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全銀協会長が語る、日本の銀行が取り組む「利便性」の追求 小山田 隆(全国銀行協会会長(三菱東京UFJ銀行頭取))特別インタビュー

2017年04月05日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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モバイル決済やロボットによる資産運用など、金融とITを融合した新たなサービス「フィンテック」が台頭中だ。既存の金融機関はこの状況にどう対応するのか。4月に銀行の業界団体である全国銀行協会の会長に就任した小山田隆氏に聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

おやまだ・たかし/1955年生まれ。79年東京大学経済学部卒業後、旧三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。2016年三菱東京UFJ銀行頭取。02年に全国銀行協会への出向、09年に全銀協会長行室担当を経験。17年4月より現職。 Photo by Kazutoshi Sumitomo

──会長就任の抱負の一つに「利便性が高く、安心・安全な金融インフラの整備・構築」を挙げていますが、既存の金融機関は安心・安全の期待には応えてきた半面、利便性ではフィンテック事業者に劣ると感じます。どのように顧客利便性を追求していく考えですか。

 今や異業種のIT企業である米国のグーグルやアマゾン、中国のアリババ集団といった企業が、自社の持つ商流情報とリンクさせた資金の決済・調達サービスを提供しています。また、(無料対話アプリ)LINEも「LINE Pay」というスマートフォン向けの決済サービスを提供しています。

 一度そうしたサービスを経験すると、その水準がユーザーエクスペリエンス(顧客体験)として当たり前になりますし、さらに利便性が高いサービスへのニーズも高まってきている。そこへの対応が今後の重要ポイントです。

 実際に(自身が頭取を務める)三菱東京UFJ銀行では、インターネットバンクのじぶん銀行を設立し、決済などの手続きがスマホの操作だけで完結できるサービスを提供しています。また、「MUFGコイン」という独自の仮想通貨の実証実験も始めており、決済処理の効率化や将来的なコスト削減につなげることも考えています。

 他の銀行も独自でフィンテックに取り組んでおり、こうした動きは非常に大きなうねりになってくる。全国銀行協会としては、業界全体が活用できるオープンなプラットホームの構築が期待されています。各銀行のニーズや現状認識を踏まえて、相乗効果が発揮できる「場」を提供する考えです。

──近いうちに銀行の利用者は何か変化を感じることができますか。

 やはりネットバンクですよね。「リアルとネット」を考えると、今後はネットのウエートが高まる。その中で今後、リアルの店舗の機能として何を求めていくのかを考えていかなくてはいけない。また、より利便性の高いネットのサービスを充実させるためのアプローチを考える必要もある。

「リアルとネット」は大きなテーマになってくると思います。

──フィンテック事業者が金融サービスを展開する際に、銀行システムに接続しやすくする「オープンAPI(Application Program Interface)」という取り組みが、全銀協の検討会でもテーマになりました。

 銀行がさまざまなフィンテック事業者と連携しながらサービスを提供していくというのは、大きな流れだと思います。全てを自前でやろうとするとスピード感が足りない。また、顧客ニーズも多様化しているので、その全てを捕捉していくことは難しいと思います。

 連携については、各金融機関がいろいろと考えているところだろうと思いますし、そのために今回、銀行法も見直しが行われました(銀行がフィンテック事業者に出資するケースを想定して、出資規制を緩和した)。オープンAPIについてもフィンテック事業者との連携を進めるための一環です。

──銀行間の振り込みに24時間365日対応できる新システムの導入では、メガバンクや主要な地方銀行と小規模な地銀の間で、費用対効果をめぐって温度差が浮き彫りとなりました。今回も同様の事態が起こるのではないでしょうか。

 フィンテックが今後、銀行のサービスを大きく変えていくというのは銀行業界の強い共通認識で、そこに大きな濃淡はないはずです。

 ただ、地元地域やマーケットの状況、商品・サービスの戦略など多岐にわたる問題意識を踏まえた上で、何を採用するかという銀行ごとの意思決定があると思います。ですから、全銀協としては、多くのニーズに機動的に対応できるような選択肢を用意して進める考えです。今回の24時間365日振り込みへの対応もさまざまな選択が可能なかたちになっています。

──今後は銀行業界でもさらにIT人材が必要になると思いますが、現状では人材は不足していますか。

そうですね。時代の変化も速いですし、それに全て自前で時間をかけて対応するわけにもいかない。中途採用も含めて、IT分野のスキルに秀でた専門性の高い人材をどう採用していくかというのは、非常に大事なテーマになってくる。

 また、ベンチャー企業との提携も非常に重要だと思います。共同作業に取り組む中で、銀行のサービス提供力を上げていくことも考えていかなくてはいけない。

会長就任の抱負として、金融インフラに関する方針以外に「日本の経済成長への一層の貢献」「公正・健全な金融システムの維持・進化」を掲げる Photo by Kazutoshi Sumitomo

──「安心・安全」から、より「利便性」へと比重を移していく1年になるのでしょうか。

 今、日本の金融インフラが持つ決済機能やATM(現金自動預払機)の機能・ネットワーク、ネットバンクなどの新たな試みを考えると、安心・安全だけではなく、これまでも利便性について念頭に置きながら対応してきたといえます。世界的に見ても特に利便性が低いということはないと思います。

 ただ、ここにきて技術革新のスピードが速まり、顧客ニーズの急速な多様化、異業種による金融サービスの提供などによって、顧客ニーズはさらに広がってきています。それへの速やかな対応が求められており、そこは各銀行とも能動的にトライしていくでしょう。

 安心・安全と利便性をどう両立させるかは、オープンAPIの議論でも大事なテーマでした。顧客利便性の追求と顧客保護を果たすことは車の両輪で、しっかり対応していかなくてはいけません。

 ただ、顧客にとってより利便性が高い世界を考えていく中で、それに合わせるかたちで顧客保護の在り方も進化していく。どちらもさらにレベルを上げていくことが必要だと思います。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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