10ものコアを搭載し、20スレッドの同時実行が可能なCore i9-7900Xを搭載したサイコムの「Premium-Line X299FD」。大型ラジエーターに2つの12cmファンを搭載したFractal Designの簡易水冷クーラー「Celsius S24」(FD-WCU-CELSIUS-S24-BK)を搭載し、しっかりと冷却してくれる。この水冷クーラーでオーバークロックが可能なのか、UEFIの簡易設定を使ってチャレンジしてみた。
オーバークロックが難しい多コアCPUでも水冷ならいける?
CPUはコア数が増えるとそのぶん性能が高くなるものの、発熱が大きくなって動作クロックを上げにくくなる。実際、Premium-Line X299FDに搭載している10コアのCore i9-7900Xは、ベースクロックが3.3GHzとなり、下位の8コアモデルとなるCore i7-7820Xの3.6GHzよりも低い。また、4コア最速モデルのCore i7-7700Kが4.2GHzということからもわかる通り、コア数の動作クロックへの影響はかなり大きいといえるだろう。
ただし、クーラーの冷却性能が十分ある場合、ターボブーストによりベースクロックよりも高いクロックで動作する。この場合、Core i9-7900Xは最大4.3GHzとなり、Core i7-7700Kのベースクロックを上回る。ただし、こちらもターボブーストにより最大4.5GHzとなるため、完全に上回るわけではない。
一応、Core i9-7900Xはインテルターボブーストマックステクノロジー3.0(Intel Turbo Boost Max Technology 3.0、以下TBM3.0)により4.5GHzまで上昇するが、これは2コア限定の機能。シングルスレッド処理では効果があるものの、マルチスレッド処理ではほとんど機能しないものだ。では、Core i9-7900Xの性能はこれ以上あげられないかといえば、そうではない。それがオーバークロックだ。
オーバークロックは、CPUを定格のクロックより高いクロックで強制的に動作させ、より高性能化する方法だ。うまくいけば追加投資することなく性能を高められるのだが、話はそう簡単ではない。最初に少し触れたように、コア数の多いCPUは少しでもクロックを高くすると発熱が大きく増えるため、安定動作させるのが難しいのだ。
こればかりは高性能なCPUクーラーを使うしかない。都合がいいことにPremium-Line X299FDが採用している「Celsius S24」は、大きなラジエーターを装備した水冷クーラーで、とくに冷却性能に優れているものの1つ。そこで、このクーラーを使ってオーバークロックに挑戦してみた。
マザーボードはASUSの「PRIME X299-A」。これのUEFI画面には「EZ Tuning Wizard」という、用途やCPUクーラーの種類を選ぶだけで、適切な設定でオーバークロックしてくれる便利な機能がある。今回はこの機能を使ってみよう。
UEFIからの設定は超カンタン! 項目を選ぶだけで設定完了
オーバークロックの設定は、まずUEFIの画面を表示し、画面上中央の「EZ Tuning Wizard」部分をクリック(もしくはF11キーを押す)すれば始まる。設定といっても、「PCの使用用途」「CPUクーラーのタイプ」の2つを選ぶだけというものすごく簡単なものだ。今回は、使用用途に「ゲーム/メディア編集」、クーラーのタイプに「水冷クーラー」を選択してみたところ、CPUパフォーマンスが「34% up」という設定になった。実際の動作クロックなどはわからないものの、たった2項目選択するだけでいいという手軽さはありがたい。
オーバークロックの前後で、性能や温度をチェック
さて、オーバークロック設定によりどのくらい性能が変化したのかをチェックしてみよう。性能のチェックには「CINEBENCH R15」を使用。スコアーから、どのくらい性能がアップしているのかを計算してみた。また、CPU温度は「CPU-Z」のストレステスト機能で約10分間負荷をかけ続け、その後のセンサー値を「HWiNFO」で読み取った。値としてはコアごとの温度も取得できるが、比較が難しそうなので“CPU Package”の値で比較している。また、CPUの状態を「CPU-Z」を使って調べている。
まずはオーバークロックする前の性能と温度、状態を見てみよう。CINEBENCH R15のスコアーは2199cb。CPUの温度は最大68度、平均62度となっていた。
次が、簡易オーバークロック設定で高速化した結果だ。CINEBENCH R15のスコアーは2397cb。CPUの温度は最大103度、平均88度となっていた。
スコアーの上昇率を計算してみると、CINEBENCHで約9%。CPUの状態をCPU-Zでみると、動作クロックが4GHzから4.34GHzにアップしているので、この上昇率が約8.5%。ほぼ、上昇率分性能がアップしているということがわかる。なお、コア別の最大クロックを見てみると、TBM3.0で使われる2つのコアだけは4.65GHzで動作していた。このぶんが上乗せされて、約9%という性能を実現しているのだろう。
ちなみにUEFI設定時に表示されていた「34% up」というのは、恐らくベースクロックからの上昇分を計算したものだろう。これで計算すると、3.3GHz→4.34GHzなので約30%アップとなり、より数値が近くなる。
なお、CPU温度は最大103度という非常に高い値になってしまっていたが、これはあくまで瞬間的な最大値。平均が88度ということからもわかる通り、多くの場合90度前後で安定していた。水枕とCPUの密着度を高めたり、ラジエーターのファンをより高回転させるといった工夫をすれば、更に温度を下げられそうだ。
大幅なオーバークロックは腕の見せ所
さすがに10コアというだけあって、オーバークロックは難しいものの、簡易設定によるオーバークロックでも常時ターボブースト状態に近い性能が出せた。もっとクロックや電圧などの設定に凝れば、大型の水冷クーラーを搭載しているPremium-Line X299FDなら、さらに上の性能を目指せるだろう。どこまで伸ばせるかが腕の見せ所だ。