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北朝鮮のミサイル連発は、米韓の姿勢変化を巧みに嗅ぎ取った結果だ

2017年06月06日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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5月14日、新型の中長距離ミサイル「火星12」の発射実験に立ち会う金正恩朝鮮労働党委員長(中央) Photo:EPA=時事

5月14日、21日、29日と北朝鮮が連続してミサイルを発射し、国際社会を挑発している。特に4月末には米韓軍事演習が終了し、5月10日には韓国に文在寅政権が発足したところだ。こうした外部環境の変化の中、北朝鮮の行動の背景には何があるのか。(元駐韓国大使 武藤正敏)

 北朝鮮は、韓国で文在寅大統領が就任して3週間ほどの間に、弾道ミサイル3発と迎撃ミサイル1発を発射した。この動きは何を意味するのか。

 5月14日に発射したミサイルは、高度2111キロメートルに達し、787キロメートル離れた公海上の目標地点に届いた。韓国国防省の分析では500キログラムの弾頭を載せ、最大5000キロメートルの飛行が可能だということである。主エンジンを4基にすれば、1万3000キロメートルに射程が伸びる可能性があるという。

 21日に発射したミサイルは、固形燃料を使用し、移動式発射台から打ち上げたものである。金正恩朝鮮労働党委員長は、実験の成功を称え、早期の量産開始を指示した。この2回の実験は北朝鮮のミサイル技術力を向上させるためのものであろう。

 他方、29日に打ち上げられた弾道ミサイルは、前日にイタリアで開かれたG7首脳会議で、北朝鮮を厳しく非難したことに対する反発だと思われる。

 北朝鮮のミサイル発射実験が、頻繁に行われるようになったのはなぜか。一つは、北朝鮮を取り巻く外部環境の変化である。

 4月には、米韓合同の軍事演習が行われ、演習に紛れて北朝鮮を攻撃することが憂慮された。米国は、軍事力行使を含むあらゆる選択肢を検討しているといわれていた。また、中国が米国と共に行動しないのなら単独で行動する用意があると主張した。シリアやアフガニスタンを爆撃し、北朝鮮に米国の力を見せつけた。

 しかし最近、米国の発言は抑制的である。米国は、北朝鮮が核実験を行った場合と大陸間弾道ミサイルの開発を行った場合を挙げ、行動に移る場合の“レッドライン”を示している。逆に言えば、その水準までいかなければ許されると北朝鮮に解釈させる余地を与えることになった。北朝鮮は、その水準以下のミサイル発射で、核ミサイルの発射を決して諦めないとの意地を示している。

北朝鮮とは融和的圧力より対話に傾く韓国・文在寅政権

 さらに韓国に文政権が誕生した。文大統領は北朝鮮に対する融和的姿勢で知られる。選挙運動中、「朝鮮半島の軍事行動は韓国の同意なしになされてはならない」「もはや我々が主導しなければならない」と主張し、米国をけん制した。当選後には「ワシントン、北京、東京に行く。さらに条件が整えば、平壌にも行く」と明言した。さすがにミサイル発射後には「断固たる対応」を命じたが、他方、「対話の道に出てくることをもう一度促す」と述べ、声明からは「制裁」「懲罰」の文字は消えた。

 文政権の人事を見れば、圧力よりも対話に傾いていることは明らかである。情報機関トップの国家情報院長の徐薫氏は、これまでの南北首脳会談の開催を主導してきた人物であり、国家安保室の2人の次長にも南北軍事会談の専門家と対話を通じて北朝鮮への関与を重視する人物を任命している。

 文政権は、北朝鮮の挑発が続く中、政治と人道支援を分離し、人道支援目的の民間団体に北朝鮮との接触の許可を与えている。こうした北朝鮮に対する米国や韓国の姿勢の変化は、中国の北朝鮮に対する制裁の強化や厳格な適用を求める圧力を緩和している。中国の圧力が弱まれば、北朝鮮の行動の自由度が増すことになる。

 北朝鮮は、核・ミサイルの開発、実戦配備を急いでいる。これまでの制裁で開発資金は枯渇しており、新たな資金獲得手段も細っている。従って、一刻も早く核・ミサイルを実戦配備し、それをてこに有利な条件で韓国や米国と交渉したいはずである。

 また、米国にも対話の用意はある。ただ、それは北朝鮮の非核化を前提としたものであり、その前提を変えさせるためには、北朝鮮は核・ミサイルを実戦配備し、自らを核保有国として認めさせる以外にない。

 さらに、核・ミサイルを保有して韓国に圧力をかければ、より多額の経済協力を引き出すことができ、それによってさらに軍事力を増強できると考えているのであろう。そして北朝鮮の究極の目的は韓国を従わせ、赤化統一を図ることかもしれない。

 こうした状況となったとき、日本は、北朝鮮の脅威と直接対峙することになる。しかも、日本は北朝鮮とは国交を正常化していないので、膨大な要求を突き付けられる可能性がある。例えば日本の韓国統治によって失われた財産権に対する補償であり、慰安婦や徴用工など、今韓国で問題となっていることについて韓国と共同戦線を張ろうとするかもしれない。

 今、日本にとって最善の道は、米国がつくりつつあった北朝鮮包囲網を強固にし、北朝鮮に対する圧力を強化することである。日本外交の真価が試されている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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