「avenue jam」特別対談 第7回
対談・Planetway平尾憲映CEO×エストニア政府元CIOターヴィ・コトカ 第2回
ATMや乗車ICカードは信用できるのになぜ政府のIDは信用できないのか
2017年10月24日 09時00分更新
最先端の電子政府国家として注目を集めるエストニア。その礎を築いた人物の一人、エストニア政府元CIO(最高情報責任者)であるターヴィ・コトカ氏とプラネットウェイ代表の平尾憲映とのSkype会議。第1回では、ターヴィ氏の関わったエストニアのe-Residencyの立ち上げから、今後日本が取るべき舵の方向性について話あった。第2回となる今回は、エストニアと同様のしくみを日本に普及させようとする際、考えうる両国間の違い、障壁となる問題などについて意見交換が行われた。
Speaker:
プラネットウェイ 代表取締役CEO
平尾憲映
プラネットウェイ アドバイザリーボードメンバー
ターヴィ・コトカ
エストニアのプライバシーポリシー
平尾 今回のデータ交換型のソリューションだけでなく、日本にIDタイプのソリューションも紹介する計画です。われわれが8月にPlanet IDというIDソリューションを紹介したときは、皆が興味をもって接してくれました。e-Residencyのコンセプトに似ていますが、多くの業界や団体が「試してみたい」と言っていました。これは地方自治体だけでなく、コミュニティレベルで実現することが重要で、その意味では大学で学生IDを置き換え、外部組織との接続を検討する議論も始まっています。ここで大学名は言えないのですが、約5000名の学生が在籍し、幼稚園から小学校、中学、高校、大学まですべてのデータがあるところです。日本人の多くは個人情報を共有することに抵抗がありますが、データの共有自体は恐れるべきではなく、付加価値を生み出すものと認識してもらえるよう、日本国内にそうした考えを根付かせたいと思っています。エストニア生まれのシステムでそれを実現したいと考えていますが、実際にエストニア国内での人々のプライバシーポリシーに対する考えはどうなのでしょう?
コトカ 人々が安全とメリットを感じることが重要です。本来、誰も行列を作って時間を無駄にしたいとは考えていません。昔は銀行に長い行列を作っていましたが、今日ではATMがその役割のほとんどを担っています。日本では列車のチケットが典型ですが、どこよりも便利なICカードの乗降システムが構築されています。一方で、このプライバシーやセキュリティについて心配している人は少ないでしょう。似たようなプライバシー問題において、銀行や病院を恐れる人はいないですし、オンラインで買い物をしたり、Googleで検索したりといったことも平気で行います。ではなぜ、政府のやることに関しては恐れるのか?これは政府と国民との間での議論です。安全性を守りつつ、人々の背中を少し後押ししてやるといいのでしょう。
平尾 地方自治体への接触にあたっては、より良いPoC(Proof of Concept)を提案し、実際のメリットを示す必要があると思います。また、このeIDソリューションをさらに拡大させることも考えています。やはり名前は出せないのですが、1000万以上の契約ユーザを持つ企業が、既存のIDをこのようなeIDで置き換えることを考えています。彼らによれば、すべてのIDは異なるIDと接続されるべきだという主張です。なぜなら、日本ではカードや紙ベースのIDがいくつもあり、私自身も十分に安全ではない複数のIDの存在は非常に面倒だと考えています。日本でもある時点で転換点が訪れ、大きく変わるときがやってくるでしょう。でも、そのためにはあなたのような人の助けが必要だと思います。もちろん(プラネットウェイ取締役の)ラウル・アリキヴィやエストニアからの助けも、日本人の意識を変革するために必要です。少し信じがたい話ですが、日本では日本人自身の話に耳を傾けず、外部の海外の方々の話をより信用するケースもあるのです。しかし、実際に導入するとなれば日本人でなければならないというケースもあります。プラネットウェイは日本とエストニアからのメンバーを合わせた"ハイブリッドカンパニー"ですから、この点が非常に強みであると思っています。
日本とエストニア、国民性の違い
平尾 ここで日本とエストニアの違いについて、文化的、国民性の面から違いについてどう考えていますか? もし日本について詳しくないというのなら、エストニアの人々についてもう少し教えてほしいです。
コトカ 日本と取引を行って5年が経過しましたが、もちろん日本のすべてを理解しているわけではありません。ただ言えるのは、日本は多くのケースでお金を持ちすぎています。もしあまりお金がなかったとしたら、なんとか変化しようとして、その結果を最大化しようと努力するでしょう。おそらくは、この差ではないでしょうか。デジタル化はわれわれの生活をより便利なものとしますし、エストニアでは人々がそれを理解している面もあります。また日本について、民間組織ではデジタル化が実現できていても、政府が必ずしもそうであるとは限りません。
平尾 確かにそのとおりですね。多くの民間組織ではデジタル化が進展していますが、実際には1つの業界で完結していることが多いです。周囲はすべて競合であり、業界をまたいでの連携もありません。われわれにとって重要なのは、デジタル社会を政府向けに実現するだけでなく、業界をまたいだ形で民間企業同士の相互なデジタル化の実現にもあると思います。日本は巨大でお金もあり、相手は競合で互いの連携には興味ない……いままではこれでよかったかもしれませんが、今後はそうもいっていられないでしょう。もちろん日本だけでなく、国外でも共通の問題かもしれません。特にAI利用の実現において、データが鍵となる状況ではなおさらです。
つづく
(提供:プラネットウェイ)
この連載の記事
-
第35回
sponsored
「情報革命で人々を幸せに」するソフトバンクとは別のやり方 -
第34回
sponsored
「日本発を海外に広げるビジョンを見たい」元ソフトバンク社員が語るPlanetwayを選んだ理由 -
第33回
sponsored
ベンチャーに「飛信隊」が集まった -
第32回
sponsored
グーグルAI対抗「拡張人間」開発へ -
第31回
sponsored
江川社長、SELTECHやめるってよ プラネットウェイ電撃移籍のワケ -
第30回
sponsored
ミネルバ大生も絶賛するプラネットウェイの理念と職場環境 -
第29回
sponsored
ミネルバ大生がプラネットウェイで学んだこと -
第28回
sponsored
プラネットウェイのビジョンに共感したミネルバ大学の学生たち -
第27回
sponsored
「ユーザー」はもっと尊重されなければならない:プラネットクロスとAI HUBの共通思想 -
第26回
sponsored
モノの「個人情報」が世界を変える:プラネットIDとAI HUBが作るもの -
第25回
sponsored
アクセンチュアがプラネットウェイと組む理由 - この連載の一覧へ