10年前に比べてタイピング技能は落ちている
会見には、全日本タイピスト連合に所属するタイピストの渡辺歩さんが参加。「早くタイピングするにはデバイスが重要である。重量があって、安定感があるキーボードが優れている。良いキーボードは一生モノであり、10数年間、掃除をしながら同じキーボードを使っている人もいる」と語る。渡辺さんは1分間に700文字をタイプする実力を持つ。1秒間に10文字以上という早さだ。ひとつのキーを押しても1秒間に10回押すのは至難の技。「新製品になって、どれだけ進化をしているのかが楽しみ」と期待する。
会見では、渡辺さんとともに、イータイピングの嶌貫実社長も出席した。
イータイピングは、登録会員数130万人を誇る国内最大規模のタイピング練習サイト「e-typing」を運営する企業。インターネットで受検できるネット検定「タイピング技能検定イータイピング・マスター」や、全国100ヵ所を超えるパソコン教室との提携のほか、企業や学校向けタイピング教室サービスを提供している。
イータイピングの嶌貫実社長は「10年前に比べて、タイピング技能は明らかに落ちている。これはiPhoneが登場したタイミングに重なる」とし、スマホの広がりが、日本人のタイピングスキルを落としていると指摘する。
イータイピングでは「腕試しレベルチェック」を無料で公開。これにより、個人タイピングスキルがわかるようになっている。一般的なオフィスワークでは困ることがないレベルをSおよびAとしているが、2017年の実績ではこれらのレベルの人の構成比は35%と、全体の約3分の1強に留まる。しかも2008年の実績に比べると、Sクラスの人が16%減、Aクラスでは13%減といずれも減少している。
Sクラスでは1分間に260~276文字、Aクラスでは、209~259文字の文字入力ができるレベルだ。全国平均は216.8文字だという。
嶌貫社長は「1分間に70文字しか入力できない人と、400字入力できる人では、生産性に大きな差がある。タイピングスキルが業務時間と業務コストに大きく影響していることに、企業はもっと着目すべきである」と提案する。
イータイピングは腕試しレベルチェックのデータをもとに、タイピングスキルによって、給与にどれぐらいの差が生じるのかといったことも試算している。これによると、1分間に約400文字を入力できる人は、全国平均の216.8文字を入力できる人に比べて、8万5000円も給与に差があるべきだと算出している。
タイピングスキルの向上は働き方改革につながる
時間換算すると、1日あたり6時間PCを使用していた場合には、約200分の時間短縮となり、実に一日に3時間以上の効率化を実現。1ヵ月換算すると約4500分もの時間短縮が可能になり、その差は歴然だ。
オフィスでは、報告書や議事録といった文書の作成時間については、社員のスキルに委ねられ、作成に与えられる時間についてはそれほど厳密に設定されることはない。
「工場の現場ではネジをひとつ締めるのにも時間が決められており、それに向けて従業員がスキルを磨いている。ホワイトカラーにとってはタイピングスキルがそれにあたる。タイピングスキルをあげれば、生産性は一気に高まり、そのためのトレーニングには決して多くの時間を必要としない。社員一人ひとりのタイピングスキルがあがれば、文書作成や資料作成に要した時間が短縮され、勤務時間を短くできる。政府が提唱する働き方改革にもつながる」と語る。
OECD(経済協力開発機構)が、学習シーンにおけるPCの利用頻度を調べたところ、日本は最低ランクとなったほか、日本の学生のパソコンスキルは先進国のなかでは最低レベルだという。
「スマートフォンを中心とした文化が浸透することにより、長文の文書などを作成できない人たちが急増している。数年後にはパソコンを使えない新入社員が現れるだろう。タイピングができるメリットを日本人の多くが知ることが大切である」とする。
そして「仕事が早く終わり、業務の効率化が図れるだけでなく、素早くキー入力ができる姿は格好いい、という文化も作り上げたい」とする。
業務の生産性をあげるという観点から、タイピングの重要性を改めて考えていくことが大切だ。
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