度のアプリを作れば課題は解消する。kintoneのプロジェクトでよく行なわれるユーザーとの「対面開発」は、まさに業務ハックの作業そのものと言えるだろう。

 大谷は現場主導ITの隆盛でよく挙がる「脱情シス」や、社内での開発体制を強化する「内製化」「シチズンプログラマー」などの考え方と、業務ハッカーとの関連について倉貫氏に質問する。「情シスは全社で問題が起こらないにするのがミッション。でも、現場は第一営業部と第2営業部で問題もやり方も違う。だから、それぞれに業務ハッカーがいるのが望ましい」と倉貫氏は語る。

 最近、幅広い業界でテクノロジーの深化が進んでおり、金融系のFintechをはじめとし、HealthTech、AdTech、LegalTechなどが花盛りだ。これに対して、業務ハックは業種・業態に依存しない汎用業務の効率化に効いてくる。倉貫氏は、「会社の数だけ業務があり、ありとあらゆる業務が、ありとあらゆるやり方でハックできると思っている」とのことで、小さな改善を掛け合わせていくことで、指数関数的に大きな効果が得られるという。その上で、業務ごとの改善ノウハウは掛け合わせが重要になるため、「業務ハック」に関する勉強会を定期的に実施していくという。

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