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個人金融資産の6割を占める高齢者のカネが狙われている!

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老後のカネにトラブル急増

「NISAっていう、なんだか税金がいらなくなるサービスが始まるんだって!」。

 首都圏に住む岡村裕子さん(仮名)は5月、興奮気味に電話してきた実家の母親を「必要ないんじゃない?」とやんわり説き伏せた。そして案内を郵送してきたという証券会社に舌打ちした。

「NISA(ニーサ)」とは2014年1月から導入される少額投資非課税制度のことだ。この制度の専用口座を開設すると、口座内で投資した年間100万円までの上場株式や株式投資信託の配当金や分配金、売却益が非課税になる。金融機関は目下、NISA口座の争奪戦を繰り広げている。

 80歳を過ぎた母親は、これまでにもいろいろな金融商品に手を出してきた。その明細を見ると証券会社の手数料稼ぎで買わされたものが多く、損をさせられており、ようやくほとんどを手放してもらったところだ。

 母親の記憶には損した経験よりも、売り抜けてわずかでも益を得られた成功体験のほうが強く残っている。NISAの口座を開設すれば、再び投資熱に火がついてしまいかねない。

 幾度となく「これ以上増やさなくても十分お金はあるから」と繰り返し説得してきたが、母親は自分のためだけでなく、娘たちに遺産を残してやりたいという思いがあるのだろう。「もうかる」という言葉にすぐ反応してしまう。

 実は、これまで詐欺に何件か引っかかっている。「馬券投資」なるうたい文句で競馬の馬券情報を提供して会員の資産を増やすという業者には、100万円近く振り込んでしまった。馬券投資で資産がつくれるはずもなく、支払った金は藻くずと消えた。

 詐欺業者のあいだで流れる「カモリスト」に母親の名前が載ってしまったようで、海外宝くじをはじめ、金をだまし取る類いの郵便物はひっきりなしに送られてくる。電話勧誘や訪問販売も絶えることがない。

 岡村さんは周囲の高齢者やその家族からも、勧誘攻勢で食い物にされた経験談を耳にしている。こうした状況は自分の母親だけに起こっているわけではなかった。

高齢者を釣るエサになる
「金」「健康」「孤独」

 総務省は4月、65歳以上の人口が初めて3000万人を突破したと発表した(12年10月1日現在の人口推計)。1947~1949年生まれの団塊世代の一部が65歳を迎えたことで、総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は24.1%と過去最高を更新。超高齢社会の日本では、引き続き高齢者の数も、高齢化率も右肩上がりで上昇していくことになる。

 高齢者の世代は他の世代と比較して、総じて資産持ちだ。現役時代にためた資産、退職金、そして年金などで構成される60歳以上世帯の平均貯蓄は2000万円超。全世帯の貯蓄総額の6割以上を60歳以上世帯が占めている。しかも、負債額は他の世帯と比較して少ない。

 1500兆円に及ぶ個人金融資産の6割を占める巨額な高齢者マネーはあらゆる方面から狙われている。

 例えば金融業界は彼らの資産をより投資へ振り向けさせ、手数料収入などで稼ごうとしている。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅をはじめとした介護業界、住宅業界は老後の住まいと介護を提供することで市場を拡大している。

 群がるのは、まっとうなビジネスだけではない。詐欺などのアングラな業界もまた、膨らむ老後マネーに舌なめずりしている。

 高齢者の大金をできるだけ自分たちのほうへ引き寄せようとする動きが活発化する中、金にまつわるトラブルは増える一方だ。国民生活センターの集計によると、高齢者からの消費生活相談件数は年々増加。07年度に15万4000件だった相談件数は、5年間で約5万件も増え、12年度は20万7500件にも上った。高齢者人口の増加も影響しているが、それ以上に相談件数は増加している。

 しかも、トラブルの金額が大きい。消費生活相談1件当たりの平均契約購入金額が65歳以上の場合は210万円。65歳未満の117万円のほぼ2倍の金額だ。

 相談対象となる商品・サービスのトップはファンド型投資商品。2位は健康食品。相談の特徴は、「金」「健康」そして「孤独」にまつわるものが多い。

 悪質商法や詐欺などだましの心理を研究している西田公昭・立正大学心理学部教授は「金、健康、孤独が、高齢者という“サカナ”を釣るための格好のエサとなっている」と指摘する。

 高齢者の多くは資産を持っていても、年金生活なので、現役時代に比べて収入が少なくなる。それが老後資金が足りないという不安感を増幅し、もうけ話の誘惑に駆られる者もいる。健康への不安は、高額な健康食品や健康グッズへと走らせる。

 また、高齢者は一人暮らしや夫婦二人暮らしのケースが多い。「家族との関係が希薄だったりすると、他人でも親切にされるとうれしいし、会話するのが楽しいもの」と全国消費生活相談員協会の増田悦子専務理事。孤独感から、人情に訴える営業マンについ耳を貸してしまう者もいる。

娘が調査してウソが判明
水際で防いだ未公開株詐欺

「何でも私に相談してね」。冒頭の岡村さんは、馬券投資をうたう業者への振り込み書類を目にした日以来、母親にそう繰り返し言うようになった。

 そんなある日、母親から未公開株の購入を考えていると連絡を受けた。不審に思った岡村さんは上場予定があるという該当の会社に電話を入れて確認した。

 すると「何の話ですか。うちは上場予定なんかありません」と言い切られた。母親が持ちかけられたのは、無関係な会社の名をかたった未公開株詐欺だった。ずいぶんと立派なパンフレットが送られてきたので、母親はすっかり信じ込んでしまったのだ。

 巧妙な手口で仕掛けてくるやからにターゲットにされれば、世代にかかわらず毎度1人で切り抜けるのは簡単なことではない。消費生活センターへの相談においても、年齢が上がるごとに本人ではなく、その家族など周囲から相談が寄せられることが多くなっている。岡村さんは、老後の金は家族で守る必要があると確信している。

甘いもうけ話はまず疑う
暮らしの中にも落とし穴
老後のカネは家族で守る!

『週刊ダイヤモンド』7月13日号の特集「狙われる『老後のカネ』」では、もうけ話や暮らしの中にひそむカネの落とし穴を徹底研究しました。

 個人金融資産の6割を握る高齢者世代のあいだで“金のトラブル”が急増しています。巨大な高齢者資産を狙って、さまざまな商売や詐欺のやからが群がっているからです。

 たとえば金融機関は目下、2014年に導入される少額投資非課税制度「NISA」の口座を獲得するための争奪戦を繰り広げています。NISAそのものは、利用者にとっておトクな制度ですが、非課税枠を売り文句にした営業攻勢に乗せられて、勢いで口座を開設すると後々後悔するかもしません。争奪戦の裏側に迫った本特集でその理由を確認してください。

 NISA口座のほかにも、お宝保険、香港口座開設ツアー、海外投資、ランドバンキング、ワンルームマンション・アパート投資、未公開株など、もうけ話や金融商品にひそむ罠を暴きました。年金を担保に高金利で金を貸す「偽装質屋」も要注意です。金に不自由している年金受給者が食い物にされています。

 暮らしのなかにもさまざまな落とし穴があります。老人ホーム入居金、海外移住、沖縄暮らし、リバースモーゲージ、互助会、健康・医療、リフォーム、老後の恋などなど。甘い言葉だけでなく、恐怖感をあおったり、人情につけ込むなど、買わせるための手口もいろいろです。

 老後のカネを守る最大の防御となるのは、高齢者本人と家族の共同戦線。自己防衛の術だけでなく、家族が参加する防衛術をまとめました。その1つである成年後見制度は、後見人担い手別のメリットとデメリット一覧など活用ノウハウが満載。認知症の親を持つ家族だけなく、“おひとりさま”も必見です。

「自分は大丈夫」「うちの親に限って」という油断が、一番危ない。ぜひ本特集を用心のきっかけにして下さい。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 臼井真粧美)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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