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任天堂スイッチのインターフェースが意外にも保守的な理由

2017年03月07日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

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発売日の3月3日には待ちわびたファンが家電量販店前に行列を作った。写真はビックカメラ池袋本店にて Photo:Rodrigo Reyes Marin/Aflo

順調な滑り出し

 3月3日に任天堂から家庭用ゲーム機の新製品「Switch」(スイッチ)が発売された。3月中の出荷台数は全世界で200万台で、おそらくはその大半を売り切るはずである。株価も3日の終値は前日(2万2875円)より大幅な上昇(2万3710円)となり、まずますのスタートといえるだろう。

 しかし、ゲーム産業の国内市場規模を見ると、2016年の家庭用ゲームソフトの市場は「ポケットモンスター サン・ムーン」の発売などもあったが2994.8億円(ファミ通調べ)と、全盛期の1996~7年の半分以下となっている。一方のスマホゲームの市場規模は伸びるペースこそ鈍化したものの、9000億円~1兆円程度。世界での趨勢も似たようなものだ。拙著『日本デジタルゲーム産業史』ではゲーム産業の現在を「市場間競争」と述べたが、家庭用ゲーム市場の現状からすると「すでに時代的使命を終えた」という意見が出てもおかしくないぐらいの逆境である。

 そういった中で発売されたスイッチが、ゲーム産業で果たそうとしている役割は何だろうか。

どんなユーザー層が購入するのか

 スマホがあればゲームができる今の時代に、わざわざゲーム専用機を買う人はどういう人だろうか。それは(1)スマホゲームでは飽き足らない層と、(2)スマホゲームで遊べない層であり、端的に言えばマニア層と、親からスマホを買ってもらえない小中学生である。加えて、(3)家族や友人とわいわい遊ぶパーティ層も少なからずいるだろう。この中でも、新機種の発売日にわざわざ購入する人たちの多くは、マニア層と言っていいだろう。

 スマホゲームにも弱点はある。タッチスクリーンを指で操作するという形式をとっており、コントローラーのようにスティックもボタンもないため、遊べるゲームのタイプを規定してしまうのだ。画面内に仮想コントローラーを用意することで家庭用ゲームとよく似た操作系を実現しているゲームもあるが、物理的なコントローラーと比べると繊細な操作は難しいし、捜査中は手で画面が隠れてしまうという難点もある。家庭用ゲームの定番ジャンルである、フィールドを探索するRPGや繊細な操作で敵の攻撃を避けるアクションゲームなどは、物理的なコントローラーを持つ家庭用ゲーム機で遊ぶ方がずっと快適だ。

 また、スマホゲームは電車での移動時間などの隙間時間で遊びやすいよう、比較的短時間で遊べるステージを繰り返すタイプのゲームが多い。長いステージをじっくり遊ぶようなゲームは、家庭用ゲーム機やPCゲームの方が豊富だし、遊びやすい。

 これまで、(1)のマニア層向けのゲーム機はソニーが強く、任天堂はどちらかというと(2)の子ども向け、および(3)ファミリー向けに訴求するゲーム機という位置づけになることが多かった。それは、スーパーマリオシリーズやマリオカート、スプラトゥーンといった、任天堂が開発しているゲームのラインナップ上の特性もさることながら、任天堂のゲーム機が独創的なインターフェースを採用してきたことが大きい。

 しかし、筆者が今回のスイッチを触ってみて感じたのは、「いい意味で普通のゲーム機」という印象である。

意外と「保守的」なインターフェース

 ゲーム機のインターフェースにこだわるのは任天堂の伝統と言ってもいい。ゲームの発展を単なるコンピュータの性能上昇だけに頼らず、貪欲に「新しい面白さ」を求める。据置機では、十字キー(ファミコン)、右側の4つボタン+LRボタン(スーパーファミコン)、アナログスティックと振動(ニンテンドー64)、加速度センサーとジャイロ機能を搭載したリモコン型コントローラー(Wii)、巨大な子画面付きコントローラー(WiiU)、と様々なチャレンジを続けている。携帯機でも、2画面+タッチペン(DS)、裸眼立体視(3DS)と常に新しいチャレンジを行っている。

 問題なのは、ニンテンドー64で搭載されたアナログスティックと振動以降、新しい試みは失敗を続けていることにある。Wiiはハード発売直後の売れ行きこそ好調だったものの、リモコン機能が生かされたゲームは少なく、逆にライバルハード(PS3)と比べて性能不足が目立つ形となり、早々に市場が終焉した。

 WiiUに至っては、ハード性能だけでなく、2画面ある独自のインターフェースがゲーム会社のマルチウィンドウ戦略(同じタイトルを複数の機種で発売する戦略)の邪魔にすらなった。DSはタッチ機能が使われていたのはハード発売初期だけで、その後は単なる2画面あるゲーム機になっていた。3DSでは2DSという、アイデンティティを否定するような廉価版ハードを発売することになった。

 過去のこういった事例を踏まえてスイッチのインターフェースを見たとき、意外と保守的であることがわかる。様々なギミックに目が行きがちだが、スイッチの操作系は横長1画面+標準的なコントローラーである。昨今の普通のゲーム機と変わらない。WiiUの時のように、ゲーム会社のマルチウィンドウ戦略から外れてしまう危険はないだろう。

 また、スイッチはスマホやPS Vitaと同様の、静電容量方式のタッチスクリーン機能も搭載しているため、6.2インチのゲーム用タブレットとして扱うこともできる。加えて、コントローラーを外して本体を直接手に持てば、スマホでよくある縦画面のゲームにも対応可能であり、その気になれば任天堂がスマホで展開しているスーパーマリオランやファイアーエムブレムヒーローズを移植することも簡単だろう。

 スイッチは既存ゲーム機とほぼ同じインターフェースを採用したことに加えて、スマホと同じ操作系も実現したことで、様々なゲームを取り込める、柔軟でしたたかなゲーム機になっているのだ。

スイッチの今後を担うパーティーゲームとポケモン

 任天堂はWii以降、据置機ではスペック(性能)競争から降りて「2台目のゲーム機」戦略をとっている。スイッチも同様であり、性能面から見た場合、2013年(日本では2014年)に発売されたPS4より優れているわけではない。「据置機にも携帯機にもなるゲーム機」と考えるより、「TVに接続するのが簡単な携帯ゲーム機」「同じ画面で対戦プレイができる携帯ゲーム機」と考えた方がいいだろう。

 スマホゲームとの違いをアピールするなら、インターネット越しでなく、目の前にいる友人と盛り上がって遊べる部分をアピールする戦略が有効だろう。任天堂はマリオカートやスプラトゥーンなど、伝統的にみんなで楽しく遊ぶゲームには強い。また、Wii以降のゲーム機では、ハード発売当初にみんなで遊ぶカジュアルなゲームをヒットさせてきた実績もある。実際、プロモーションビデオやCMではその部分を強くアピールしてきた。

 しかし任天堂は過去、WiiやWiiUでも同様のプロモーションを行ったが、パーティ向けのミニゲーム集などはアイデアが枯渇してしまうのか、すぐにラインナップから消えてしまい、結果的に「普通のゲーム機」となってしまうことを繰り返している。パーティ向けのゲームに対する、任天堂の引き出しの多さが問われることになるだろう。

 また、やはり気になるのは任天堂が持つ最大のヒットコンテンツであるポケモンである。ポケモンの最新作であるサン/ムーンは3DS用ゲームとして2016年に発売された。ポケモンは誕生日やお年玉など特別な日にだけ、年に1~2本しかゲームを買ってもらえない子どもたちに遊んでもらうためか、次のタイトル発売までの期間を最低でも2年程度空ける。そのため、次のポケモンは早くても2018年の冬か2019年になるだろう。

 その際に問題となるのは、ポケモンというゲームが「一家に一本」ではなく「一人に一本」で遊ぶことを意識したデザインだというこだ。ポケモンは自分が遊んでいるゲーム機ごと持ち寄り、プレイヤーが鍛えたポケモンを対戦させるところに面白さの1つがある。そのため、兄弟・姉妹がいる家庭では3DSやポケモンを複数購入しているケースも多い。そう考えると、スイッチの現行価格である2万9980円(税抜)は高いし、TVにつなぐためのドックも家庭には2つは要らないだろう。その頃には、ドックなし、コントローラーが外れるギミックもなくなり携帯機専用となった「廉価版スイッチ」が出ているのでは…と考えるのは妄想が過ぎるだろうか。

(芝浦工業大学システム理工学部教授 小山友介)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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