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その地域で変わらない暮らしを送るために、kintoneで住民のつながりと自治を取り戻す取り組み

住民を“チーム”に!「ポストコンパクトシティ」に挑む益田市

2017年12月11日 08時00分更新

文● 重森大 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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kintoneで家庭菜園の野菜を保育所の給食に、別の地区では獣害対策も

 具体的にはどのような取り組みを続けているのか、益田市内2地区におけるkintone活用の実態について、岡崎氏が紹介した。

 たとえば真砂地区では、地域の人々が家庭菜園で作った野菜を保育所の給食に使っている。学校給食の場合は給食センターなどで一括調理するため、規格の揃った食材を納品してもらう必要があるが、保育所ならば調理する量も多くなく、家庭菜園で作られた野菜でも活用できる。虫食いなどがあるものもまざるが、これは無農薬で育った印。見た目の規格は揃っていないけれど、安全性は高いと檜谷氏は言う。

 この野菜のやりとりに、今ではkintoneが使われている。どんな野菜がいつ欲しいのか、保育所の職員が入力する。この情報を見て、地域の人は家庭菜園から野菜を収穫し、期日に合わせて保育所に届ける。kintone導入以前はFAXを使った紙ベースのやりとりで、時間差による情報の行き違いが生じたこともあった。kintoneを使い始めてからはリアルタイムに情報共有できるので、行き違いはなくなり、発注伝票の作成なども楽になったという。

 「保育所なので、近所にお散歩に行く時間があるんです。そのときに、給食に使う野菜を作っているおばあちゃんの家の前を通ったりもします。そこで挨拶したり、野菜が実っている姿を見たりすることで、子どもたちも野菜を身近に感じるようです。あのおばあちゃんが作ってくれた野菜、と顔が見えるようになることで、食べ残しが減るという効果もありました」

益田市内2地区での具体的な取り組みが紹介された

 獣害対策にkintoneを使う地区もある。二条地区では、地区住民全員を会員とする「二条里作りの会」を設立し、住民全員がkintoneを使える環境も整えた。そこでやりとりされるのは、害獣の目撃情報だ。いつ、どこで、どのような動物を見かけたのか、住民が次々に入力する。当然、行政機関だけが集めるよりも多くの情報が早く集まることになり、猟友会などと連携して効率的に害獣駆除に当たることができる。

 「それ以前は、猪が水稲を食い荒らすからと言って、猪狩りを強化したりしていました。しかし、猪を何頭狩っても効果は出ませんでした。人間の生活圏を荒らす特定の個体がいて、その個体を駆除しなければ意味がないとわかったのです。そこで目撃情報、被害情報を集めることで個体を特定し、猟師の知識から次の動きを予測して、駆除します」(檜谷氏)

 こうした対策を取ることで、獣害に効率的に対応できるようになり、一方で人間に害をなさない猪の命を奪うこともなくなったと檜谷氏は語った。

「理屈だけでコンパクトシティだと言っても、うまくいかない」

 岡崎氏、檜谷氏によるこうした説明を受け、同セッションでは野水氏が質問する形でさらに深掘りしていった。

野水 最初に紹介された真砂地区の取り組みは、おばあちゃんに生きがいを与えて、安全な給食を子供に提供できて、しかも食べ残しもなくなる。いろんな課題を一気に解決する仕組みですね。

檜谷 ひとつの問題だけに閉じないで、波及効果を考えています。これを解決すれば、こうなるし、これも解決できるよねってつながっていくんですよね。

野水 クラウドを使って食材をオンデマンドで提供してもらうというのは、仕組みとしてはUberにも似ていますね。それに、おばあちゃんの生きがいを生むのは働き方改革でもある。おばあちゃんの生き方も変わってきているのでしょうか。

檜谷 生きがいを持つと、元気に生きている時間が長くなるという効果はあると思います。高齢者を支える「地域包括ケア」などを議論している地域も多いですが、それは対策そのものが後手に回っています。介護認定されてからどう対応するかではなく、介護が必要な状態にならない、元気に暮らしていくためにどうすればいいのかということを考える必要があります。

トークセッションではさらに益田市の取り組みが深掘りされた

野水 獣害対策に取り組む二条地区では、kintone導入前には3年間で740頭もの猪を捕獲していたと聞きました。それでも効果は薄かったと。ところで、二条地区の住民って何人くらいいらっしゃるんでしょうか。

岡崎 500人くらいですね。

野水 ということは、明らかに猪の方が多いですね。人間と獣の棲み分けの重要性が感じられます。

岡崎 人の住んでいる所に獣がいるのではなく、獣の中に人が住んでいる訳ですから、生活圏をきちんと分けることが大切ですね。害獣を無駄に駆除することなく、最小限の駆除で棲み分けを維持できるようになったのは、公民館を中心としながら地域の方々が細かく対策をしてきた成果だと思います。

野水 テーマとして「ポストコンパクトシティ」と挙げさせていただきましたが、コンパクトシティ構想自体についてはどうお考えですか?

檜谷 農地、山林、人との関係、さらにはお墓があったりと、そこで生活してきた歴史があるので簡単には引っ越せないという人が多い。理屈だけでコンパクトシティだと言っても、うまくいかないと思います。描いている構想の中で、どのような人がどういう豊かな暮らしを送れるのか、それをきちんと考えないと、誰のための幸せを実現しようとしているのか見誤る恐れがあるのではないでしょうか。

岡崎 益田市内には20の地区がありますが、無理に中心部に集めることなく、その地区ごとに住み続けることをベースに考えています。そのための仕組み作りも、その地区ごとに決めていきます。

訂正とお詫び:掲載当初、益田市内の地区数に誤りがありました。正しくは上記のとおりです。お詫びのうえ訂正いたします。(2017年12月11日)

地域のことはそれぞれの地域で決める、そのためのコミュニティ再構築にkintoneを活用していく

檜谷 そのためにはkintoneはいいツールなんですよね。しかも、基本的に住民からの提案でアプリを作って使っています。住民から見たら、自分にとって必要なアプリだけがそこにあるんです。お仕着せのITではなく、自分ごとなんですよね。それが自然と住民自治につながっていっていると感じます。

岡崎  そうですね。「自分たちで選択して決めていく」ということが大切なんですよね。世間のことを、自分ごとにしていく。暮らしを変えないために、変わり続けていくということが大切。地域も組織も、中に人が育つ仕組みが必要で、人が育つためにはつながりが大事です。昔は当たり前にあったつながりが、いまは希薄になってしまいました。益田市にとっては、それを取り戻すのがkintoneなんだと思います。

野水 2地区での取り組みを紹介していただいた訳ですが、益田市ではkintoneをさらに活用していきたいという考えでしょうか?

檜谷 普通の人が誰でも要望を書き込めるパブリックコメントのようなことを、クラウドでやってみたいですね。人同士のつながりを取り戻す取り組みは集落の単位から益田市全体へ、さらには島根県へと広がっていくと思います。やがては、県外の多くの自治体とも連携しながら活動を広めていきたいですね。

野水 つながりを取り戻すために全員が参加できる場を作る、そのために今はICTが必要なんだなと感じられる事例でした。ご紹介くださりありがとうございました。

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