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3M日本法人が研磨業界で展開、外資系とは思えない「ベタな浸透作戦」

2017年11月02日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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2016年9月、名古屋市周辺で走り始めた「研磨体験カー」(移動式の研磨実演スペース)。17年1月には、新潟県の燕商工会議所が中心となって活動する、研磨業務に従事する地元企業で組織された「磨き屋シンジケート」とも連携するようになった 写真提供:3Mジャパン

 その名も「研援隊」(けんえんたい)。ものづくりの現場で、大小の構造物をガリガリと削ったり、表面をピカピカに磨きあげたりする研磨作業に携わる職人たちを応援するべく、全国に散った研磨の専門家集団である。

 世界的な化学メーカー、米3Mの現地法人である3Mジャパンは、国内の化学メーカーの技術者から「世界で最もイノベーティブな企業の1つ」として、一目も二目も置かれる存在だが、研磨というニッチな世界での、外資系企業とは思えないほどのベタな浸透作戦が話題になっている。

 研磨の現場では、高速で回転するグラインダー(研削盤)という機械を使用する。3Mジャパンは、その先端に取り付ける「切断砥石」の圧倒的な性能の高さ、そして先行する国内の砥石メーカーとは異なる営業支援活動により、静かに日本のものづくりの現場を席巻している――。

 その秘密は、2010年に米3Mが自社開発した切断砥石の性能にある。独自技術で開発したセラミック製の精密成型砥石は、ナノレベル(10億分の1の単位)の微細砥粒の集合体で、グラインダーに当てて作業する際にも、表面の砥粒が三角形の鋭い形状を維持したままで長く使える。

 片や、一般的に使われているセラミック製の砥石は、少しずつ切っ先が摩耗して、全体的に丸くなりながら消耗する。構造物を削ったり磨いたりする砥粒が丸くなれば、目詰まりも起こりやすい。作業の効率は落ちるし、断面が丸くなればそれまで以上に体力を要する重労働になる。

 特許の縛りから、国内最大の高級陶磁器・砥石メーカーのノリタケカンパニーリミテドなどは、米3Mと同種の製品を作れない。12年から本格的に導入した3Mジャパンは、新型砥石を武器にして過去3年間でビジネスの規模を4倍に増やした。研援隊は、今やライバルメーカーが視察に来るほど無視できない存在なのである。

5年前に1人で始まった

 もっとも、米3Mが最新技術の粋を集めた性能で群を抜く新型砥石を、そのまま日本に持ってきてもすぐに売れるわけではない。

切断砥石を拡大した写真。左側が3M製品で、鋭い切っ先を維持しながら消耗する(断面は鋭角な状態のままで細かく割れながら摩耗する)ため、高い研磨性が持続する。右側は一般的な製品で、切っ先が取れて、全体的に丸くなりながら消耗する 写真提供:3Mジャパン

 日本のものづくりの現場では、3Mは社名の知られた存在である。ただし、それは製造現場で使われる工業用の強力なタワシなどに代表される「何かを磨くために使用する製品を供給するメーカー」であって、砥石のように「何かを削るために使用する製品を供給するメーカー」とは見られていなかった。なぜなら、12年になるまで、米国にあった砥石を日本では販売していなかったからだ。

 言うなれば、磨くものから削るものへ、隣にある畑に新規参入したことになるが、3Mジャパンは新参者故に、販売のやり方を工夫した。

 まず、ものづくりの現場との接点はあったものの、販売量が稼げる大口顧客を優先する仕組みだったために、中小・零細企業の現場の職人たちとなかなか深い関係を築けなかった。

 そこで、通常のルート営業マンとは別の研磨の専門家集団(研援隊)が訪問し、実演しながら性能の高さを知ってもらう作戦を取った。隊員には、地元で育ったスタッフを採用した。

 次に、価格競争に陥りがちな研磨業界に参入しながら、先行メーカーの3~5倍という価格設定を崩さず、「従来品とは異なった長持ちする新製品です」と訴求した。研削スピード、製品寿命、仕事量などを考えれば、むしろお買い得だと売り込んだ。

 当然、長年の経験で培った自分の流儀にこだわる現場の職人は、最初は懐疑的な目を向ける。だが、地元出身で使う言葉も同じ研援隊のスタッフから説明を受けることで、実際に試してもらえるところまで進む。そして、いったん使ってもらえれば、生産性が飛躍的に上がることから、体験者の多くは支持者になってくれる。

 さらには、現場と直接つながった3Mジャパンが不定期で発行するPR媒体で、顔写真入りの「体験者の声」が紹介されるようになった。うるさ型の職人たちを味方にしてしまったのだから、説得力が段違いである。

 こうした地道な取り組みが奏功し、3Mジャパンは、研磨業界という地味な世界で小さなムーブメントを起こすことに成功した。日本への導入時より試行錯誤を続けてきた研磨材製品事業部の山根宏太販売部長は、「今では実演デモンストレーション後の受注率が50%を超える」と明かす。新製品の扱いが増えれば、販売店も本腰を入れて取り組むようになる。

 5年前に、たった1人で始められた研援隊は、社内の新規事業ファンド(パイオニア・ファンド)の出資を得ながら、1人ずつ承認を得るプロセスを経て増員を図ってきた。活動の実効性が認められた今日では、全国各地に11人の専門家を配置する。その内訳は、仙台に1人、東京に3人、名古屋に1人、大阪に2人、広島に1人、福岡に2人という陣容だ。

 17年に入ってからは、研援隊の活動が米国本社にも注目されるようになり、日本のチームは世界70ヵ国の現地法人に対して取り組みの詳細をプレゼンテーションするという機会がもらえるようにまでなった。

 1902年創業の米3Mは、世界で最も硬い鉱物のダイヤモンドに次いで硬いコランダム(研磨で使うための鉱石)を採掘する当初のビジネスが頓挫し、業態を転換した。3Mという社名は、Minnesota Mining and Manufacturing Companyの略だ。

 その後、世界で最初にヒットした製品は、21年に発売された「耐水サンドペーパー」(水と一緒に使用しても表面の砥石が取れない紙やすり)だった。それだけに、設立57年目を迎えた3Mジャパンの新規ビジネスは、最後発ながら、勢いが止まらない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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