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Salesforceからはじめ、Google Cloud、AWSまでフル活用

大阪の町工場をクラウド化してる大創の衛藤さんに根掘り葉掘り聞いた

2017年11月27日 08時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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まずはSNS慣れからスタートしたChatterの導入と活用

大谷:2010年と言えば、日本でもFacebookが流行りだしたくらいの時期ですよね。衛藤さんは、米国生活でFacebookを使っていたということですが、社内の人はそもそもSNSを知らなかったのでは?

衛藤:そうですね。だからまずはSNSに慣れることから始めました。たとえば、営業マンにiPadを導入することになり、そういった情報はChatterに載せました。Chatterを普段から見ているメンバーはすぐに使いたいとコメントできるのですが、見てないと当然そういう情報に触れることができません。そういったインセンティブを付けつつ、仕事にまったく関係ないスレッドの運用もOKにしました。ひたすらOne Pieceについて語るスレとか、美味しいラーメンのグループとか、取っつきやすいネタで使えるようにしていました。

大東市にある大創の本社。道路を挟んで逆側に工場がある

大谷:で、衛藤さんがSalesforceに関わるのは、どんなきっかけがあったんですか?

衛藤:Salesforceの関西ルーキー会というコミュニティがあって、2012年2代目の会長が社長だったんです。そのときに社長一人だと大変ということで、「衛藤さん、IT行けるやろ」という話で同行したのがきっかけでした。当時は自分がSalesforce使う側だったし、正直システムのこともわからなかったのですが、そのときに今の弊社のシステムを担当してくれる鈴木商店の山田真也さんや関西のSalesforceユーザーの方々との知り合うことができました。

とはいえ、自分自身はずっと海外部に所属しながら、Salesforceを使うという二足のわらじだったんです。でも、年々Salesforceをヘビーに使うようになってきたこともあり、ウエイトもSalesforceに比重がかかるようになってきたので、4年前に専任になったんです。

大谷:そんなこんなで、現在は衛藤さんが情シスの担当としてクラウド導入や運用を切り盛りしているわけですね。

衛藤:はい。ただ、私は情シスと同じような役割をしていますが、いわゆる情シス部門はないんですよ。最初は私もITあまり詳しくなかったですが、勉強会に行ったり、パートナーさんの支援もいただいて、いろいろ知識も付いてきました。今でこそ「Trailhead」といういい感じの自習ツールがあるのですが、当時はそんなものもなかったので、Salesforceの管理画面を開きながら、試行錯誤しながら独習してきました。

確かにSalesforceは自分で作れるのが売りなので、業務や社内事情について理解している自分がやったほうが速いことも多いのは確かです。でも、技術的に細かい部分や先を見据えたシステム構築はやっぱりパートナーさんがいた方が心強い。知識の量は圧倒的にうちを担当してくれている鈴木商店さんの方が多いですし、プログラムも書けますし。その点、うちがやりたいことを中心にベストなものを提案してくれるので、ありがたいです。

カスタマイズはなるべく避け、アプリの活用で機能拡張

大谷:社内のSalesforce導入はその後順調に行ったんでしょうか?

衛藤:そうですね。SNSに慣れてきた営業もChatterで日報を提出するようになりました。続いて、AppExchangeのアプリを用いて売り上げ情報を共有したり、勤怠や名刺管理、設計、ミス&クレーム関連の報告、見積もり作成などの機能を次々と重ねていきました。営業や管理職にはおしなべてiPhoneを用意し、生産現場ではグループの部課長が報告を上げるようにしました。

大谷:いわゆるデスク仕事だけではなく、工場の現場でも使い始めたんですね。

衛藤:国産のSFAとSalesforceが違うのは、Salesforceって完全にモバイル前提なんです。展示会とかで純国産のSFAの話を聞くと、会社に行ってから、営業活動して、帰社して日報付けるみたいなプロセスを前提としているので、いまだにデスクトップ版しかないところも多いです。ここは決定的な差で、国産製品が追いつけないところだと思います。

大谷:Salesforceの場合、機能拡張はAppExchangeのアプリを活用したり、Force.com上で自社開発する方法になりますが、御社の場合はアプリが多いんでしょうか?

衛藤:うちは情シスもないし、支援いただいているのも鈴木商店の山田さんだけなので、なるべくアプリを活用しています。Salesforceは年に3回くらい大きなバージョンアップを行なうので、あまりガチガチに作り込んでしまうと、そのたびに自分たちで開発しなければなりません。でも、サードパーティのアプリは当然、バージョンアップにも対応してくれるので、こちらとしても楽です。

たとえば、勤怠管理の場合、今まではいわゆる普通のタイムカードを使っていたので、締め切りが過ぎた後にあちこちの拠点からFAXで勤怠表が送られてきて、束になった勤怠表を手で計算するみたいなことをやっていました(笑)。でも、今は勤怠のボタンをポチッと押すだけです。製造現場にはICカードを付与しているので、現場のタブレットにかざせば自動的に入退社が入ります。

ボタンだけで出退勤が管理できる大創のSalesforce

大谷:ほかにも例があれば教えてください。

衛藤:海外の展示会にあわせて名刺を取り込むためのアプリも導入しました。アプリでカシャカシャ撮るだけで、どんどん名刺を取り込めます。活動状況がアクティブじゃないところをGoogle Mapでプロットしてくれるアプリもありますね。営業が行って、日報を出したら活動が自動的に記録されるので、未活動になっている会社がどんどん減っていきます。

あと、今はChatterの中にはボットが3人くらいいて、役割にあわせて「商談が成立してよかったね」とか、「残業時間が長いよ」とか言ってくれます。鈴木商店の山田真也さんに組んでもらったのですが、まだボットという概念がなかった時期からこういうことやっているので、ユーザー会とか行くと「おおっ!」とか驚かれます。

受注情報を知らせてくれる便利なボットも住んでいる

大谷:今ではさまざまなクラウドサービスがありますが、御社の場合はSalesforceで業務に合わせた機能拡張がうまくはまった感じですね。

衛藤:Salesforceってありとあらゆるカスタマイズができるので、やりたいことに応えてくれます。社長があのときSalesforceを選んでくれてよかったなあと。逆に設計をきちんとしておかないと方向性がぶれますね。今は計画と日々の売り上げとの対比、工場の生産実績も見られるようになっているので、営業だけではなく、全社で活用している状態ですね。

G Suiteで会議がなくなり、AWSで物理サーバーがなくなった

大谷:ここまではSalesforceの話メインだったのですが、GoogleのG Suiteも導入しているんですよね。入れたきっかけを教えてください。

衛藤:もともとさくらインターネットのサービスでクライアント/サーバー型のメールを使っていたのですが、PC壊れたらデータは飛ぶし、セットアップも必要になるしと思って、2014年くらいにGmailを入れました。だから最初のきっかけはメールなんです。

大谷:そんな中、G Suiteはどんな感じで根付いたのでしょうか?

衛藤:ブレイクはHangoutのチャットですかね。最初はChatterも気軽な感じだったんですけど、業務に浸透するとともに内容がガチになってきたので、カジュアルな話がやりにくい雰囲気になっていたんです。でも、Hanguoutのチャットなら気軽にやりとりできるということで、どこかの拠点で使い始めたのをきっかけに一気に拡がった感じです。

G Suiteのスプレッドシートやドキュメントも議事録等で活用されていますね。お客様が使っていることもあるのでなかなかMicrosoft Officeからは乗り換えられないのですが、社内的にはG Suiteがないともう厳しいというレベルまで普及してきました。

大谷:AWSも導入されているということですが、こちらは?

衛藤:AWSは物理サーバーを社内に置きたくないという事情ですね。先ほどのパソコンと同じで、会社の中に小さいNASとか置いても、ちょっと倒れたらデータはダメになってしまうし、メンテナンスも面倒なので、鈴木商店さんにお願いして、AWSに移行してもらいました。共有ストレージとしてAWSを使っていますし、今ではWebサイトもAWSを使っています。PCも買い取りではなく、レンタルにしたので、データはクラウドの共有ストレージに置いてます。

大谷:こう聞くと、レガシーをなくしていった結果のクラウド化ですね。Salesforceで紙やメーリングリストがなくなり、G Suiteで会議がなくなり、AWSで物理サーバーがなくなった。

衛藤:そうです。いろんなモノがそぎ落とされて、業務の効率化や利便性が実現しています。その一方で、いつでも、どこでも仕事できてしまう環境ができてしまったので、Salesforceは利用に際して時間制限をかけています。おしりを設けないと、際限なく仕事してしまうので。

大谷:なるほど。でも、その方がいいんですよね。リモートワークでの一番の課題は労務管理になるので。

衛藤:もちろん最初は苦情もあったんですよ。でも、こうしないと作業が前倒しにならない。今ではログイン時間制限を設けることで、かえって段取りがよくなったという話も出るようになりました。

大谷:時短で働いている主婦のパフォーマンスがすごく高いという話と根は同じですね。クラウドの運用を工夫することで、働き方の改善にもつながっているんですね。

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