このページの本文へ

FXのレバレッジ規制強化、不透明な導入理由に業者・投資家猛反発

2017年12月01日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

金融庁が検討している「FX(外国為替証拠金取引)レバレッジ規制」の強化に注目が集まっている。現在の規制の上限は25倍だが、金融庁がこれを10倍まで引き下げようとの検討を進めているからだ。こうした規制強化には反発の声が大きい。(ダイヤモンド・オンライン編集部 松野友美)

金融庁による締め付けで
危険な海外業者に流れる個人投資家

 個人投資家の岸田雄介さん(仮名)は、日本のベンチャー企業のマーケティング責任者を務めている。しかし、夜の顔は、FXで巨額の利益を挙げた投資歴10年以上のやり手投資家だ。一時は50億円もの利益を挙げたこともある。「『秒速で1億稼ぐ』とドヤ顔していた若手経営者がいましたが、あの感覚が分かりました」とさらりと言ってのける。

 岸田さんの専門は「海外FX」だ。外国為替の変動を利用して差額を儲けるFXを、日本の業者ではなく海外業者を通じて取引している。

 FXでは、あらかじめ業者に「証拠金」を支払えば、その数倍の金額を取引することができる。これをレバレッジ効果といい、レバレッジをかければ少ない元手で多額の収益を得ることができるため、小遣稼ぎとして主婦やサラリーマンに大人気だ。ただし、為替が急変し、入金済みの証拠金を上回る損が出た場合には、追加の証拠金を業者に支払わなくてはならない。

 日本では、金融庁に登録した業者との相対取引「店頭取引」と、金融庁直轄の東京金融取引所(金融取)で行う「取引所取引」の2種類があるが、投資家の中には岸田さんのように海外業者を使う人もいる。なぜなら、国内2種のレバレッジは最大でも25倍だが、海外には888倍や1000倍の業者もあるからだ。

 当然、甘い話には裏がある。海外業者は日本の金融庁の管轄外であり、安全性が担保されていない。利益を出しても取引口座から資金を引き出せなかったり、業者が投資家に「不正取引」などの理由をつけて口座を凍結したりすることもある。業者が突然つぶれてしまい、入金した証拠金が取り返せなくなるといった被害も出ている。

 実際、岸田さんも、モンゴルの業者に3000万円入金していた口座を凍結されたり、スイスの金融危機に巻き込まれたオーストラリアの業者がつぶれて5000万円が取り戻せなくなったりするなど、痛手を負っている。岸田さんのように投資経験が長く、投資資金も多額な人はそれでも持ちこたえられるが、泣き寝入りする個人投資家も後を絶たない。

 投資はあくまで個人の責任の範疇。とはいえ、レバレッジが大きいとギャンブル性も高くなる。そこで日本の業者には、金融庁が「最大25倍まで」(証拠金が取引額の4%以上)という規制を課している。

金融庁は規制第三弾を検討中
反論する投資家と店頭業者

 実はこれは、規制強化としては第二弾で、11年8月1日から課せられたもの。それまでレバレッジは最大50倍まで(証拠金が取引額の2%以上)で、締め付けは徐々に厳しくなっている。そして現在、第三弾として「最大10倍」が議論されている。しかも規制対象は、店頭取引に限定される予定だ。

 ここにきてFX業者に加え、多くの個人投資家が金融庁に異を唱えている。その論点は、(1)10倍ではレバレッジが低すぎて投資家にメリットがない、(2)店頭取引と取引所取引に格差を設けるのは不公平だ、という二つだ。

(1)は、現在の25倍でも投資対象とする通貨によっては利益が出づらいということが背景にある。例えば取引参加者が多く、たいして変動しない米ドル・円の組み合わせで短期取引をしようとすると、25倍でも収益性はさほど高まらない。一方、新興国の通貨であれば取引参加者が少ないので変動が大きくなりやすく、損失が出れば大きくなりがちだ。だから、「一律」に10倍にすれば安全性が高まるとは言い難いのだ。

 そもそも「10倍」という数字の算出方法も疑問が残る。FXに詳しい今井雅人衆議院議員によると、「1985年以降の変動率が最大になった時期を上限に、各通貨ペアをシミュレーションし、それを足して通貨ペア数で単純平均した方法を使っている。25倍を決めた時に投資家が混乱しないよう意図的に使ったのと同じやり方だ」という。それよりも、通貨ペアごとの取引高の加重平均にした方が実態に合うはずだ。

(2)については、今回の規制案が、「一体、何のリスク軽減を狙うものなのか」という根本的な問題に直結する。

 今回、金融庁がリスク保護の対象として目を付けたのは「投資家」ではなく、「業者」である。店頭取引業者が、イギリスの「EU離脱(ブレクジット)」やかつての「リーマンショック」、そして「スイスショック」といった、金融市場を揺るがすような局面に耐えられるよう規制を強化しようする流れだ。

 ただ、明確なきっかけがあるわけではない。金融庁職員は「日本のFX市場はレバ規制を25倍にしてからも3000兆円から5000兆円へと成長した。そうした規模の中で、業者が未収金によってつぶれるような事態になれば、マクロ経済にも影響が出てしまう。そうしたことがないよう、業者の自己資本を充実させるとともに、未然のリスク管理が必要だと考えた」と話す。

 金融庁によれば、確かに業者から規制に関する質問や反対意見は届いているものの、消費者保護に熱心な弁護士などを中心に「賛成意見も寄せられている」と反論する。

天下り先確保のためか
憶測も流れる

 新たな規制強化を「なるべく早く成立させたい」というのが金融庁の本音だが、業者に対して継続的なストレステストを行い、その結果で対応を検討するという“余地”は残している。

 それにしても、なぜ今回の規制の対象に金融取は含まれないのか。金融庁監督下にある金融取は、メガバンクや大手証券会社、有力地銀などが大株主となっており、「有力な金融機関が後ろ盾となっているため、金融取の方が低リスク」というのがその根拠。しかし、「だからといって店頭だけを規制強化するのはおかしい」と今井議員は疑問を投げかける。

 規制に差をつけることに対して、個人投資家の間では、「金融庁の天下りポスト確保のために優遇されているのではないか」といった憶測も流れている。あるネット証券幹部も「ちゃんと説明をしてもらわないと、そういう風に見られても仕方がない」と言う。

 確かに、金融取の現在の役員構成を見ると、取締役9名の大半はメガバンクや証券会社出身者だが、太田省三社長は元大蔵省印刷局長だ。3名いる監査役の中にはやはり旧大蔵省出身の墳崎敏之氏の名前もある。

 では、規制が成立すると、投資家にはどのような影響が生じるのか。

 店頭取引業者の大手、GMOクリック証券の山本樹・常務取締役経営企画部長は「取引高が1割くらい減るのではないか」と心配する。実際、GMOでは先の50倍規制が決まった直後の3ヵ月間で3割の減少を経験した。

 このとき、取引量は減ったものの顧客数は減らなかったことから、その差分は他の投資に回っていることが推測され、今回も他の高レバレッジ金融商品に顧客が流れるのではないかと見ている。具体的にはビットコインなどの仮想通貨や、FXの一種で相場を2択するバイナリーオプション、株価指数や株式に投資するCFD取引などだ。

 また、“優遇”されているかのように見える取引所取引だが、投資家の間での評判は店頭取引の方がはるかに高い。

 店頭・取引所ともに取引所を開いているGMOでは、取引所の方が手数料が高いため、店頭に人気が集まっている。1日当たりの取引額を比較すると、店頭が100兆円程度であるのに対し、取引所はその100分の1くらいしかない。他の業者も同じようなもので、「取引所はうまくいっていない」(FX専門家)という声が漏れる。

 不人気の理由は、手数料の高さとFXブームに乗り遅れたためだろう。金融取は1989年に金融先物取引をする場として設立され、主な利用者は機関投資家だった。しかしバブルが崩壊すると、機関投資家の動きが鈍るとともに経営状況は悪化。その頃、店頭取引が盛んになっていたFXに後乗りする形で05年に取引所取引、通称「くりっく365」を開始したという流れがある。

「自動ロスカット」を導入し
業界はすでに自主規制

 金融庁は今後、法案作成に当たる構えだが、業界も黙ってはいられない。店頭大手のマネーパートナーズの奥山泰全代表取締役社長は、金融庁に問い合わせを行い、その回答を9月28日付けの自社プレスリリースで公開するなど、規制強化に疑問を投げかける。

 奥山社長は、「2009年のレバ規制に合わせて、すべてのFX業者が『自動ロスカット』を自主規制として導入している。これは、証拠金維持率が各業者の定める水準を下回った時点で顧客の損失を限定させるべく反対決済を行う仕組みだ。金商法の25倍規制と、自動ロスカットの“ミックスアプローチ”により、顧客の損失が大きくなり過ぎないようにしている。これは世界に誇れるセーフティネットだ」と話す。

 日本の業者は、投資家の証拠金不足による未収金は減少傾向にあり、店頭業者は自己資本を積み増す努力を重ねている。「自主規制や対策がワークしているのに、規制を強化させる必必要はない。本質ではないところに理由があるのではないかと邪推されても仕方がないのではないか」(奥山氏)。

 ただ、奥山氏は「個人投資家の声を根拠にするのではなく、あくまでも健全な取引にとって本当に必要な規制なのかどうかを見極めて、建設的に金融庁と対話していきたい」と冷静に話す。

 このように見ていくと、今回の規制は思惑通りにいかない取引所が、好調な店頭取引にあてこすりをしているかのようにも受け取れる。国策で「貯蓄から投資へ」と促している以上、民間の業者や個人投資家など、参加者全てが理解できる根拠を示し、透明性の高い議論をする必要があるのではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ