医療×保険で個人の情報を護るプラットフォーム実証実験をスタート
ロシアのサイバー攻撃に耐えたセキュリティーを継承!異なる産業をデータでつなぐプラネットウェイの壮大な挑戦
2017年05月12日 07時00分更新
さまざまな企業が持つデータの活用が、AIやIoTの機運もあり、近年改めて重要視されるようになっている。だが、その扱いにはセキュリティー上取り扱いの難しいものも多く、まだまだ十分な活用に至ってはいない。だが、スタートアップ×国家セキュリティーによる技術がキーとなる形で、情報をセキュアな状態で共有し、新たなビジネスを生み出す取り組みがスタートしている。そのコアな部分を手がけているのはプラネットウェイというIoTインフラ創出を狙うスタートアップだ。Planetway Corporationの代表取締役CEO/ファウンダーの平尾憲映氏に取り組みの背景を聞いた。
ロシアからのサイバーアタックに耐えた
エストニア国家のセキュリティーインフラを継承
プラネットウェイでは、ヨーロッパのエストニアで開発されたインフラ技術を元にしたシステムを独自に開発している。このインフラ技術は、2007年にエストニアに対して、ロシア各地からのサイバーアタックが発生したとき、その攻撃に耐え、一切の情報漏洩がなかったことで、世界的にセキュリティーの高さが認められたものだ。それこそが事業における一番のポイントだと平尾代表は語る。
「2007年のアタックを受けて無傷だったことで、2008年にNATOサイバー防衛協力センターがエストニアにできた。利用している技術はまさに国家レベルで導入するようなもの。弊社ではそれを独自に、民間用にカスタマイズして提供する」(平尾氏)
エストニアで開発された国家レベルのセキュリティー技術を活用したシステム。それが、プラネットウェイのIoTプラットフォーム『avenue』であり、そのコアテクノロジーが『avenue-cross』だ。
『avenue-cross』では、同社の持つ技術とブロックチェーンなどの先端技術や各種IDソリューションを融合させることで、各企業が持つデータを分散型でつなげて、データの完全性・セキュリティーを担保したうえで、必要な情報だけを参照できるようにするというものだ。
「『クロスインダストリーのデータアクセスプラットホーム』と我々は呼んでいます。これまで、異なる業界同士ではアクセスできなかったデータを、セキュアにアクセスできるようにすることよって、インフラを提供するだけではなく、そこで生まれる新しいサービス設計のところまでお手伝いしたい」
仕組みとしてはたとえばこうだ。『avenue-crossモジュール』をインストールした企業がA・B・C・D、4社いた場合、全社がほかの企業のデータに対してアクセスする権利を持つ。ポイントは、データを持つ企業が、それぞれどこまで開示するかをそれぞれ設定できるということだ。さらに、A社が100のうち10のデータは無料で提供、20のデータを参照する場合は一定の利用料金の設定ができる。これまで自社で眠っていたデータをセキュアな形で他社に販売することができ、新たなビジネス創出が可能となる。
もうひとつのポイントがセキュリティーだ。通常、サイトとデータベースはSQLなどで接続されているが、その部分を『avenue-cross』が受け持つ。このとき、『avenue-cross』のエンジン自体はいっさいのデータを持たないという。行なうのは、誰のデータにどこまでアクセスするかの権限付与とアクセスログ管理のみだ。
あとは、各社のモジュールが必要なデータベースに直接アクセスを行なう仕組み。このとき、必ず、各国で定められる電子署名法に基づいて、その法人が存在していることを確認しながら、タイムスタンプも同時に確認しアクセス許可を出す。モジュール内のデータは抽象化が施されており、さらに分散型であるため、コアとなるデータセンターをアタックされてもデータ自体を残さない。このため、データへの不正アクセスが難しく、さらにトレーサビリティーの高さにより、悪用されにくいという。
また、データの所有者は法人でなく個人であり、個人が自分の意思でどこまで誰に自分のデータを公開していくかをユーザーの許諾ベースで実現する仕組みも取り入れる。
プラネットウェイが採用している、エストニアのテクノロジーは、ソースコードそのものはオープン化されているものだ。大切なのは、その技術をデータベースとどのようにつなぎ、運用していくかというフレームワークを作っていくことにあると平尾氏は語る。プラネットウェイでは日米欧の開発者による独自開発も加えることで、より実用性の高いシステムを作り出しているという。
東京海上日動火災保険と医療情報共有の実証実験がスタート
この堅牢なシステムをベースに、プラネットウェイではいち早く、 実証実験を福岡市でスタートしている。パートナーは、東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)だ。また、福岡市での実証を推進するにあたり、福岡地域戦略推進協議会(FDC)の協力も得ている。
東京海上日動では、年間膨大な数の損害保険支払いを処理している。しかし、処理の大半はいまだに紙ベースで申請、処理が行なわれているという。それを1つずつ保険会社は確認し、医療機関と付き合わせていく。だが、あまりにも量が多いため、すべてのデータを付き合わせることはできず、結果、多くの請求で医療データとの突き合わせができてないのだ。
そこで『avenue-cross』の出番となる。医療データは、センシティブな個人データの塊だ。さらに保険の請求情報も同じく重要な個人情報となる。これらの個人の通院データや怪我の内容などの情報と、保険会社の持つ契約データを、『avenue-cross』を使って連携させるのが実証実験での取り組みだ。
目指すものとしては、被保険者側は手書きで申請書を書く必要がなく、保険金の受け取りが楽になり、保険会社は手続きが簡易になる世界観だ。このような先進的な取り組みが導入された病院があれば、患者側としては優先的に選ぶ対象にもなってくる。
「実際に、エストニアでもこのシステムで一番恩恵を受けているのは病院、そしてヘルスケア関連。今後は、福岡トップクラスの病院との実証実験をスタートしていくという。医療データと保険会社のデータを連係させる、スマートコントラクトの仕組み作りが目的。このほかにも、各業界の最大手と組んで、実証をしていきながら、本技術を全業界へ普及させていきたいと考えている」(平尾氏)
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