大容量インターネット時代を支える物理インフラ運用の最前線
災害対策基地の役割も果たす海底ケーブル敷設船「きずな」に潜入してきた
2017年05月16日 07時00分更新
5月11日、「Japan IT Week」が開催されている東京ビッグサイトのすぐ横にある埠頭に係留されていたのが、NTTワールドエンジニアリングマリン(NTT WEマリン)の海底ケーブル敷設船「きずな」号である。まったく役得としか言いようがないが、内部までしっかり見学してきたので、レポートしていきたい。
島国日本の通信を支える海底ケーブルと敷設船
インターネットトラフィックのほとんどが経由する海底ケーブル。島国である日本の場合、この海底ケーブルなしではグローバルとの通信はまったく行なえないわけで、その重要性はいまさら説明するまでもない。
歴史をひもとくと、日本では1872年(!)に関門海峡の本州・九州間に海底ケーブルが敷設されたのが初めてで、1896年には台湾と日本間で1600kmにもおよぶ初の国際ケーブルが敷設されているという。逓信省から電電公社に事業主体が移って以降も国内の海底ケーブル敷設は進み、1965年には同軸ケーブルが初めて導入。1985年のNTTの民営化を経て以降は、伝送能力が高い光ファイバーが海底ケーブルの中心になる。
現在、グローバルではすでに総延長28万kmというケーブルが敷設されているが、モバイルやクラウドの普及、ビデオトラフィックの増加などもあり、海底ケーブルはどれだけあっても足りない現状。さらに古いケーブルの老朽化も進んでおり、保守作業も非常に重要だ。
こうした海底ケーブルの敷設や保守を請け負うのが、NTT WEマリンだ。NTT WEマリンは、親会社であるNTTコミュニケーションズや他の通信事業者からの委託を受け、海底ケーブル敷設のための調査や設計、敷設工事、保守までを一貫して手がけている。そんなNTT WEマリンが新造したケーブル敷設船が今回見学した「きずな号」である。
実は編集部による海底ケーブル敷設船の見学は2回目で、2015年8月には編集部の大塚が「すばる号」を取材している。1999年に建造されたすばる号は、国内離島へのファイバーケーブル敷設工事や、日本やアジアとの国際光ファイバーの敷設を長らく行なっており、いまだに現役である。新旧の差やコンセプトの違いを理解するためにも、以下の記事はご一読いただきたいところだ。
360度回転もおもいのまま とにかく小回りが効く船体
新造されたきずな号は敷設よりも、むしろ保守を主業務とする海底ケーブル敷設船。全長124m、総トン数9557トンのすばる号に対し、新造のきずな号は全長109m、総トン数8599トンと少し小型。最大搭載人員も60名で、やや少なめだ。60人が一度に食事をとれる食堂も用意されているが、自動化・省力化が進んでおり、最小12名のスタッフで航行できるという。航続距離は9500海里ということで、約30日間を前提としている。
きずな号のメカニカルな特徴は小回りが効くこと。船尾にある2基の電動推進機「アジマスプロペラ」と船首にある2基の「トンネルスラスター」のおかげで、360度の回転はもとより、横にそのまま移動できるという。
また、すばる号にも搭載されているDPS(Dynamic Positioning System)を採用しており、風と潮流など船が受ける外力の向きや大きさを自動的に計算し、スラスターを制御する。きずな号ではGPSとの通信で船の位置を確認し、前述した4基のスラスターの推進方向をコントロールしているため、敷設ルート上を安定航行することが可能だ。さらに1日近くかかるケーブル故障に対応すべく、揺れを押さえつつ、同じ位置で完全に静止できるという。繊細なケーブル敷設や修理にきちんと対応できる「身体能力」を備えているわけだ。
船舶において必須となる通信に関しては、データ・音声とも最新の商用通信サービス設備を備えている。データ通信に関しては、スカパーJSAT社の衛星通信のほか、NTTドコモの携帯電話網を使った自社の「マリタイムモバイルA」を採用。音声に関してはNTTドコモの衛星船舶電話「WideStarⅡ」、地球上のほとんどをカバーするインマルサット電話「IsatPhoneⅡ」が利用可能だ。異なるサービスを用いることで、安定した通信環境を実現している。