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ブロックチェーンが引き起こす、送電網の抜本的変革

2017年10月27日 11時10分更新

文● Mike Orcutt

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再利用可能エネルギーで発電した電力の管理・追跡にブロックチェーンを利用しようとする動きがある。現在の証書ベースの取り引きに比べて誤りやコストを低減できるだけでなく、電力の売買の仕組み自体を抜本的に変革できるかもしれない。

送電網において、太陽光や風力、あるいは他の再生可能な資源から作られた電力と、化石燃料から作られた電力を区別することはできない。そこで、全世界の行政機関は、クリーンエネルギーの生産量を追跡・管理するためにグリーン電力証書に基づくシステムを構築してきた。

しかし、これらの証書の管理の仕方は「最悪」であり、再生可能エネルギーへの投資の妨げになっているとジェシー・モリスは指摘する。モリスは独立非営利法人ロッキーマウンテン研究所(Rocky Mountain Institute)に務めるエネルギーの専門家だ。ビットコインや他の電子通貨の中核技術であるブロックチェーンをベースにした新たなシステムが、この問題を解決できるだろうとモリスは言う。

モリスによれば、グリーン電力証書の追跡管理は、ブロックチェーンのあまたある適用分野の一つだ。普段の業務に支障をきたすことなく、電力分野のデータ管理の課題を解決できるだろうという。実際、長期的に見てブロックチェーンが送電網の構造そのものを変革するだろうと考える専門家は多い。

ブロックチェーンは暗号化されて共有される元帳であり、コンピューターのネットワークにより管理されている。ネットワーク上の複数のコンピューターを使って、取り引きを認証する。ビットコインの場合であれば、取引は個人ユーザー間の暗号通貨の移動を指す。各ユーザーが元帳にアクセス可能であり、管理権限を持つ単一の組織が存在するわけではない (「Why Bitcoin Could Be Much More Than a Currency」を参照)。ブロックチェーンの支持者たちは、データを共有するピアツーピア・ネットワークを使う業種で、この技術は特に有望だと主張する。たとえば、送電網を経由してつながる電力事業者と消費者である。

現在、再生可能エネルギーを利用する発電所が相当量の電力を生産しているが、電力メーターが出力するデータは、まず帳票に記録される。この帳票が登録担当の事業者へ送られ、新しいシステムに登録されて証書が作成される。さらに、仲介業者が販売者と購入者を引き合わせてこれらの証書の取り引きをするわけだが、購入した証書を認証するのはまた別の団体である。

複雑で理解不能なこうしたシステムは、取引コストがかかるだけでなく、偶然の過ちから不正な詐欺行為にいたるまで会計上の間違いが発生する余地が大きい。透明性も欠如しているため、取引を敬遠したり、拒否したりしている人も多い。

こうした取引をする代わりに、電力メーターがデータをブロックチェーンに直接書き込んだらどうだろうか。問題の大部分は一発で消えてなくなるだろうとモリスは言う。

そして、これは始まりに過ぎない。ブロックチェーンの技術が、現代のエネルギー網を抜本的に変革すると考えるエネルギーの専門家は多い。

電力分野においては大抵の場合、基盤となっているのはいまだに、発電して送電や配電のラインに送る中央の大規模な発電所である。だが近年、屋根に設置されたソーラーパネルや電気自動車のバッテリーといった、より小規模の「分散型」発電装置や蓄電システムが送電網に接続されるようになってきた。

パワー・レジャー(Power Ledger)の共同創業者であり、会長を務めるジェマ・グリーン博士は、分散型発電装置や蓄電システムの所有者は、効率が上げ、価値を最大化しようと苦心していると言う。パワー・レジャーは、オーストラリアに拠点を構えるスタートアップ企業であり、電力会社と顧客との間のピアツーピアのエネルギー取引を可能にするブロックチェーンに基づくプラットフォームを開発している。たとえば一般に、電力会社が顧客からの支払いを受け取るのには60日から80日かかる。ブロックチェーンをベースとしたシステムを使えば、電力会社は即時に支払いを受け取れるようになるので、少額の資金で発電事業を開始し、運用できるという。

さらにこうしたシステムでは近隣の者同士がエネルギーを直接取引できるので、電力を送電網会社にいったん売却するのに比べて非常に効率が良い。たとえば、パワー・レジャーは実際に、ある共同住宅をソーラーパネルと蓄電池からなる共有システムを基本とした小規模送電網にしてみせた。ほかにも、LO3エナジー(LO3 Energy)は、屋根に太陽光パネルを設置した住民をつなぐ小規模の送電網をブルックリンに構築した

だが、従来のシステムはこれらの小規模網内の取引を「どのように処理すればよいのかまだ見い出せていません」とグリーン博士は話す。「ネットワークの個々の部分を使用した場合の料金はいくらにすればよいのでしょうか」。グリーン博士によれば、パワー・レジャーのプラットフォーム、一般的にいえばブロックチェーンの技術が、「こうしたより微細な取り引きを可能にし、市場により高度な水準をもたらす」という。

エネルギー分野におけるブロックチェーンの可能性を広げることを目指して、モリスが率いるロッキーマウンテン研究所のチームは、グリッド・シンギュラリティ(Grid Singularity)とともに、エナジー・ウェブ・ファンデーション(Energy Web Foundation)と呼ぶ非営利組織を設立した。グリッド・シンギュラリティはオーストリアを拠点とするブロックチェーンのスタートアップ企業である。エナジー・ウェブ・ファンデーションはこの10月、モリスが言うところの「エネルギー分野のために構築した」独自のブロックチェーンの運用を開始した。分散アプリケーション構築基盤のオープンソースソフトウェア「イーサリアム(Ethereum)」上で運用するこのネットワークは、有望な実証実験となるだろう。試用期間における取引の認証は、協賛企業として参加してもらう大手エネルギー企業10社に協力を仰ぐ。

同チームは手始めに、グリーン電力証書の追跡管理などのアプリケーションを開発する計画だ。だが、モリスが想定している長期的な構想では、ソフトウェアを配備した住宅や建物がリアルタイムに価格情報をやり取りして、送電網との間の電力売買を自動化することを目指している。


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